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【ですわ!】Sympathy~伝えたい気持ち~

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【ですわ!】Sympathy~伝えたい気持ち~

リアクション


〜第3部〜

『人魚姫側につくことで見事歌合戦に勝利したヴィちゃんは、無事海に落とした人形を取り戻した。そして再びハートの女王のお城を目指して進むのだが……』
 桃幻水と諸々の道具を借りてヴィちゃんに変装した想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)とぬいぐるみのクルちゃんは、街の西側広場から女王のお城に設定された中央の博物館に向かっていた。
 西日の射した通りには、広場の時計塔の影がヴィちゃんの行く先を示すように長く伸ばていた。
 人々に見守られながらヴィちゃん(夢悠)は走る。日が暮れる前におばあさんの所に辿りつきたい。
 着いたら今日のことを話そう。優しいおばあさんなら、皺だらけの顔にさらに皺をつくって笑いながら聞いてくれるだろう。
 おばあさんに早く会いたいという想いから自然と速くなっていく。たとえヘトヘトになって喉が乾いても、おばあさんの家には美味しいブドウジュースがあるのだと考えたら頑張れた。
 しかし――
『なっ!?』
 突然路地から飛び出し立ち塞がるトランプ兵に、ヴィちゃんは足を止めて驚きの表情を浮かべた。その数、一人や二人ではない。何十という兵が通りを埋め尽くすように整列したのである。彼らはいずれも険しい表情でヴィちゃんを睨みつける。
 相手の剣幕にたじろぐヴィちゃんだったが、勇気を振り絞って睨み返す。
『私は先を急いでいるんです! 退いてください!』
 夢悠は聞こえてくる音声に口パクで合わせながら、内心脅えている女の子のヴィちゃん役をこなす。
 しかし、実際はこれだけの数のトランプ兵の男達を前にして、自然と表情が強張っているだけだった。
 トランプ兵は息の合った動きで左足を前に踏み出すと、右手に持った槍をレンガ作りの通りに叩きつける。

「「「「「女王の命により、これより先に行かせん!」」」」」

 数十のトランプ兵による街全体が揺れるような圧巻の演技。地面からだけでなく、ピリピリと空気を伝わる振動が、その迫力を伝える。
「どうですか!? あちきの城を守る先鋭達は!」
 突如、スピーカーを通して高笑いが聞こえてくる。
 モニターに映し出されたのは、博物館の前で豪華な衣装を身に纏ったハートの女王レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)の姿。そして、その横にはイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)の姿があった。
「食事会での恨み、お母様にはらしていただくのですわ!」
 女王の娘役のイコナは、舌を出してヴィちゃん達を挑発的な態度をとっていた。
『なんだかわかんにゃいが、まずそうなんだにゃん!?』
『そ、そうだね。どうしよう……』
 さすがに怖気づくヴィちゃんの後ろにクルちゃんが隠れる。
 これだけの数を相手に強行突破は不可能だ。だからと言って、他にお城にいく道をヴィちゃんは知らない。
 一歩一歩広場に後退しながら、どうしたらいいか悩むヴィちゃん。
 そんな時、抱えていた『白』と『赤』の騎士の人形が光り出す。
『『ヴィちゃん、わたくし達があなたを助けますわ!!』』
 スピーカーから二人の少女の声が流れる。それと同時に広場全体に白煙が立ち込めた。
 数秒間後、ヴィちゃんを包み込んだ白煙が突風に流されると、そこにはトランプ兵に劣らぬ数の玩具達を率いた『白』と『赤』の騎士の姿があった。人間サイズになった彼らは、ヴィちゃんを守るため前に出て、トランプ兵と対峙する。
「わたくしは白の騎士ですわ」「わたくしは赤の騎士ですわ」
 白の騎士・アンネリーゼ・イェーガー(あんねりーぜ・いぇーがー)と赤の騎士・ポミエラ・ヴェスティン(ぽみえら・う゛ぇすてぃん)が玩具たちの代表として同時に挨拶する。声が重なったことに一瞬アンネリーゼはむっとした顔をしたが、気を取り直して二人はヴィちゃんに事情を説明をする。
「優しいあなたと共にいることで、わたくし達は女王の呪いから解き放たれましたわ」
「助けていただいたお礼に、この世界からの脱出をお手伝いしますわ」
 二人の騎士は元の世界に帰れるのは日没までだと話し、それまでにヴィちゃんをお城に連れて行くと約束した。
「「皆さん、準備はよろしいですの!?」」
 二人の騎士が剣を高らかに掲げて叫ぶと、玩具達が各自応戦の構えをとって『敵』を睨みつける。
「「行きますわ!」」
 二人の騎士が叫ぶと、それは無数の怒声に変わり一斉に駆け出した。

