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【祓魔師】人であり、人でなき者に取り込まれた灼熱の赤き炎

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【祓魔師】人であり、人でなき者に取り込まれた灼熱の赤き炎

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第7章 外法の魔術Story6

「誰もいないようだね、エース」
 メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)はワイルドペガサス・グランツで空から探して見るが、人型の者は見当たらなかった。
「もう移動してしまったということか」
「そっちは何か分かったかい?」
「いいや。熱さのせいで、草がしおれていて何も答えてくれないな」
 硬い地面に頑張って自生していた野草が、くた〜んとしおれている。
「見てください、…煙が」
「あれって発煙筒のかしら」
「おそらくは…。火の玉にされては、何も出来なくなってしまいますわ」
 首を傾げるルカルカに中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)が言い、急いだほうがよいと告げた。
 その頃、陣たちは人の身を捨てた者と遭遇していた。
 レイン・オブ・ペネトレーションを発動させる時間稼ぎとして、リーズが不可視の者たちを挑発している。
 アークソウルの相手の気配を探っては離れるということを繰り返す。
「や〜い、陰険引きこもり黒フード!べーっだ!」
 低空飛行しながら意地悪そうに舌を出す。
「ヴァルキリーのガキ、丸焼きにして野ざらしにしてやるっ」
「げ、女の子相手にマジ最低〜。ふふ〜んだ。やれるもんなやらやってみなよ」
 真下に赤く揺れる炎が見え、エターナルソウルで飛行速度を加速して避ける。
「(いちにーさん…よっつかな?……うーん。皆、気配が2つ重なっているね)」
 火炎爆発で土煙が舞い上がり、リーズは鈍い色合いの輝きを見せる宝石に目を落とす。
 1人くらいなら接近して殴ってやろうかと思ったが、数が多いため無理に近づかないでいる。
「ガキを炭にするものいいが、あいつらも目障りだな」
 赤い瞳で互いに目配せして半数を、詠唱している者たちのほうへ向かわせた。
「あれ、気配が離れていく…。ああっ!そっちは陣くんたちが!!どーしようもないキミたちを、女の子が構ってやってるんだよ。失礼だと思わないっ!?」
「思わん。ぺたんこなしょんべんガキにはきょーみねぇからさぁ〜。そっちのゴイスーなヴァルキリーのほうがマシ」
「うるさいな。大きければいいってもんじゃないんだから」
 平らだとか言われ、カティヤ・セラート(かてぃや・せらーと)と比べられても我慢出来る。
 たが、“しょんべんガキ”という暴言には一瞬イラッときた。
 どう聞いてもただの悪口にしか思えない。
 眉を顰めながらもリーズは怒りの感情を抑え、詠唱を止めようとする者たちに向かっていく。
 カティヤが顎をしゃくって後ろへ下がるようリーズに伝えると、晴天の空に真っ黒な雲が垂れ込める。
 陣のエターナルソウルの効力で走行スピードをあげ、彼らは別々の方向へ飛び退く。
『…セット!レイン・オブ・ペネトレーション!!』
 詠唱ワードが紡がれ、黒雲から嵐が吹き荒れた。
 不可視の者たちの姿がリーズの視界にも入り、白い光を拳に纏わせて器の顔面を殴る。
「物理的に殴った感覚がないね。なんか不思議〜」
 リーズは手をぐーぱーさせて首を傾げる。
 ダメージをくらった器の意思である相手は怒声を上げ、呪いの言葉を吐き炎の礫でリーズを火の玉にしようとする。
「にゃははは〜♪ほーらほら、またスカだね?」
 元々の飛行能力に宝石の力を加えて軽々とかわし、にんまりと笑う。
「オイ、ヤれッ」
 1人がそう告げると、他の者も少女に目を向けた。
「ほぇ…?ちょ、ちょっと、集中狙い!?」
「確実に潰していく派なんでなぁ〜」
 避けきれず火の玉になってしまったリーズを指差し、ケラケラと笑った。
 イルミンスール魔法学校、特別訓練教室のモニターにも、その光景が映されていた。
 リアルタイムの映像を見て学んでいるシシルは目を丸くして驚き、無事に元に戻れるのだろうかと見守っている。
「見学するのって勉強になりますけれど。こう、手に汗握ると言いますか。実際に見るのが初めてっていうのもあって、すごくハラハラしますね」
 ペンをぎゅっと握り締めてじっと観察する。
「ああっ、ルカルカさんたちが到着したみたいなんですよ!むむ〜、あれは使い魔を使ったアイデア術?使い魔の小さな子が二丁拳銃を持っています…っ」
 リトルフロイラインのマヌグスエクソシストモードを初めて見たようで、シシルは瞬きを忘れるほど目を開けっ放しで見る。
「ええっと、あの黒いフードを被った方々が、師匠たちが戦う相手でしょうか?さっきまでそこに、いなかったはずですけど」
 突然現れたかのように見え、不思議そうな顔をした。
 画面に黒い雲が出現して、大雨が降ったのと関係あるのだろうか。
 その位置に彼らがいたような気がしたため、それもアイデア術によるものかもしれない。
 見るものがほとんど全て初めてだらけで、一秒たちとも目を逸らせなかった。



