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【祓魔師】人であり、人でなき者に取り込まれた灼熱の赤き炎

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【祓魔師】人であり、人でなき者に取り込まれた灼熱の赤き炎

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第9章 外法の魔術Story8

「女の子たち容赦ないねぇ」
 ピリピリとした空気に弥十郎は思わず息を呑んだ。
「当たり前でしょ、相応の罰よ。そんなこと言ってると、どうなっても知らないわよ」
「ええ、怖いなぁ〜」
「サンクチュアリを使いたいんだけど、協力してもらえる?」
「わぁっ!?あ、…うんっ」
 突然声をかけられて驚き、何を言ったか聞かれていたらと思うと、ドキドキが止まらなかった。
「美羽さんとベアトリーチェさんもよいかしら」
「いいよ、哀切の章だっけ」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はフレデリカの頼みに即答した。
「ええ、それをお願いね」
「強化したやつだけど適応するかな、ベアトリーチェ」
「その前の能力はありますから、問題ないと思いますよ」
 サンクチュアリを発動出切るはずとベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が説明する。
「炭にしてやるよ、祓魔師ども!!」
「シィシャ、アタシたちは詠唱を終えるまでサポートするわよ」
「はい、了解です」
 グラルダの声にシィシャは、いつも通り無表情に答えた。
「フリッカが狙われているよ!」
「そこね」
 スクリプトに位置を知らせてもらい、酸の雨を行使して退かせる。
 相手はグラルダを先に潰そうとターゲットを変更した様子で、彼女の足元から火炎爆発を巻き起こす。
 シィシャは加速をさらに高めて避けさせる。
「(そのまま、的になってもらっておきましょうか)」
「ずっと時の宝石使ってると、すぐ疲れちゃうでしょ?ボクが回復してあげるね!」
 スクリプトはエアロソウルを、淡い黄緑色に輝かせてシィシャの精神力を回復する。
「わわ、また揺れが…」
 火山地震に足をふらつかせるが、なんとか踏みとどまった。
「ああっ!火口に炎の魔法をっ!!」
 彼女の視線が逸れたのをいいことに、ビフロンスを取り込んだ者たちが火口にアブレーションの術を叩き込んでいる。
 火口の奥底のマグマがボコボコ泡立ち、ズズ…と静かに上昇した。
 セレアナは恋人にポイントを教えてもらい、彼らの足元に祓魔の護符を投げる。
 仕事の邪魔をされた者たちは怒声を上げ、彼女たちに接近する。
「空腹のセレンを怒らせると、こんなものじゃすまないわよ?」
 ホーリーソウルの力を指先に集中し、レーザー光線のように放ち火口から離す。
 その頃、彼女たちが炎の怪物と化している者の注意を引きつけてくれていたおかげで、結界術…サンクチュアリの発動に成功した。
 ビフロンスを守ろうとルイーザは結界内に案内する。
「こちらで待っていてくださいね」
「後は、残りのやつらからビフロンスを開放するだけね」
「久々でしたから、上手く出来るかわかりませんでしたけど。体がちゃんと覚えていたようですね」
「すでに成功している術だから、あとはやりかたを忘れなければのよ、ルイ姉」
 白いふわふわの椅子に座り、ルイーザに顔を向けて言う。
 アイデア術を発動させても警戒はおこたらず、美羽とベアトリーチェは結界の外を出て、リオンたちと協力してビフロンスを開放しようとする。
「美羽さん、リオンさんの術にかかった者から狙いましょう」
「器のほうを弱めたほうがいいのよね」
 意思の主導権を握りやすくしてやるため、器である者を光の波で包囲して術の行使を不能にさせる。
「力を弱めれば、SPの低下で術を使う余力も失わせやすくなりそうね」
「さすがです、美羽さん。そのような使い方もあるのですか」
 メガネをかけなおしてなるほどと目を丸くする。
「せっかく効力が増えたんだから上手く使わないと」
「抵抗の余力を与えない手段も、大切ということでしょうか」
「痛みを与えないようにしたってダメージは蓄積するもの。今回は魔性を取り込むのが相手だけど。普段はすぐに器から祓う感じでしょ?その後で…術を使う力が残っていたらってことも覚えておかないとね」
「扱い方で依頼の遂行も、スムーズになるということですね」
 憑依能力を失わせたとしても術を使うための力までは、失わせきれるものじゃないと覚える。
「ビフロンス、正気に戻ってそこから出るのよ。本当は壊したくないんでしょ?」
 一刻も早く救助してあげようとフレデリカが語りかける。
「出てきたみたいだよ!…ボクのほうにおいでっ」
 邪気のない笑みで炎の魔性を迎える。
「―…あっ、結界のほうに1人行ってしまいました」
「のんびりくつろぎやがって、ムカツクガキどもだっ」
 魔性の力を失い、取り戻そうと黒フードの者が結界に侵入する。
「スーちゃん、あのヒトは入れちゃいけないよ」
「わかった、おりりん。…あんたはしんにゅーきんしー!」
 結界内に散りばめられた白い花びらを舞い散らせ、侵入者に纏わりつかせてパンッと起爆させる。
「あれ〜?当たらないなぁ」
 離れて彼らの行動を観察していた弥十郎は、ターゲットを自分に変更させるため、行動予測をして祓魔銃を撃ちまくった。
 斉民に時の宝石を使ってもらい、ペトリファイをかわして彼らが1箇所に集まるように誘導していく。
 メンタルアサルトにかかったのを見てニヤリと笑い、ヒプノシスの催眠術をかけ眠らせようと試みた。
 バタバタと転倒していく様子を眺める弥十郎の姿に斉民が嘆息した。