「よーし! ますたー、私たちも行きましょう!」
 トランプ兵側について、ポミエラ達を迎え撃つフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)。しかし、若き忍び娘はいつもにもまして幼く見える。
「ほえ? ますたー、どうかしましたか?」
 そんなフレンディスをベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は訝しげに見下ろす
「あー、いやなんでもねぇ。とりあえず、転ばないように気をつけろよ」
「はい!」
 トテトテと走り出したフレンディスの背中はあまりにも小さい。
 それもそのはず、フレンディスはいま【タイムコントロール】で8歳まで若返っているのだ。模造品とはいえ、精神年齢まで下がった今の状態で武器を持たせるのは危なっかしくて仕方ない。微笑ましいを通り越して、ヒヤヒヤさせられる。
 子供を持つ親の気分ってこんなものなのかと思いながら、ベルクは小さな背中を追いかける。
 すると、フレンディスの前に一匹の獣が立ち塞がった。
「だが! 残念なことにここは通行止めなのです!」
 キュートな瞳とクリクリの鼻、茶色い毛並みはふさふさの(自称)超優秀なハイテク忍犬忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)である。
 ポチの助はお座りした状態で、鼻を高くあげて自慢げに話しだす。
「ふふー、ご主人様の敵になるのは心苦しいですが、この僕の愛くるしい犬の演技力で観客の皆さんを釘付けにしてあげましょう! さぁ、エロ吸血鬼は大人しく僕にやられるがいいのです!」
 悪役は大人しくやられるべしと、肉球でベルクを指すポチの助。
 それに対してベルクは、ドライに「精々頑張れ」と返すだけだった。
「むむむぅ、余裕のは今のうち――!?」
「ほ〜ら、ぽち。ほねですよぉ」
 ポチの首が勢いよくフレンディスの方を振り返る。
 フレンディスの小さな手には収まりきらないほどの大きな骨。
「素材はおそらくシャンバラ牛のあばら骨。煮込みと乾燥を繰り返すことで余分な脂を抽出した物で、歯を鍛える意味で犬のおやつになることはよくあるもの。問題は素材となった牛が牛舎で飼育されたものか、広い大地で放牧されたものかによるのです。そこで値段が大きくかわって……」
 ポチの助の口から次々と脳内情報が流出していた。釘付けになった瞳は星のように輝き、だらんと空いた口から涎が零れていた。
「はっ!?」
 ふいに、憐れむようなベルクの視線に気づき、正気を取り戻したポチの助。
「ごごご、ご主人様。そ、そんな手にこの僕が引っかかると思っているのですか!?」
「おい、すごい動揺してんぞ、犬」
 強がっても尻尾を振りまくりのポチの助に対して、ベルクは『獣人』ではなく完全に『犬』扱いだった。
「くぅぅ、さ、さすがご主人様。こちらのパーソナルデータは把握済みということですね。で、でも僕だって玩具の犬騎士として参加した身。そう易々と敵の罠には……」
 ハマらない。そう断言しようとした矢先、ポチの助はフレンディスが投げた骨を嬉しそうに追いかけていた。
 空中で見事に骨をキャッチしたポチの助に、フレンディスが投げつけた木製手裏剣がタンコブをつくった。
「大丈夫ですの?」
 地面でのびているポチの助に、ポミエラが心配そうに声をかける。
 すると、ポチの助は飛び跳ねるように起き上がった。
「こ、これくらい問題ないのです!」
 ポチの助はキリっと眉をつり上げ、イメージとしては歴戦の戦士のように勇ましく宣言する。
「さぁ、ポミエラさん、戦いはまだまだ始ったばかりです。この僕が直々に傍で指導をしてやるので、一緒にあのエロ吸血鬼を倒すのです!」
 そう言って威勢よく駆け出していったポチの助だったが、またしても主人であるフレンディスに遊ばれるのは目に見えていた。
 これは自分達でどうにかしないといけないと、ポミエラは気合を入れる。
「悠里さ――殿、わたくし達も行きましょうか」
「う、うん。頑張ろうね」
 ポミエラは頼んで参加してもらった佐野 悠里(さの・ゆうり)と共に、突撃を開始する。
