First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
Next Last
リアクション
『現れた巨大猫に、契約者たちは』
●?
――そこは、猫によって消された者たちがさまよう空間。
出口なき空間を、彼らは死に絶えるまで迷い続けるのだ――。
「わーこっち来るなですーって言ってるのにどうして追ってくるですかー!」
「それは猫だからだろう。伊織の事を鼠か何かだと思っているのではないか?」
必死に逃げる土方 伊織(ひじかた・いおり)と馬謖 幼常(ばしょく・ようじょう)の背後から、数メートルに巨大化した猫が追ってくる。猫の跳躍力を考えるとひと飛びで捕まりそうなものだったが、猫が遊んでいるらしくギリギリの所で捕まらない。
「どうやら、こちらを本気でどうにかするつもりは無さそうだな」
「だ、だからってこのままじゃバテバテ〜ですよ。なんとかしないとです」
伊織の懸念通り、空間はどこまでも続いているように広がってはいるが、いつまでも逃げていられるわけではない。なんとか猫の対処をする必要があった。
「策士たる俺が、このような策に嵌るとはな……」
「何時も通りじゃないですか?」
「な!? お、お前、今何と言った! 俺がいつもこのような様なはずがなかろう!」
「あ、暴れないでー落っこちるです。じゃ、じゃあ、ようじょさんが猫の遊び相手になってあげれば」
「それこそ馬鹿を言うな! あんなのの相手など、命がいくつあっても足らんわ!」
「でもほら、ようじょさんの設定にこう書いてあるです」
言って伊織が、何かの紙を取り出す。左上に幼常の全身絵が描かれたそれの左下には、こう書かれていた。
『英雄技は「泣斬馬謖」
効果は、自身が犠牲(弄られる)代わりに自軍の士気が増える』
「……ふざけるなーーー!! 誰だこんな事書いたの――うわぁぁぁ!?」
思わず手を離して飛び上がってしまったため、幼常は伊織の操縦していた箒から落っこちる。幸い猫によって地面に激突することは免れたが、それは同時に猫に思う存分弄られる事を意味していた。
「や、やめろ、離せ、こら、どこを触っている!」
見た目は完全にようじょな幼常が、猫の手によっていいように弄ばれる。
「ぼ、僕は18歳未満だから、見ちゃダメなのです」
くるりと背を向ける伊織の背後で、幼常と猫のGが付かないRな展開が繰り広げられる――。
しばらくすると猫は満足したのか、すやすや、と眠ってしまった。すると二人の目の前に光る扉のようなものが現れる。
「猫を満足させると道が開ける仕様だったみたいですね。幼常さんお手柄です」
「……ふ……ふふ……俺の人生、なんなのだろうな……」
伊織が振り返ると、あちこちがボロボロになった幼常が膝を抱えてうずくまりながら何かをつぶやいていた。どうやら相当な精神的ショックを受けたようである。
「はわー元気出してくださいです。道も出来ましたし、この先で豊美さん達も元気にしてるはずですよ」
目から光の消えた幼常をなんとか引っ張り上げ、伊織は光る扉をくぐる。
「うおおぉぉい! なんだなんだ、変なとこ飛ばされたと思ったら巨大猫が追ってきやがるなんて聞いてねえぞ!」
別の場所では、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)が現れた巨大猫から必死に逃げていた。やはり猫は遊んでいるらしく、一気に襲い掛かろうとはしない。
「これはあれか? 俺はあいつの遊び相手になれってことか?
冗談じゃねぇ、捕まったら最後、手足をちぎられてポイーされちまうだろ!」
猫が昆虫などの相手をする時は、だいたい昆虫の脚が散乱している事が多い。それを思えば、恭也の悲鳴も妥当な想像と言えた。
「ちくしょう! 黙ってやられるわけにはいかねぇ! 調査の邪魔なんだ、悪いが大人しくしてもらうぜ!」
踵を返し、恭也が鎧を装備した格好で仁王立ちする。相手に実際よりも大きく身体が映るという鎧の効果で、少しは猫も怯むかと思いきや、
「ニャアアアァァ!!」
全くそんなことはなく、その巨体を思い切り伸ばして恭也に飛びかかる。
「あっ、ちょっ! 俺玩具じゃねぇから! じゃれつくの止めてぇ!」
組み付かれたら最後、猫は飽きるまで離してくれそうになかった。
「いや、お前等にしたら遊んでるつもりでも、俺からしたら死亡遊戯だよ!?」
確かに、猫に取って食べるつもりは無くともこの体格差である。猫パンチの一撃で手足や首が吹っ飛んでもおかしくない。
「結局こうなるしか無いのか……」
抵抗すればそれだけ体力を奪われると悟った恭也は、致命傷を負わないよう注意しながら猫が飽きるのを辛抱強く待った――。
そして、猫は十分遊んだ後どこかへ去っていった。
「はぁ、はぁ……て、手強い相手だったぜ……」
鎧を剥がされ、服のあちこちを裂かれつつ、恭也が肩で息をして無事であることに心底安堵する。
「お、何だこの扉は。……とりあえず他に道もねぇし、進んでみるか」
この扉をくぐった先に、また別の猫が居ないことを祈りながら、恭也はその光る扉をくぐる。
突然現れた巨大猫に、何人もの契約者が翻弄されていった。
しかし中には、ちゃんと連携し合って逆に翻弄し、退ける者たちも居た。
「愛と正義と平等の名の下に!
