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【祓魔師】人であり、人でなき者に取り込まれた灼熱の赤き炎

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【祓魔師】人であり、人でなき者に取り込まれた灼熱の赤き炎

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第5章 外法の魔術Story4

 ヒュプノスの声の効果が切れた後、黒フードの者たちは刀真のワイヤークローで拘束されていた。
「クリスティーが眠らせてくれたおかげで、縛る手間が省けたな」
「ヤるんなら、さっさとヤリやがれってんだ」
「残念だが、こっちにはやたらと殺すなという決まりがある。何度も悪事を繰り返すというなら、話は別だけどな」
 刀真は白の剣の刃をチラつかせて言う。
「まぁ…おぬしらは貴重な情報源でもあるからな。連行する前に、儂の問いに答えてもらおうか?」
「はぁあ?答えるとでも思ってんのかよ、ばぁあか」
「だったら別のやつに聞けばいいんじゃないか、甚五郎」
 火山の熱気で熱くなった刃を、捕縛した黒フードの者の顔に当てる。
「うーむ……」
「答えていただければ、罪も少し軽くなるかと…」
 なかなか答えようとしない者たちに、レイカが静かな口調で言う。
「さぁ、知っていることを答えてください」
「おぬしらは火山を噴火させて、何をしようとしている?」
「―………。平和ってもんがキライでねぇ〜。のほほんとしてるやつらが、どんなツラァするか見てみたいだけだ」
「本当にそれだけか?別の目的があるのではないか?」
 自分たちの快楽目的だけではなさそうだと思い甚五郎が問う。
「イヤ…ホントのことだ」
「ほう、ならば誰の指示なんだ?」
「プリンねーさんが、噴火方法を教えてくれてねぇ〜」
「意外とかわいいネーミングね」
「え、プリンって…」
「なんか、違うこと考えなかった?」
 名前の主の姿を想像している刀真を月夜が睨む。
 彼は“スミマセンデシタ…”と素直に謝った。
「そのプリンとは、名前か?」
「まさかぁ〜。本名は一部のヤツしかしらねー。ちなみにヒトかどうかもわかんねぇーなぁ」
「では…、おぬしらは何者だ…?」
「クク……、ヒトを捨てた者、それがオレらボコール。貴様らと逆の力を使う術者だ」
 祓魔師の力をプラスと考えれば、ボコールの能力はマイナスの力。
 校長のメールにあった黒魔術というものを扱っていることも納得がいく。
「貴様らの存在しか知らんかったが。こっちもよい情報を得られたってわけだ、クハハッ」
「おぬし、逃げられるとでも思っているのか?」
「黒魔術……。それは本当にマイナスの魔力だけなんでしょうか」
 問いかけるタイミングを見計らっていたレイカが言う。
「(ネクロマンサーの技を使うのなら尚更。その力は必ずしも邪悪ではありません。もっと、他に使うべき道があるんですから……)」
「あぁ〜?この術がなんだか、知らされてねぇのかよ」
「無理に魔性を取り込んでしまうと、術者の身体が崩壊してしまうとは聞きました」
 誰から聞いたとは言わず、校長にもらった情報を口にする。
「つまり、ヒトを捨てるってこだ。オレらは生憎、もうヒトじゃねぇんでなぁ。どうでもいいんだけどさぁ〜。イヒャハハハッ」
「(本当に、自分の命を粗末にしているのか…。本心は分かりませんが、人の身で扱えば、生命エネルギーを削る術なのは間違いなさそうですね)」
 確認されている種族を全てまとめて、ヒトと言っているのだろうか。
「―…それは、魔性と呼ばれる力のある者以外が使えば、どうなりますか?」
「長生きはしねぇだろうな」
「そう…ですか」
 この者の話からすると、どうやら地球人やそれに近い種族たちが扱えば、命を削るものらしい。