「ありがとうね、斉民♪」
「制限時間は20分だから…。まぁ、3分クッキングより時間はあるわね」
 斉民らしい皮肉を込めた言葉だったが、弥十郎にはなんのことか分からなかった。
「ビフロンス、この黒フードの集団って何者なの?何をしようとしていたのか、教えてくれない?」
 炎の髪をした少女の姿の魔性に、美羽がビフロンスに問う。
「これ、知らない。けど、元ヒトだったみたい。私たち、狂気に落とされて…、この山を噴火させて暴れて、この土地を壊す…。そう、しなきゃ…って思えて…」
「(破壊だけが目的だったのかしら)」
 そのために火山を噴火させようとしたのだろうか。
 だとすれば、快楽目的犯行にしか思えない。
「他は、直接…この者たちから聞かないといけないわね」
 催眠術にかかってまだ目を覚まさない者を、フレデリカが見下ろす。
「魔法学校に戻って報告してそうな人もいそうだし。学校に戻る?フリッカ」
「うーん…」
「火山を見回りしていたルカルカから報告を受けたんだが。それらしい者はもう見当たらないようだ」
「そうなの?他の人の情報も聞きたいし、学校へ戻ったほうがよさそうね」
「ねーねー、フリッカ。蹴って運ぶ?」
「いえ…起こしたほうがいいわ」
 フレデリカは彼らの頬を強く叩き起こす。
「炎の手に触れられたくなかったら、さっさと歩いてね」
 優しさを見せず無理やり立たせて歩かせる。



「ふうん…黒魔術、ね。そりゃ興味あんな」
 隠れ身で様子を見ていたメアリー・ノイジー(めありー・のいじー)の中にいる者、グレゴリーは下山中のフレデリカたちを見つける。
 ニケ・ファインタック(にけ・ふぁいんたっく)のほうは、今日もメアリーを探して放浪状態だ。
 六連ミサイルポッドを撃ち不意打ちをくらわす。
「きゃあっ、何なの!?」
 土煙とメモリープロジェクターによる幻覚で霍乱し、捕縛されている黒フードの者を連れ去ろうとするが…。
「何かいるわ!!」
 斉民の目はごまかせなかった。
 うまく隠れたようにように見えても、中のグレゴリーまでは隠れきれるものではなかった。
「(くそっ、何で分かったんだ?)」
 グレゴリーは小型飛空艇で無理やり目当ての者を連れ去ろうとする。
「逃がさないわよ」
「わぁ〜、すごい早く飛んでいるね♪」
「―…やっぱり、なんかいるみたい」
 薄ぼんやりとだったグレコリーの姿が、はっきりと見えてきた。
「追いついたわ。それ、返してくれない?」
「(ばかな、追いついただと!?だったらっ)」
 祓魔師の能力を甘く見ていた彼の計算は狂い、小型飛空艇を急降下させて森の中へ駆け込んでいった。
「はぁ、はぁ。くそぅ、ちくしょう!!あいつらぁあ、気にくわない。消えろ、消えろ、消えてしまえっ」
 せっかく黒魔術を使う者に接出来たのに…。
 グレゴリーは殺意に満ちた怒りを沈めるために、手近な木を砂袋代わりに殴る。
 入れ物の後ろ姿しか見られなかったが、中にいる自分は見られた気がした。
 正直、祓魔師の力をなめていたのかもしれない。
 もっと作戦を立てる必要がありそうだ。
「まだ機会はあるはず。くふふ…、ははは……」
 顔を俯かせ、“今度はもっと上手くやる”と怪しげな笑みを漏らした。
 小型飛空艇が墜落した場所で、斉民と弥十郎は攫われかけた黒フードの者たちを回収し、イルミンスール魔法学校へ報告しに戻った。