校長室
カルディノスの角
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終章 白鹿の彫刻亭 2 遠野 歌菜(とおの・かな)と月崎 羽純(つきざき・はすみ)は、料理も担当していたけれど、給仕係も一緒にしていた。 昼間はおかみさんと一緒にスープやパンの仕込みをした。だけど、依頼にいってくれたみんなが帰ってきた後の夕方以降は、それらを店へと運び込むウエイトレスとウエイターに早変わり。次々に出てくる料理を、どんどんテーブルへと運んでいった。 「羽純くーん! これ、どこに置けばいいー!」 「七番テーブルと五番テーブル! 『ホメズアンズの果実酒〜北域仕立て〜』は一番テーブルさんへ!」 「あーん、もう、わからないー!」 お店があまりに忙しくて、歌菜の目はくるくると渦を巻く。 それに比べれば、羽純はすごい。次々に注文されるものを、すべてピッタリのテーブルに提供していた。 同時に、笑顔のサービスも忘れない。料理に合うようにってことで、歌菜と一緒に選んだお酒や飲み物を、一緒にテーブルに添えていた。 「あーあ……私も羽純くんみたいに上手く出来たらなぁ」 「努力あるのみだ、歌菜。それに、物事には得手不得手ってものがあるからな。がっかりすることはない」 言いながら、羽純は踊るように次の注文をとる。 歌菜もすこしずつ料理を運びながら、それをちょっとでも手伝えるように頑張った。 まだまだ、お店は忙しくなりそうだった。 厨房の奥。さらにその隅の水洗い場で、柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)は黙々と皿洗いをしていた。 別に進んでやってるわけじゃなかった。パートナーのアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)に強制的に連れてこられたのだ。今さら逃げるわけにもいかず、仕方なく店の手伝いをやらされているのだった。 アルマは桂輔と違って、ウエイトレスの仕事をしていた。 着々と料理を運んだり、注文をとったりしている。ちょうど水洗い場の前にあるカウンターからも、その様子が見えた。 アルマが戻ってきたのを見計らって、桂輔は問いただす。 「あの〜、アルマさん。どうして俺はこんな仕事をやらされてるのですか?」 答えはすぐに返ってきた。 「決まってるじゃないですか。どこかの誰かさんのせいで、観光地でお金を使いすぎてしまい、金欠だからですよ。だからこうして、日雇いとはいえ割の良いバイトを探してきたんです」 桂輔はすぐに言い返した。 「いやでも、観光で使ったのはアルマの衣装代がほとんどで……」 そう言うと、アルマはギロリと桂輔を見返してきた。 「その服を良からぬ企みの為に買ったのはあなたでしょう!」 ウエイトレス制服の下にでも仕込んでいたのか。いつの間にか握られていた拳銃の銃口が、ガチャッと桂輔に突きつけられた。 「わかった! わかったから! ちゃんと働くから、銃をこっちに向けるな!」 桂輔が慌てふためくと、アルマは銃を服の下にもどした。 まったく、なんて奴をウエイトレスに雇っているのだ。すぐに銃を向けるのがアルマの悪い癖だ、と桂輔は思っていた。 「ま、働くは働くけどよぉ。アルマだって、ちゃんと仕事をまっとうしなきゃダメだぜ?」 「私はちゃんとやってますよ。注文も接客も完璧です」 「いやいや、まだまだ足りないことは山ほどあるさ」 桂輔はニヤニヤした。 「例えば、『笑顔』での接客とかな」 「笑顔?」 アルマは考えもつかなかったというように聞き返した。 「そう。アルバイトとはいえウエイトレスなんだったら、笑顔での接客は基本だぜ? たとえお客さんからどんなことをされても、常にスマイルスマイル。たとえ、どんなことをされてもね」 「う……わ、わかってます。笑顔ですね。笑顔……笑顔……」 アルマはぶつぶつとそうつぶやきながら、無理に笑顔をつくって店の中へと戻っていった。 こう見えても、アルマはひいき目ではなく可愛い女の子だ。客の中には酔っ払った迷惑な客もいるらしく、アルマのお尻を触ろうとしたり、無理に隣の席につかせようとしたりするセクハラも目立っていた。 最初こそ、アルマは我慢していたが、しだいにその顔がひきつっていく。 時間の問題か……と桂輔は思っていたが、案の定だった。 