 より強い力は魅力的で、誘惑されやすいものなのかもれない。
 彼らをそそのかしたのは、“プリンねーさん”と呼ばれる者の仕業か。
 それとも、別に…誰かいるのだろうか。
 これ問いかけても曖昧な返事しか返さないだろうし、他の者の報告を待ったほうがよさそうだ。
「ひとまず、私からの問いはこれで全部ですが…。他に、聞きたい方がいなければ連行します」
「オイオイ!話が違うだろうっ」
「はい?私は…逃がすなんて言っていませんし、罪が軽くなると言ったのは…冗談です」
 騒ぐ彼に対して何のことやらと首を傾げた。
「これほどの大騒ぎを起こしたんだ。簡単に許すわけないだろ」
 刀真は彼らを立たせ、ワイヤークローの端を持って魔法学校へ連行する。



 レイカとテレパシーをつないだままの和輝は、“捕まえた者たちを魔法学校へ連れて行きます。念のため、クリストファーさんたちは山に残るようです”と報告を受けた。
「(―…了解。こちらも、その流れでいく…)」
 器のほうは発見次第、魔性と離した後拘束して連れて行くとテレパシーで話す。
「リオン。捕縛者はいったん、魔法学校へ連行することになった」
「ふむ、承知した」
「(え〜っ、閉じ込めたりしちゃうの?)」
 許してあげないのかと精神感応でアニス・パラス(あにす・ぱらす)が和輝に言う。
「(これだけの騒動を起こしたのだから、当然だろう)」
「(そんなぁ〜。かわいそうだよー)」
「(外法の術に手を染めたやつらだ。口先だけの謝罪かもしれない)」
 騙して逃走した先でまた何かやらかすはず。
 そう考えた和輝は“投獄は仕方ない”という態度で、かぶりを振った。
「あっ、あの…」
「どうした、結和」
「話し合うことは出来ないでしょうか?」
「相手の態度次第だ。だが…罪は罪として、それなりの罰を受けさせる必要はある。死者が出ていないとはいえ、何でも許すわけにはいかない」
 授業の実戦と被害の想定規模が桁違いであり、簡単に逃していいものではないと言い放つ。
「それに…、無理な憑依利用を繰り返せば、彼らの身体が崩壊してしまう」
「(黒魔術…。人の身では生命を対価に扱う、外法の術だとメールにありましたね)」
 死なせないためには、投獄も止むを得ないか…と頷くしかなかった。
「自分で寿命縮めちゃったんだから、その分はどうしようも出来ないでしょうけどね」
 真宵も強力な力に興味はあるが、自分を異形化させてまで行使する者は好きではない。
 何があったのかは知らないが同情する気にはなれず、眉を顰めて冷たく言う。
「エターナルソウルは、長い過程で失った死因の時までは戻せないものだし?まー、どうせもうちょっと能力を上げなきゃ、使えないけど」
「(まともな精神の輩ならば、手を出さんとは言い難いが…。強い魔術は、いつの時も人を魅了するものだ。それに心を奪われてしまっては後戻りも出来んだろうな)」
 黒魔術という力を手に入れ、気づかないうちに精神が麻痺していったのだろう…と禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)が考える。
「ま、待ってほしいのです……。はうあっ!?」
 窪みに躓いたテスタメントは顔面から倒れてしまう。
「いたた…」
「何やってんのよ。和輝のグラビティコントロールのおかげで、歩きやすいはずでしょ?どんくさっ」
「だって火ですよ!火!!」
 “それを言うと水もアウトだったんじゃ?今まで水場ばかりだったのに…”と真宵はため息をつく。
 テスタメントにとって水は、“お風呂の気持ち良さで即克服!”と言うか、むしろ憧れだったらしい…。
「(もう人の姿なのだから、どっちも問題のに…)」
 そう言ってやれば火に対する恐怖心も和らぐだろうと思ったが、面倒だったのか教えないでおいた。
「グラビティコントロールのおかげで、歩きやすいはずでしょ。」
「あわわ……また地面が揺れて…きゃふっ」
