天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

新米冒険者のちょっと多忙な日々

リアクション公開中!

新米冒険者のちょっと多忙な日々

リアクション



■第一幕:メンテナンスあんどハプニング

 イコン実技訓練の第一講義が終わった東雲姉弟の前に移動整備車両キャバリエが止まった。操縦席から降りてきた長谷川 真琴(はせがわ・まこと)クリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)が二人に挨拶する。
「はじめまして。私がイコン整備の講義を担当する長谷川 真琴です。こちらは実際に整備の担当してもらうクリスチーナ・アーヴィン」
 長谷川に紹介されてクリスチーナが一歩前に出る。
「よろしくね。今回、使うのはプラヴァーか。こいつは通常のイコンに比べて操縦や整備がしやすいから初めて乗るにはピッタリだからね」
「思ったより動かし難かったわ」
「そのうち慣れるよ」
 はは、とクリスチーナは笑うと風里の肩を叩いた。
 気安い人のようだ。
「蒼空学園だとイコンに関しては専任の整備士がいると思いますが、パイロットも自身の機体を理解すると言う意味で簡単な整備が行えるようになると何かと便利です」
 ガレージの奥で整備を続けている人たちを見た。
 彼らが専任の整備士たちなのだろう。
 長谷川は東雲姉弟に向き直ると続けた。
「例えば出撃中での不意な故障に対する応急処置。帰還後に整備士へどこをやられたかなど、明確な意思疎通が出来るようになります。それに改造をするときも機体の基本的な構造を理解しておけば、無理な改造や間違った改造をしないで済みますから」
 彼女は車両から数枚の書類を持ってくると東雲姉弟に手渡した。
 ページをめくると多種多様なイコン、自分たちが乗ったプラヴァーの構造などが書かれている。
「それが整備マニュアルになります」
「思ったより分厚いわね」
「当然だよ。これは地球製の機械ってだけじゃない。高度な機晶技術を使用した、地球とパラミタの両技術の結晶なんだよ」
 クリスチーナが腰に手を当てて言った。
 なるほど、と東雲姉弟は頷く。
 真面目な様子の二人を見て、模範生でなによりと長谷川は講義を続ける。
「今日は天御柱でも実際にやっている方法でやっていきたいと思います。使用機体がプラヴァーということなので渡したマニュアルのプラヴァーの項目を開いてください。整備する機体に関しては訓練用の機体を学園から借りましたのでそれを使います」
 長谷川に案内されて連れて行かれた先には一体のプラヴァーが鎮座していた。
 他の機体に比べて傷が多く見える。どうやら整備前のものらしい。
「それでは早速マニュアルを見ながら実際の機体を整備しましょう。機材や資材で必要なものや質問はどんどん言ってくださいね。さあ整備開始です」
「っと、その前にあたいから一つプラヴァー整備の注意点を。それは『装備パックとの接続部』だよ。ここをきちんと留めないと重火力パックならキャノンの反動で、高機動パックならブースターの反動で本体からパックが外れちまうからな。あと乗る時はサポートシステムをオンにしておいた方がいいよ。こいつは操縦だけじゃなくパイロットの安全確保も兼ねてるからね」
「近接戦闘型と長距離戦闘型のことね」
「高軌道パック仕様かっこいいなあっ!」
 マニュアルを開きながら風里と優里が各々の感想を述べる。
 クリスチーナと長谷川の指示の下、整備を初めて一刻ほど過ぎた頃、ガレージがにわかに騒がしくなった。何事かと皆がそちらに顔を向ける。騒ぎの中心には綺麗な青髪をした少女の姿があった。
 シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)だ。
「イコンは人類の敵、それに好き好んで乗る奴も同罪よ!」
 彼女は言うと周りの制止を振り切って東雲姉弟の方へと駆けてくる。
 腕の良い冒険者なのだろう。その動きは素早く、そして力強い。
「そう遠くないうちにイコンが人にとって代わるようになるのよ。イコンに関われば不幸になるわ」
 彼女は二人に言い聞かせるように述べ、駆け寄った勢いそのままに拳を整備中のプラヴァー、その脚部に打ち込んだ。ゴオンッ、と重い金属音がガレージ内に鳴り響いた。とても素手で殴った様には思えない一撃だ。
 イコンの装甲に傷はついていないが衝撃は届いた様子で、プラヴァーがその場に崩れ落ちた。
「過激ですね……」
「さすがにあたいでもあんな馬鹿力のやつは止めらんないよ」
 長谷川とクリスチーナが成り行きを呆然と眺めている。
 東雲姉弟も同じ心境なのだろう。
 プラヴァーを壊そうと打撃を繰り出す彼女の姿を見ていた。
「フィス姉さんったら……また無茶をして」
 前の訓練の時に会ったことのある女性、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が暴れているシルフィスティに近づいていく。
「お久しぶりです、リカインさん」
 優里が挨拶をするが風里は顔をそむけて彼女を見ようとしない。
 どうやら訓練の時を思い出しているようで、何やら耳を塞いでいた。
「風里ちゃんは強化人間だからかしら。勘が良いのね」
 話したその直後であった。
 オオオオォォゥ、という雄叫びのような声が彼女を中心に発せられた。
 衝撃をともなったその声にシルフィスティはその動きを止めた。
「ああううぅ……」
 咆哮の直撃を受けた優里がふらふらと頭を揺らしている。
 長谷川たちも突然のことに対処できず、優里と同じようにふらついていた。
 耳を塞いでいた風里だけは無事かと思いきや、他の人たちと同じような状態だ。耳を塞ぐだけではどうにもできなかったようだ。
「リカ……?」
「帰りますよ、フィス姉さん」
「いや、でも――」
「姉さん?」
「いっ!? 痛い、痛いってば、耳は引っ張らないでよ。リカってば――」
 ずるずるとリカインに引きずられていくシルフィスティの姿を皆が唖然とした様子で見送る。ガレージから出ていく彼女たちから視線を外し、ガレージ内に戻すと鎮座していたプラヴァーが軒並み倒れていた。どうやら先ほどの咆哮の影響のようだ。
「とんでもないですね」
 その様子を眺めて長谷川が呟いた。