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【猫の日】猫の影踏み――消えたお菓子と契約者――

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【猫の日】猫の影踏み――消えたお菓子と契約者――

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『解決へ至る道』

●屋敷:2階左

「…………、うん、大丈夫そう。マロン、アヤカ、来ていいよ」
 1階左奥の階段から2階に上がった所で、レテリア・エクスシアイ(れてりあ・えくすしあい)が猫の気配がないかを探り、安全を確認して鷹野 栗(たかの・まろん)羽入 綾香(はにゅう・あやか)を呼び寄せる。
「さて、この奥には何が隠されておるのかの。魔法と科学に関するものがあるとよいのじゃが……」
 綾香が扉を開くと、目の前には誰かの私室と思しき佇まいが広がる。一つのベッドに一つのクローゼットの他は、本がギッシリと詰まった本棚が並べられていた。
「ここは……誰の部屋? 1階には研究員の部屋があったそうだから、じゃあここは……所長さんの部屋?」
 そうアタリをつけた一行は、部屋の調査を開始する。栗が『猫に関係するもの』、レテリアが『お菓子に関係するもの』、綾香が『魔法と科学に関係するもの』を重点的に探していると、まず栗が机の上に猫の写真立てを見つける。
「ここに映ってるのって、所長さんと……娘さん、かな?」
 写真に映っていたのは、人柄の良さそうな父親と娘だった。猫のぬいぐるみを抱いて幸せそうな顔に、思わず一行の顔が綻ぶ。
「こんなものを見つけたよ。これは随分読まれた後があるね」
 次いでレテリアが本棚から、お菓子のレシピが書かれた本を見つける。その本はあちこちに折った後がついており、かなりの回数読まれた事が見て取れる。
「写真のお父さんが、娘さんのために作ってあげたのかな」
「お母さんが読んでいたのを、大切に持っていたのかも。その場合お母さんはちょっと、残念な話になっちゃうけど」
 憶測を話し合うレテリアと栗の横で、綾香は本棚を見上げてううむ、と唸る。
「これだけの本をよく集めたものよ。これほどあっては私にも、どの本が手掛かりなのか見当がつかぬ。
 見たところ、科学の本が殆どで魔法の本は僅かであるようじゃがな。研究テーマであった新エネルギーは、科学寄りの代物であるということかの」
 それからも調査を続け、判明した点は、

・研究者は何かのチームのリーダーであった
・ここには所長という形で着任し、彼の下には一人娘が居た
・その娘はどうやら、不慮の事故で亡くなったようだ(これはこの階の情報ではなく、別の場所から)
・それから所長(研究者)は変貌してしまい、当初の目的を見失った。
 所員も少なくなっていき、最後には所長一人になってしまった

 であった。
「まだ分からないのは、娘さんが亡くなってしまったという事故と、所長さんがその後どうなったか、だね」
「そうだね。ここにはもう手掛かりがないみたいだから、次の場所へ行こうか」
「うむ」
 一行が頷き、部屋を出て別の部屋へと足を運ぶ。


●屋敷:2階右

(あれ? ここ、何かおかしい……なんだろう、違和感を覚える)
 右奥の階段を上がり、2階の右側へやって来た霧島 春美(きりしま・はるみ)が、目の前に広がる景色に違和感を覚える。そこは何故か、廊下があるにもかかわらず部屋へ繋がる扉が一枚もなかったのだ。
(…………、壁の向こうに空気の流れを感じる。元々この先には部屋があったはずなのに、何かの理由で扉を取り外したの?)
 超感覚のうさ耳を壁の向こうへ向ければ、コォォォォ……という音が聞こえてくる。少なくともこの先には、何かしらの空間が存在しているはず。
(扉があった場所があるはず、まずはそれを探しましょう)
 ルーペを手に、春美が壁を念入りに見て回る。そして確かに、かつてここには扉があったであろう場所を見つけるが、そこはしっかりと埋められており、ちょっとやそっとでは壊せそうになかった。
(強引に破る……のは、スマートなやり方じゃないわね。他を探しましょう)
 契約者の力をもってすれば、そのくらいはなんとかなる。だがそれは春美の『マジカルホームズ』としてのやり方としては相応しくない。あくまでどうにもならなくなった時の最終手段と捉え、春美は別の場所を調査する。
(にゃんこさん、もふもふしたかったなぁ……。事件が解決出来たら、もふもふ出来るかな)
 調査の合間にそんな事を思いつつ調べていると、足元付近の壁の一部が薄くなっているのを見つける。そこにもどうやら扉があったようだ。
(これ……猫の通り道かしら。……うん、これなら今のままでも壊せそう。このくらいなら――)
 力を込めてその部分を押せば、乾いた音と共に壁が壊れ、
「きゃっ!?」
 ズボッ、と春美の身体が肩くらいまで埋まってしまう。随分と大きな猫用に作られていたようだ。
「いたた……って、ここは――」
 春美が飛び込んだのは、どうやら子供部屋であるようだった。子供用の小さなベッド、机、クローゼット、本棚、そして辺りを埋め尽くすほどの猫のぬいぐるみ。
「ここの住人は、よほど猫好きだったのね。……なんだろう、でも、この、違和感。
 まるで、さっきまで子供がここで遊んでいたみたいな感じの……」
 春美の発言を裏付けるように、いくつかのぬいぐるみがベッドや床に散乱したままになっていた。ぬいぐるみが傷ついていたら強引に連れ去られた、も考えられるが、転がっている以外は傷ついている形跡がない。
「もっと調べる必要があるわね……あれ? ぬ、抜けない?」
 動こうとして、春美は自分がこの穴にすっぽりとはまってしまった事に気付く。
「あーん、こんなのってないよ〜!」