しばらくして、ひくひくと唇を動かしていたアルマは、「いい加減にしなさああぁぁい!」と、店の中で銃を乱射し始めた。セクハラを働いていた客は慌てて逃げ出す。 これでバイトもクビだろうか? と、桂輔はなんとなくホッとした気持ちになった。 だが、その予想とは違って、なぜか店の中は拍手喝采。「いやー、思い切りの良い姉ちゃんだ」「いいぞいいぞもっとやれー」と、アルマをはやしたてる声が、店の中に広がっていった。 桂輔はまだまだ働かされることにうんざりした。 「うふふふふ! こういう可愛い服を一度は着せてみたかったんですのー!」 店の中で、退紅 海松(あらぞめ・みる)のそんな声をあげながらはしゃいでいた。 海松の目の前にはビクルの姿があった。ただし、普段着ではない。海松が持ってきた特別製のフリルがたくさんついたドレスや、甘いスイート系の洋服などを着せられているのだ。ビクルはもはや何も言えず、顔を真っ赤にしている。シャディがくすくすと笑っていた。 本当は、ビクルはその場から逃げ出したかった。だけど、自分たちを助けてくれた相手に、そんな無碍にすることも出来ず、海松の着せ替え人形とされてしまっていたのだ。 「あ、あの、海松ねーちゃん……もう脱いでもいいかな?」 「ダメですわ! まだまだ洋服はありますわよ! さあ、次はどっちがいいかしら?」 海松は両手にたくさんの洋服を抱えて、にっこり笑った。 「うう……」 ビクルの心は、涙でぼろぼろだった。 天野 木枯(あまの・こがらし)と天野 稲穂(あまの・いなほ)は、カルディノスの肉をたっぷり使った料理をつくっていた。 せっかく角のエキスを使うのだ。きっとお肉とも相性は抜群だろう。 木枯は女だてらに出刃包丁を軽々と使って、カルディノスの肉を解体していった。頭部、胴体部、腕、太股、足……鱗はしっかりと剥がして、肉は次々と素材に変わっていく。 稲穂が、それをおかみさんのもとに持っていった。 「おかみさん、どうぞ」 「うひゃー……こりゃあ、すごい量だねぇ。作りがいがあるってもんだよ」 おかみさんが感心する。木枯がそれを聞いて、大きな声で言った。 「せっかくだから、豪勢にいきたいじゃない! それに、保存もしておきたいしね!」 「もしよかったら、持って帰りたいんですけど……ダメですか?」 稲穂が小首をかしげながらたずねた。 「ダメなわけないじゃないか。これだけあれば十分さ。余ったものは好きなだけ持っていきな」 「ホントですか!」 稲穂が跳びあがって喜ぶ。「わーいわーい」と子どもみたいにはしゃいだ。 これなら、旅の保存食にも使えるだろう。木枯はどうやって分けようかと考えながら、肉を切り続けた。 大繁盛の店が閉店して、仕事を終えた人たちは最後の催しに乾杯した。 出されたのは、羽純と歌菜がつくってくれたまかない料理だった。 丼物の料理で、珍しくお米を食べたというおかみさんは大喜びだった。 店の手伝いをしていた人たち。角を採取してきた人たち。それに、カルディノスの身を案じていたエースやリリアの姿もそこにはあった。食事を取る前に、みんなは今日の糧が得られることを感謝した。それが、カルディノスだけではなく、食べられる獣たちに対する敬意だった。 今までは、簡単にそれをこなしていたシャディとビクルも、その意味がようやくわかったような気がした。 みんなでテーブルを囲んで、楽しい時間を送る。 クロネコとノアはいまだに言い争っているし、ビクルは恭司、恭也、エヴァルトなど、憧れの男たちの間で冒険譚に耳をかたむける。シャディは、理沙たちから、お洒落や料理について話し合っていた。 「さてと、じゃあ今日の報酬をあげようかね――」 おかみさんがそう言うと、仕事をこなしてきた契約者たちは、我先にとおかみさんのもとに殺到した。
▼担当マスター
夜光ヤナギ
▼マスターコメント
シナリオにご参加くださった皆さま、お疲れ様でした。夜光ヤナギです。 「カルディノスの角」、いかがだったでしょうか? 久しぶりのバトルものみたいになりました。 書いていて新鮮な気分がして、楽しかったです。 もちろん、皆さんのアクションも楽しませていただきました。 すこしでも喜んでいただけたなら、執筆した本人としては嬉しく思います。 それでは、またお会いできるときを楽しみにしております。 ご参加ありがとうございました。