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リアクション
「新堂君、片付けのコツは『今すぐ使うもの』『捨てるか迷うもの』『いらないもの』の3つに分けること、そしてその選別は直感で行うことです。深く考えてしまうと、いつまで経っても終りませんよ」
「なるほど……」
佐那具は杉田 玄白(すぎた・げんぱく)の言葉に対し素直に耳を傾ける。
その隣には一緒に話を聞く広小路依那子の姿もあった。
「広小路君」
「はい」
名前を呼ばれて依那子は鉛筆とノートを構える。
それはまるでなにかの授業風景のようであった。
「君も新堂君が迷うものに関して、一ヶ月経ったら再度仕分けをさせるようにしてください。こういうものは協力者がいてこそ成り立つものです」
「わ、わかりました」
こうして2人に片付けのコツを教えている横で、月摘 怜奈(るとう・れな)はひたすら「いらないもの」の片づけを行っていた。
「とりあえず細かいものは一旦袋に詰めて……ふぅ、ここまで散らかっていると、掃除のしがいもあるわ」
彼女は昔、地球で刑事を務めていた。
その時から、彼女にとって書類などが散らかっている場所を片付けるのが得意であったのだ。
「おーい、そっちはどんな感じだ?」
そう言って広明は玲奈の元にやってきた。
彼女は一旦作業の手を止めて彼に向き合う。
「こっちは大分進みましたね。玄白の片付け指導も上手くいって……」
と、作業報告をしていた時であった。
どこからかパン、パンと小さな発砲音が聞こえてきた。
音の発生源が床……というよりガラクタの中から聞こえてくるのを不思議に思っていると……。
「ひっ!?」
ガラクタの隙間から一匹のGが飛び出してきた。
その後ろから【猛撃滅虫!Eジェットさん】がカタナを振りかざして猛追する。
「キャーーーー!!」
「おわっ!?」
玲奈は大きく悲鳴をあげると、広明に飛びついた。
「ちょ、この!」
広明は床に転がっていた鉄くずでGを叩き潰す。
バラバラになったGを確認した【猛撃滅虫!Eジェットさん】は再びガラクタの中へ潜っていったのだった。
「はー、びっくりした……」
玲奈は安堵のため息をつく。
そして、
「……なあ、そろそろ離れてもらっていいか?」
「へ、あ!し、失礼しました……!」
恥ずかしげな表情をしている広明から、玲奈はさっと離れる。
「スイマセン、お恥ずかしいところをお見せしてしまって……わ、私…アレだけは……Gだけはどうしても苦手で……!」
「誰だって苦手なもののひとつやふたつあるさ……もう少しここにいてやろうか?」
「い、いえ!とりあえず、いるのが分かれば大丈夫です……多分!」
顔を赤くしながら両手を大きく振る玲奈を見て「そうか」と広明は笑いながら言うと、
「無茶はするなよ。まだまだ片付けは終わりそうもないぜ」
「わ、わかりました!がんばります!」
そうして広明は彼女の持ち場から出て行ったのであった。
こうして今回集まってもらった人々にガラクタの片付けや廃棄をしてもらっているのだが、ただ捨てるだけではもったいない。
実にもったいない。
そう考える者の一人がルーシッド・オルフェール(るーしっど・おるふぇーる)であった。
「せっかく山ほどある機材や道具を捨てるなんて、もったいないよね!」
彼女は今回、片付け要員での参加というより「不要な部品を貰いたい」という気持ちでここにきていたのだ。
そう、彼女もまた佐那具のように機械いじりを趣味としている。そしてガラクタの山を嬉々とした表情で漁るルーシッドは適当な部品を見つけると、
「あ、これなんかいいかも。エリー、ちょっと来てー!」
真面目に片付け作業をしていたエリー・モリオン(えりー・もりおん)を呼び寄せた。
「なんですかルーシッド嬢?」
「ほらほら、このパーツなんてキミに似合いそうじゃない?」
そう言って素早くエリーを抱きかかえると、次々と部品をあてがっていくのであった。
エリーは彼女の腕の中で「はぁ……」とため息をつく。
「真面目に掃除やりましょうよ、ルーシッド嬢。掃除しに来たんじゃないんですか?」
「なに言ってるの。今日は貰ってもいい部品があるって聞いたからこうしてやってきたのよ。どうせ処分されちゃうんだから、貰えるだけ貰っとかないともったいないじゃない」
「……それで俺たちを駆り出したわけか」
そう言って瀬乃 和深(せの・かずみ)は軽く暴走しつつあるルーシッドの頭を小突く。
彼はルーシッドの付き添いとして片付けに参加したわけなのだが、
「これ以上物を増やしても邪魔になるだけだろうに。どうせなら佐那具さんと一緒に整理術のレッスンでも受けてきたらどうだ?隣の部屋でやってるはずだろ」
和深は彼女の真意を知り、げんなりした表情でルーシッドを諌めるのであった。
「大丈夫だよ。部品の整理はちゃんとできてるし、ボクの場合は『その内使う』んじゃなくて、『今必要』だから貰うの」
「……本当ですか?」
次々とパーツを試着され、もはやルーシッドの着せ替え人形となっているエリーは心配げに聞くとちらり、と視線を横にずらした。
そこにはいままで試着されてきたパーツによって小さな山ができていた。しかも、ルーシッドによる試着はまだまだ終りそうにない。
「頼むからほどほどにしておいてくれよ。いくら俺でもガラクタ屋敷を自宅に作るほど酔狂じゃないぞ」
「わかってるよー」
それだけ言うと、ルーシッドはうきうきとした表情でガラクタの山に身を乗り出すのであった。
と、
「キャーーーーー!!??」
唐突にルーシッドは山から飛び跳ねるように下りてきた。そしてエリーを力いっぱい抱きしめる。
「ど、どうしましたルーシッド嬢?」
「あ、あれ……」
「あれ?」
ルーシッドの指差す先を見てみると、ガラクタの間から2本の触角を揺らした黒い影が這い出てくる。
「げ、Gじゃねぇか」
和深も思わず身を引いてしまう。
「そうですねマスター。潰しておきますか?」
悲鳴をあげて抱きついてくるルーシッドのせいなのか、妙に冷静になエリーは対処を提案する。
武装も無いので踏み潰そうとするエリーだったが、
「やめてエリー」
ルーシッドはエリーをひょい、と持ち上げると後方に追いやった。その様子はついさっきまで悲鳴をあげていた彼女とは思えない。
「ルーシッド嬢?なにを……」
「Gはねぇ……」
彼女はどこからともなく取り出した『パイルバンカー内蔵シールド』を装着した。
慌てて和深が「お、おいやめ……!」と止めに入るが、
「こうして跡形も無く消し飛ばしてやるんだから!」
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