革命的魔法少女レッドスター☆えりりん! アルティメットモード!」
純白のドレスを纏い、新体操のクラブのような『まじかる☆くらぶ』を携えた藤林 エリス(ふじばやし・えりす)が、現れた巨大猫と対峙する。
「ここのどっかに豊美と魔穂香が居るって話だけど、見当たらないわね。
ま、とりあえずこの化け猫やっつけて、さっさとこんな空間から脱出して、事件解決した後はあたしたちもお祭り楽しみましょ!」
エリスが背後の二人、アスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)とマルクス著 『共産党宣言』(まるくすちょ・きょうさんとうせんげん)に呼び掛ければ、二人もそれぞれおー、とやる気を見せる。
「猫さんは昔から、魔女の使い魔って決まってるんだから。
魔女に歯向かう悪いネコさんは、お仕置きだよ★」
アスカが箒に乗り、上空から魔砲ステッキのレーザーで接近戦を行うエリスを援護する。主に顔を照射され、猫は嫌がるように顔を背ける。
「よそ見している暇があるのかしら?」
そこにエリスが飛び込み、手にした『まじかる☆くらぶ』をガラ空きのお腹に打ち込む。魔法少女が誇る最強の接近攻撃をもろにくらい、それだけで猫はきゅう、と地面に倒れ伏す。図体こそ大きいものの、いざ本気で戦うとそれほど強敵ではなかったようだ。
「はい、これで少し、頭冷やそうか?」
目を回す猫の頭に、『共産党宣言』が持っていたレインボージュースをかける。すると猫は飛び上がって一目散に逃げてしまった。
「あら、逃げたわね。せめてここから出る手掛かりでも問い詰めようと思ってたのに」
エリスがそう言った所で、空間に突如、光る扉が現れた。
「エリスちゃん、この扉何だろう?」
「ま、状況から見て、あの猫をやっつけたから道が開けました、ってところね。
この先に豊美と魔穂香が居ると楽なんだけど。とにかく行きましょ」
「分かりました、同志エリス」
戦闘を終えた一行は、出現した光る扉をくぐる。
さらには、猫を手懐け、その柔らかな毛並みを堪能する者たちも居た。
「……ハッ! あ、あれ? 確か私達、屋敷の猫さんをもふもふしに来たはず――」
ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)とサリア・アンドレッティ(さりあ・あんどれってぃ)、ティナ・ファインタック(てぃな・ふぁいんたっく)が辺りを見回していると、
「ニャア〜」
頭上から猫の鳴き声がする。三人が上を見れば、数メートルに巨大化した猫が見下ろしていた。
「――――」
あまりの事態に、三人が一瞬固まってしまう。そこから普通なら「うわーーー」と逃げ出すのだろう。
だが、彼女たちは違った。
「きょ……巨大な猫さん……巨大な、もふもふ!」
キュピーン、ミリアの目が巨大猫をロックオンすると、サリアとティナに向き直る。
「これはもう……もふるしかないわよねっ!?」
「うん、私もおっきな猫さん、いっぱいもふもふするっ!」
にっこり頷き、サリアは向かって左側(猫の右側)に駆け出すと、そのふさふさとした毛並みにばふっ、と飛び付く。
「私は背中よっ!」
ミリアが地を蹴り、まるで舞うような華麗な動作で猫の背中へ着地したかと思うと、全身でもふり出す。
「ま、待って、ミリア! サリアもっ!
私にも……私にももふもふさせてっ!」
二人に遅れてティナが、向かって右側(猫の左側)に走り、やはり全身で猫をもふる。
「うにゃにゃ〜」
すると、猫はまるでマタタビに酔ったようにくた、と脱力し、地面にべたり、と寝そべる。ミリアの『もふもふしたものをもふもふする技』は、もし『もふもふ世界選手権』なるものが開催されるとしたら殿堂入りするくらいの腕前に到達しており、もふもふを持つものはすべからく彼女たちの前に跪く(主に懐く)、と思う。
「お姉ちゃんのもふもふは凄いの。私もいつかお姉ちゃんのもふもふをマスターしたいなぁ……」
「サリアのもふもふは将来有望よ。私が保証するわ。
……あぁ、それにしてもなんてもふもふなの……これだけ大きいのにとってもやわらかで、すべすべ……」
「いいなぁ、私も二人みたいなもふもふを使いこなしてみたいわぁ……」
ミリアとサリア、ティナはすっかり、猫のもふり具合に魂を抜かれたように呆けていた。猫も満足しているようである。
「……私、すっかり蚊帳の外、なの。
お屋敷さん、探検してみたいなぁ……ここから出られたら、探検できるかなぁ……」
三人が猫をもふる一方で、及川 翠(おいかわ・みどり)は一人、屋敷の事に意識を巡らせていた。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
Next Last