 その勇ましくも可愛らしい騎士二人の姿を、佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)アルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)は演目の安全のためにしかれた立ち入り禁止のロープの向こうから見つめていた。
「アルトリアちゃん、どうかしましたかぁ?」
 先ほどから首を傾げているアルトリア。何か問題でもあったのだろうかと、ルーシェリアは尋ねてみた。
 するとアルトリアは暫し逡巡の後、考えていたことを打ち明けてくれた。
「……実は気のせいかもしれませんが、ポミエラ殿の服装が自分の鎧と似ている気がいたすのです」
 その言葉に、ルーシェリアはポミエラの姿を見ながら、今は身につけていないアルトリアの鎧を想像しながら照らし合わせてみる。
「赤にアレンジされていますけど、確かに似ていますねぇ。そういえば、言葉使いもちょっと変ですねぇ」
 よくよく見れば、衣装だけでなく剣や髪形まで似せている。
 それはアルトリアを演じることで、身体面だけでなく、精神面でも強いありたいと願う故の行動だった。
 だとすると、娘である悠里の役回りは自分なのかもしれないとルーシェリアは思った。
 悠里は戦闘に不慣れなポミエラを支えるべく、必死に剣を振っている。
「そういうことなら、もう少しコンビネーションについて教授するべきだったかもしれませんね」
 アルトリアから見れば、まだコンビの『コ』の字も出来上がってない二人だったが、それでもお互いに相手を意識して戦おうという努力は見て取ることができた。
「ふははは、よくやってきたな、赤の騎士よ!」
 トランプ兵を退かせる演技を見せるポミエラ達の前に、ベルクが待っていたとばかりに立ち塞がる。
 ベルクは不敵な笑みを浮かべて名乗りを上げると、組んでいた腕と同時に背後の巨大な翼を展開する。モリオンのような漆黒の翼は、全ての光を食らいつくすほどに深い色をしている。
「貴様などこの俺が一捻りにしてくれる!」
 ベルクは見下すような視線を送ると、まるで心臓を握り潰すように開いた掌をゆっくりと握りしめた。それを合図に、翼から無数の氷柱がポミエラ達に襲いかかる。
 あくまで演技のため周囲に外れるように放たれた氷柱は、いともたやすく地面に突き刺さるが代わりに大量の粉塵を巻き起こした。
「ポミエラさん!」
「はいですわ!」
 粉塵の中に巻き込まれたポミエラと悠里は、氷柱の攻撃が止んだのを見計らってベルクに向かって駆け出した。
 模造の剣で斬りかかる二人だが、ポミエラの動きが先ほどとは段違いによくなっているため、ベルクはやむなく手持ちの杖で応戦することになった。
「そう動き!? 急にどうしたの、ポミエラさん!?」
「な、なんだかわかりませんが、力が沸いてきたのですわ!?!?」
 本人さえも戸惑う唐突な力の発揮。しかし、この力が演出のためにベルクが使っているスキルだとは気づかない。
「これは予想外だな。だが、これならどうだ!」
 猛攻に距離をとったベルクは、やたらと長い意味深な呪文を唱える。
 すると、ベルクの背後からのっそりと巨大な【虚無霊:ボロスゲイプ】がその姿を現し始める。その大きさは声を失うほどである。
「くっ――やらせない!」
 だが、その威圧感に屈しず悠里は【サンダーブラスト】を【虚無霊:ボロスゲイプ】に放った。
 無数の雷が降り注ぎ、【虚無霊:ボロスゲイプ】は身体を仰け反らせてその姿を消していく。
「ば、馬鹿な!?」
 ベルクは信じられないとばかりに、【虚無霊:ボロスゲイプ】の消えた背後を振り返った。だが、やはりそこには何もなく、あるのは城へと続く道だけだった。
 呆然とするベルク。その隙を赤の騎士ポミエラは逃さなかった。
「ぐははああああ!」
 ポミエラに斬りつけられたベルクが叫びをあげて倒れる。
「こ、この俺がやられるとは……ガクッ」
 オレンジ色の空に伸ばした手は地面に落ち、ベルクはしっかりと悪役をやり遂げた。
「さぁ、後は……」
「助けてください!」
 ポミエラが叫び声に振り返ると、ポチの助が泣きながら走り回っていた。
 その背には幼くなったフレンディス。両手は首の後ろの毛をギュッと握り締め、楽しそうにきゃっきゃっと笑っている。
「ポチ、ごー、ごーです!」
「ご、ご主人様、毛を抜かないで!?」
「あいつら……」
 死んだふりをしていたベルクは細めを開け、呆れたようにため息を吐いていた。