「皆っ、無事!?」
「リーズが呪いにかけられてしまったんや」
 陣はかぶりを振り、火の玉にされたカノジョに視線を向ける。
「ルカたちが時間を稼ぐから、その間に元の姿に戻してあげて。…綾瀬、援護するわ」
「ぇえ…。…ゆきますよ、リトルフロイライン」
「あんなふうに利用するなんて許せませんね、綾瀬様!」
「器のほうを狙ってくださいな」
「りょーかいです」
 硬い葉のトリガーを引き、祓魔弾を連射する。
「エコーズ、哀切の章II!エコーズ、セイクリッド・ハウル!」
 ルカルカは章の祓魔の能力をエコーズリングに込めて叫ぶ。
 白き叫びが炎の怪物たちを退かせる。
「―…リーズ、今助けてやるかな」
 ふよふよ浮かぶ火の玉を手の平に乗せ、ホーリーソウルの邪なるものを消し去る光を照らす。
 中から赤黒い血のような影が、雫の塊のように落ちて消滅する。
 元の愛らしいカノジョの姿に戻り、カレシに寄りかかるように倒れる。
「んにぃ〜、悔しい〜っ」
「囲まれてたら仕方ないって。モノホンのセイクリッド・ハウルを使わんといけないし、頑張ってくれ」
「戻ったばかりなのに、陣くんオニィーッ。ってのは冗談♪ボクもやられっぱなしじゃヤダからね」
 カレシから離れたカノジョは、空を舞いルカルカたちのところへ行く。
「やっほ〜、補助しにきたよ」
「ありがとう!」
 リーズに瞬間的に加速をかけてもらいながら注意を引きつける。
「ニクシーさん、水のバリアーで皆さんをお守りください」
「あなたが、そう望むなら…」
 水の魔性は手の平からいくつもの泡球を出現させる。
 それらは仲間に触れると大きくなり中へ包み込む。
「プニプニで面白いよねっ」
「クマラ、指を出すと炎の術の直撃をくらうぞ」
「熱いのはイヤにゃん!」
 エースの言葉にクマラは慌てて手を引く。
「アーリア、花の香りで守っておくれ」
「ふぅ〜…。マイマスターの頼みならいいんだけどねぇ。毒の効果を打ち消すっていうより解除する能力よ?ずっと香りを使ってると、マイマスターの負担が大きいからね」
「―……んー、どうしたらいいのかな」
「お薬を作ったりすることも出来るの。それも解除のためだから、かかってからなのよね」
 毒に対する予防は無理とアーリアが告げた。
「ていうかマイマスター。無茶なことばかりすると、敵の前で精神力が尽きるわよ。で、今回の相手は強い呪いを使うのよね。相応の精神力をもらうことになるけど、…いいかしら?」
「戻らないように調節はしてくれるよね?」
「せっかくこっちに来れたのに、正直…帰還するのィヤッ。たくさん会えるわけじゃないし、人の世界で一緒に遊んだりもしたいのっ」
「きっとまた会えるよ。アーリアはいい子だから、お願い聞いてくれるよね?」
「むぅう、分かったわよもうっ」
 アーリアは柳眉を吊り上げて膨れっ面をしつつ、ピンク色の花びらを舞い散らせて香りを広げる。
「水のバリアーって、動きに合わせてかってに動くんだな?」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は移動に合わせて動くバリアーを見て興味津々に言う。
 対象である自分は常に中心にいる状態だ。
「ニクシーのバリアーで遊ぶな、カルキ」
「へいへいっと。淵の大切な人の力を使って作ってくれたモンだしな」
 睨みつけてきた彼をからかう。
「なんだ?変な靄みたいなモンが…」
「気をつけろカルキ、ポイズンヒートかもしれないぞ」
「熱くらいはなんとかっすか」
 ―…じゃねぇと淵がウルセェし、と思ったが口に出さないでおいた。
 自分とルカルカ、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の3人でブリザードを放って緩和しようと試みる。
 オメガの水のバリアーの効力のかいもあってか、ほとんど熱さは感じなかったが毒のほうはくらってしまう。
「皆様。リトルフロイラインが作った丸薬を、お飲みくださいな」
 山登りを始める前に作りおきしておいてもらったものを、綾瀬が投げよこす。
「ほろにげぇ〜な」
「文句があるということは、いらない…ということですね」
「おっ、おい、ウソだって!」
「次……くだらないことを言ったら、もう差し上げませんわ」
 綾瀬はフッ…と背を向けてしまう。
「ねぇ、ちょっと可哀想じゃないの?」
 パートナーに装着している漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)がボソッと言う。
「あら?本気ではありませんわ」
 クスクスッと口元に手を当てて笑う彼女の態度に、ドレスは“酷っ!”と声を上げた。



