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リアクション
同日 教導団本校 某所
「……歩兵戦闘のように一気に敵を制圧して終わり……ってわけには行かないか……」
教導団本校。
その敷地内にある私室にて、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)はぼやいた。
床に置かれたガラステーブルの上には何枚もの資料が並べられている。
その資料はとある人物についての情報を記したものだ。
――劉銀飛(リュウ・インフェイ)。
セレンフィリティとその恋人であるセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の二人が調べている人物だ。
この資料も、セレアナが彼について調べてきた情報である。
「まず第一に、比較されたことも当然あるだろうけど……インフェイが団長に対して強烈な対抗心を燃やしていたのは間違いないところね」
資料を前に、セレンフィリティは口火を切った。
セレアナはそれに黙って頷く。
その動作でセレアナはセレンフィリティに先を促した。
「彼が団長に対して対抗心を燃やしていたのは個人的な理由もそうだけど、彼の一族……劉家と金家との間に何かしら対立するようなことがあって、それに煽られていた可能性があったのでは? そうも思うの」
セレンフィリティはそこまで言うと、一拍の間を挟んだ。
そのまま指を顎に当てて考え込む仕草を見せた後、彼女は再び語り始める。
「少なくとも、中国の名家の出身でありながら、方や名家の一つに過ぎない劉家の一員、方や、九校連の一角を占める教導団の団長……そうした部分と、九校連における熾烈な権力争いの中で微妙にゆがめられた対抗心を九校連の反主流派に異様に利用されたのではないか――」
推論を口にするセレンフィリティ。
もっとも、その後にこうも付け加える。
「――って思うわけだけど、あくまでも個人的に思うだけで、確証はないわ」
セレンフィリティの言う通りだ。
現状、いくらか情報は集まっているものの、確証となるものはまだない。
一通りセレンフィリティの説明を聞いたセレアナ。
ややあって、今度はセレアナが口を開く。
「その可能性はあるわ。。幾らなんでも、個人で実験などできるはずもないので、それなりの後ろ盾があったと見るべきで、それが九校連……少なくとも反主流派であることは間違いないでしょうね」
恋人の仮説を補強するようにセレアナは言う。
その言葉にセレンフィリティも頷く。
相手が頷いたのを見届け、自分も頷いてみせてからセレアナは続けた。
「仮に実家ぐるみで反主流派と繋がっていたのではなく、あくまで彼だけの行動だったとしたら。尚更彼には何者かから何らかの協力があった筈よ。そうでなければ、あれほどの実験はできないわ。単に趣味でイコンを組むサークルというのならまだしも、新技術をそこに投入するなんて――」
そこまで説明した後、セレアナは資料の一枚を取り上げた。
「インフェイの家が九校連にどのような関わりがあったのかも併せて調査してきたわ。インフェイの個人的なつながりにすぎないのか、インフェイの一族も関わっているかでこの事件の突破口になりそうな気がしたから」
そのままセレアナは取り上げた資料の一枚をセレンフィリティへと手渡す。
受け取ってすぐに資料に目を通しながら、セレンフィレティはセレアナへと問いかけた。
「確かに、セレアナの言う通り。劉家はそれなりに教導団、ひいては九校連に出資してる。けど、それ自体はおかしいことじゃあないんじゃ……? だって、金持ちが自分の子息が通う学校に寄付とか投資とかするのは、別に教導団……そもそもパラミタの学校に限ったことじゃないし……」
その言葉にセレアナは頷きを返した。
「そうね。その通り。だから――」
「だから……?」
鸚鵡返しに問い返すセレンフィリティ。
彼女に向けてセレアナは答える。
「――いっそ、直接調べに行ってもいいんじゃあないかしら?」
その一言にセレンフィリティは思わず声を上げていた。
「直接ゥ!?」
一方、セレアナの方はすました顔だ。
「ええ。直接。インフェイの実家、つまり劉家は中国の四川省にあることはつきとめたわ」
「ってことはまさか」
「セレン、あなたの察しの通りよ。一度、行ってみるのも悪くないんじゃあないかしら? 現状でも調査は進んでるけど、行ってみれば一気に調査が進む可能性もあるわ」
するとセレンフィリティは再び指を顎に当てて考え込む。
「中国か……確かに、行ってみるのも一つの手ね――」