●屋敷:地下1階

 正面奥の階段を降り、目の前の重厚な扉に御神楽 舞花(みかぐら・まいか)がそっと手を触れる。
(この先に、おそらく真相が隠されているはず。慎重に……)
 もしもの事態に備えをして、舞花が扉を開く。すると、屋敷に入った時に嗅いだ不快な匂いの強まったものが鼻を襲い、舞花は思わず顔を歪める。
(これは……腐乱臭ね。用心して行きましょう)
 両手が使えるよう、漂う匂いを我慢して舞花は先を進む。並べられた装置や機械は殆どが稼働を停止しており、奥に据えられたひときわ大きな機械も、やはりただの置物と化していた。
「!」
 そして、舞花はその手前に、倒れ伏す人のようなものを見つける。不快な匂いの発生源はこれであるようだった。恐る恐る舞花が近寄り、白衣をそっと剥がせばその下は、ほぼ白骨化していた。
(……この白衣から、何か読み取れるかしら)
 舞花が申し訳ない気持ちを抱きつつ、白衣に触れ過去の一場面を見る――。


「ついに、ついに後一歩という所まで来た……。
 待っていろレイラ、今お前を迎えに行ってやるからな」
 どこか熱に浮かされたような男性の声、そして目の前には、無数の配管が繋がれ明滅を繰り返す機械が見えた。
「私が研究を続けたオービタルストーン……この出力をもってすれば、異世界への扉を開くことなぞ造作も無い。
 ……レイラ、お前が私の目の前から消えてしまったのは、ひとえに私の所為だ……長く一人にしてしまって済まない……だが、これでもう大丈夫だ。
 また二人で、楽しく暮らそう……猫達もお前の帰りを待っている」
 そこまで言った所で、視界が背後を向く。
「おぉ、ジェームス。どうしたこんな所へ、ここは危ないから早く――」
 男性が言葉を言い終える前に、ジェームスと呼ばれた猫は男性の喉元へ噛み付いた――。


「…………。彼が所長で、彼は飼っていた猫に殺された。
 彼の研究は後一歩で完成する所だった。その研究は多分……実験の最中に失ってしまった娘を、取り返すため」
 見えた光景から、舞花がそんな推測を立てる。背後から気配を感じ振り返れば、同じく屋敷を探索していた者たちがやって来る。
「2階の、女の子の部屋を調べたんだけど、どうもある時忽然と姿を消したとしか考えられないんだよね。
 その原因がここで実験をしていた、オービタルストーンによるものだという推測は、かなりそれらしいと思う」
 近遠が話し、春美がその言葉に同意する。栗たちが2階左で見つけた、おそらく目の前で白骨化している彼が書いたと思しき日記にも、その時の状況が書かれていた。
「うーん。だとしても、どうして猫が飼い主を殺すような真似を?」
 詩穂が疑問を口にする、確かにその点は、明確な理由がない。
「あそこにあったはずのオービタルストーンもないわね。……何か黒幕がいて、その黒幕がオービタルストーンを狙って猫に所長を襲わせた、というセンも無いわけじゃない」
「むむむ、複雑な話になって来ましたね」
 リカインが憶測を口にし、姫星が腕を組んで考え込む。
「もう一度、今の点について調査をしてみましょう。オービタルストーンの力について分かれば、豊美ちゃんたちの居る場所との関係が分かるかもしれないわ」
 ルカルカが話をまとめ、一行は再び調査を行わんとする。その時背後、機械が突如、ヴィン、と稼働を始めた。
「何、突然稼働しただと?」
「気をつけた方がよさそうじゃな」
 馬宿と姫子、そして皆が見守る中、装置は光を生み出していく――。