「女神さま降臨♪って感じかしらね」
 “誰が女神だ?”などと言う月崎 羽純(つきざき・はすみ)のツッコミは無視した。
 セイクリッド・ハウルで聖なる紅の風を纏ったカティヤは、長い黒髪に手をやり微笑する。
「皆の便利な盾に改名しておけ」
「あら…、今の私にそんなこと言っていいの?羽純。女神さまは悪口を2度までは許してあげるけど、3度目はないわよ」
「章使いならジュディや磁楠もいるけどな」
「そう、そんなに私の手料理が食べたいってわけね。ウフフ、よいわよ。後でたっぷりと作ってあ・げ・る♪」
 全てを灰にするブラッククッキング、女神さまの手料理をお腹いっぱい食べさせてあげるわ、と告げた。
 羽純を沈黙させるには十分すぎるほどの言葉を並べてやった。
「フッ、ご愁傷様だな、羽純」
「逃げるなよ?」
「まことに残念なお知らせをしてやろう。私のこの後の予定は、予習復習で埋め尽くされている。小僧と違って、私にエム属性はない」
「磁楠、羽純が固まっているのじゃ」
 思考を停止させた羽純を、ジュディ・ディライド(じゅでぃ・でぃらいど)が指でつっつく。
「ちょ、おま…。聞こえてるんやけど、磁楠。オレもエム属性やないし!」
「そんな遠い過去はもう忘れてしまった。それよりも優先すべきことがあるだろう?」
「う…っ、ホントにオレなんか?」
「―……知らんな」
 その言葉の後に“そんな遠い過去はもう忘れてしまった”と同じ言葉を言った。
「我も痛みを与えないようにすることが出来るようになったのじゃ♪これで、ビフロンスの意思が出てきたとしても安心じゃな」
「悪いな、まだ祓魔師としてのランクは低い身分でね」
 大喜びするジュディの傍ら、仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)は静かな声音で言う。
「章の与える痛みを軽減する術を持たんのだ。いや全くもって申し訳ない気持ちで口元が引きつってしまうよ」
「うむ、器のほうが仕置きとして仕方ないのじゃ。エムがエス属性になるとはのぅ」
 ジュディはニッと笑みを浮かべた彼の顔を見逃さなかった。
 いぢる属性ばかり引き寄せてしまって、そうなったのだろうか…と想像する。