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第六章 激突! 親玉カルディノス! 1

 シャディとビクル。二人の子どもとカルディノスの間に、桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)が飛びこんでいった。
 目にも止まらぬ速さだった。加速したスピードをそのままに、煉は両手でしかと握り込んだ刀で、頭上からカルディノスの口を切り裂いた。銘刀雪月花と呼ばれる、青白く光る刀だ。抜けば玉散る氷の刃。その呼び声に最もふさわしいものだった。
 鼻先から顎までに鋭い傷を負ったカルディノスが、悲鳴のような声をあげた。
 そのカルディノスは、これまでのものとは比べものにならないほど大きかった。それだけではない。鱗の色も赤褐色をした色味で、どこか普通のカルディノスとは違う異様さがあった。直感的に、煉は感じ取る。これは、ここらのカルディノスを治める親玉なのだ。
「なんとか間に合ったようだな」
 煉がつぶやく。それから、煉の後についてきたエリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)が、盾をかまえた。
 カルディノスが反撃に打って出たのだ。のたうちまわるように暴れる尻尾を、盾が受け止めた。
 煉がビクルとシャディを見ながら言った。
「シャディ、それにビクルだな? まったく、冒険はいいが、女の子を危ないことに巻き込んだらダメだろうが」
 ビクルは言われて、ぼそぼそっとした声で「ごめんなさい」とつぶやいた。
「まあ、いいじゃない。とにかく無事だったんだから」
 エリスがフォローするように言う。
「それよりも早く、二人を安全な場所に」
「カルディノスの相手は俺に任せろ。二人は頼んだぞ、エリス」
「ええ、わかったわ」
 煉は刀をかかげて、カルディノスに立ち向かっていった。恭司も、拳を武器にカルディノスの気を引きつける。
 その間に、エリスやフィーナたちが、二人の子どもを安全な場所まで運ぼうとした。
 そのとき、聞こえたのはある男の声。
「こっちに任せろ!」
 エリスとフィーナはその声の主を見ると、すぐに二人の子どもを手渡した。

 二人を抱えたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、そのままドラゴンアーツの力で地底湖まで駆け抜けていった。
 地底湖に飛びこむ――と、一瞬思うが、空飛ぶ魔法で水上すれすれのところを飛行する。
 水上オートバイに変形したホエールアヴァターラ・クラフト。それに乗るイグナイター ドラーヴェ(いぐないたー・どらーべ)が、エヴァルトに追いついた。
「エヴァルト! 子どもたちをこちらへ!」
「ああっ! 頼んだぜ、イグナイター!」
 エヴァルトは二人の子どもをイグナイターに向かって放り投げた。
 見事、イグナイターがそれをキャッチする。同時に、エヴァルトは背後に向けてシリンダーボムをぶん投げた。
 それはちょうど翼をばたつかせて飛び立とうとしていたカルディノスに当たり、周りに爆音をとどろかせた。
 その姿をイグナイターの両脇に抱えられる子どもたちが見ていた。
「ふむ……ひとたび危険が迫れば、我が身をなげうってでも戦いに身を投じる。良き育ち方をしたものだ」
 イグナイターが言う。
「二人とも、あれなるが戦士の姿よ。よく見ておくがいいぞ」
 ビクルとシャディはエヴァルトの姿を目に焼きつけた。
 自分たちを守るために必死に戦う白銀の髪の男の姿は、お話や噂でしか聞いたことのなかったヒーローを思わせる。爆発によって吹き荒れた粉塵の中を、猛スピードで駆け抜けるエヴァルトが、ビクルには憧れの存在にも見えた。

「よっと……」
 風羽 斐(かざはね・あやる)は、イグナイターが連れてきた二人の子どもたちを受け止めた。
「二人とも、大丈夫か? ったく、こんなところまで来るなんて、無茶をする……」
 感心するような呆れるような顔で、斐は言った。
「さっと帰らないと、みんな心配してるぞ。美味しい〈白鹿の彫刻亭〉の料理も待ってることだしな」
「オッサン……料理で釣るのはどうかと思うけどな」
 翠門 静玖(みかな・しずひさ)が言った。
 どうせオッサンは怒る気はないのだろう。それは自分たちではなく、親の役目だ。シャディとビクルに笑いかける斐を見ながら、静玖はそう思った。それから静玖は、地底湖の向こうでカルディノスの気を引きつけている朱桜 雨泉(すおう・めい)に呼びかけた。
「雨泉! こっちは無事だ! 早いところ、この場を切り抜けよう!」
「ええ、分かりましたわ! お兄様!」
 雨泉がこたえる。カルディノスの爪が大地をたたき割り、雨泉はそれを寸前で避けたところだった。

 藍華 信(あいか・しん)が、カルディノスに向かって矢を射貫く。
 硬い鱗はそれをたやすく弾き返したが、信へと注意は向いたようだった。
「どうした! カルディノス! 俺はこっちだぞ!」
 信の挑発に乗ったカルディノスは、攻撃を信に仕掛けてきた。
 爪が大地を削りながら信へと迫ってくる。寸前でそれを避けて、信は距離を取った。
 機晶ブースターで加速しながら飛んできたアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)が、その間に割って入った。
「子どもたちは無事ですか!」
「なんとかな」
 と、信は答える。地底湖の向こう側。遠くで保護されている二人の子どもを見て、アイビスはほっとした。
「にゃにゃにゃ〜」
 アイビスの肩に乗っているちび あさにゃん(ちび・あさにゃん)も嬉しそうに言う。
 契約者の榊 朝斗(さかき・あさと)が不在なだけに心配だったが、なんとか子どもは救い出せたようだ。アイビスは気持ちを切り替えて、カルディノスの気を引きつけることに専念した。