「爆発音が近いわね。テスタメント、無駄に騒ぐんじゃないわよ?」
 真宵はアークソウルに精神を集中し、敵の位置を探る。
「先に行って見てこようか?」
「なら、テレパシーをつないでおこう。発見したら連絡をくれ」
「それじゃ、ちょこっと見てさくっと戻ってくるわ。テスタメントは…、まぁいいや…いないよりはマシだし」
 もしもの時の保険として、火に怯えっぱなしのパートナーも連れて行く。
 気配を辿り岩陰からそっと覗くと、黒いフードを被った者たちが炎の魔術を行使し、楽しげに火山を刺激していた。
「(いた…!今は可視の状態みたいね。念のため、おおまかな位置を教えておくけど、そこから西に進んだ感じよ。じゃ、いったんそっち戻るわ)」
 そっと離れて和輝たちのところへ戻ろうとしたその時…。
「あうっ」
 またもやテスタメントが躓き、転んでしまった。
「ば、ばかっ、こんな時に転ばないでよ」
「そんなこと言っても、魔術の火の粉が…」
「ちょっとくらい我慢しなさいよね」
「魔道書にとって、火は天敵なのですよ!」
 ムッとしたテスタメントが大きな声を上げた。
 彼女の声で炎の怪物と化した者たちに発見され、真宵は“はぁ〜最悪…。”と呟く。
「きゃわぁああ、火が…火がぁあっ。はわ!?」
 降りかかる炎の礫に恐怖し、慌てて逃げようとするが小石に躓き転倒する。
「わ、離してよ。わたくしまで巻き込むんじゃないわよっ。―……っ!!」
 腕を捕まれた真宵も倒れてしまい、呪術のファイヤースピリットにより、テスタメントは火の玉にされてしまった。
「(戻って来ないようだが…)」
「(こっちから行く?何かあったらなら、声で相手に気づかれちゃうかもだから…精神感応は続けるね)」
「(西側にいたらしい)」
「(え〜っと、てことはこっちだね!)」
 アニスはアークソウルの探知能力を引き出し、空飛ぶ箒ファルケの高度を低くして進む。
「あわわ…、2人に何かあったみたいですね。ロラ、私たちも急ぎますよ」
「んー?ううー。(連絡取れないのかな?心配だねー)」
「しっかり掴まっていてくださいね」
 ロラ・ピソン・ルレアル(ろら・ぴそんるれある)を背に乗せ、高峰 結和(たかみね・ゆうわ)はアニスたちの後を追う。
 ごつごつした斜面に辿りつくと、2つの火の玉が視界に入った。
「ロラ、2人を保護しましょう」
「むぅ、ぅうー。(早く元に戻してあげなきゃ、スピード上げるね)」
 エターナルソウルが藍色に輝き、パートナーの結和の走行を加速させる。
「ケヒャヒャ、お前らも呪ってやろうか。…むぁっ!?」
 祓魔銃の光のミストで不意打ちをくらい、呪術の軌道が逸れてしまった。
「オゥ……いきなりヒデェことしやがる」
「(こいつらがレイカが言っていた者のようだな)」
 5人のうち北西に逃走したその1人らしい。
「あと…何人いる?」
「さぁ〜?答えるわけねぇーし」
「ならば、喋りたくなるようにするまでだ」
 和輝は冷ややかな目で睨み、祓魔銃を撃つ手を休めない。
「おおっと。そう何発もくらうわけにはいかないんでなぁ〜。ちょ〜っとイタイんだし〜」
 相手は神速でかわし、口元をにやりと歪ませる。
「嫌ならば、火山の噴火をさせるなどというばかげたことをやめるこよだな」
「そりゃ〜ムリってもんだ」
「ほう…。仕置きされてもよいということだな?(リオン、やれ)」
 指示を待ってゆっくりと唱えていたリオンにテレパシーを送る。
「なっ、なんだ雨!?あの小娘の仕業かっ」
「余所見をしているヒマはないぞ」
「貴様ら……祓魔師か?」
 救出した火の玉の2人を抱えて離れていく結和と、リオンを見て舌打ちをする。
「答える義務はない」
「ちょうどいい、邪魔な輩は排除しておかねぇとなぁ?……ディアフラームフォンローテン、アレスカンブレナン.(紅の炎よ、焼き尽くせ)… アブレーションッ!!」
 低い声音で唱えて和輝に狙いを定め、灼熱の火炎爆発を起こす。
「やはり、投獄する必要がありそうだな」
 ポイントシフトの目に止まらぬスピードでかわしてみせ、相手の懐に飛び込んで祓魔のミストを撃ち込んで速やかに離れた。
 結和の方は、ロラに解呪を行ってもらっている。
「ロラ、頑張ってください…」
「(むぅーんんー。(かなりしつこい呪いみたい)」
 結界石、神籬の境界線を敷き、その中で真宵を元の姿に戻そうと祈りに集中する。
 赤黒い血のような色合いの影は、火の玉の表面に見えては中へ戻っていく。
「和輝さんからテレパシーが…。(アニスさんが、別の者を探知したと…?え、私たちの方に…っ!?)」
 新たな相手が接近していることをロラに伝えようとしたが、解呪を止めてしまうわけにはいかない。
 彼はエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)たちに応援要請をしたらしく、こちらへ向かってくれているようだ。
 それまで持ち堪えられるだろうか。
 いや、自分が守らねば…。
 怯えていたら何も出来ない。
 アークソウルの探知にかかったということは、ビフロンスを取り込んだ者はかなり近くまで来ているはず。
 ハイリヒ・バイベルを開いてゆっくりと詠唱をして待ち構える。 
 こちらを侮っているのか、相手は可視化したまま奇声を上げて襲いかかってきた。
 結和は淡い霧雨をイメージし、結界への進入を阻止する。
「お前も、そいつらみたいに変えてやる。…ァアァアアハハハッ!!」
「(ああっ、次の章を唱えなければ…っ」
 早く…早く……!
 ページを捲って哀切の章を開き、焦る気持ちを抑えて唱える。
 対象の左右から布で包み込むようなイメージをし、そこから動けないようにしてやる。
 だが、向こうも詠唱を終え、ファイアースピリットの炎の礫が結和たちを襲う。
「(いけない、まだ解呪が終わっていませんのに…!)」
 ロラを背から降ろし、守り代わりに全てくらってしまう。
 それに気づいたロラが振り返り、“んうーぅうーっ。(ゆーわーーっ!?)”と叫び、祈りを中断させてしまった。
「―…ロラ、私のことはいいですから続けてください…」
「んうー、んぅうーっ。(ゆーわ、ゆーわっ)」
 膝をつく結和の手に触れる前に、パートナーは火の玉となった。
 ロラは必死に涙を堪え、ホーリーソウルで解呪を始める。
「次はお前だ、チビカエルッ!」
 祓魔術の輝きが消え、自由になった者は口の端を持ち上げてニヤつく。
「むぅーんんー。うぅー、んぅー!(せっかく結和が守ってくれたんだもん。お願い、間に合って!)」
 懸命に祈り続け…。
「んぅ、んうぅーー。(あぁ、よかった元の姿に戻せたよ)」
 よやく火の玉の中から影を追い出して消滅させることに成功し、瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちる。
「わたくしまで呪いにかけられるなんて、まったく…後でお仕置きね」
 真宵は家に帰ったら罰として、テスタメントのお菓子を取り上げてやろうかしら?などと考えた。
「カ…カエル」
 クリスタロスでカエルにされた嫌な思い出が甦り、口元と引きつらせた。
「あ、えっと…あれとは違うやつよね。ロラだっけ?それ持って、和輝たちのことへ戻るわよ」
「んーむぅ。(応援の人が来るみたいだよ)」
 和輝が応援要請したことを知らせようとするが、真宵には何を言っているのかまったく理解出来なかったようだ。
 パートナーと違って優しく扱ってもらえず、小さな身体を掴まれている。
「逃げる気かァアッ?―…っ、何だこの線は!」
 フードを被った者は彼女たちを追いかけ、ロラが敷きっぱなしの境界線に足を踏み入れてしまい驚く。
「フンッ。罰が当たったのよ」
 それを聞いた火の玉にされているテスタメントは、“だったら真宵にも、そのうちアタリそうですね”と言いたかったが、喋ることが出来なかった。