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【祓魔師】大掃除には早すぎる…葦原の長屋の泥棒掃除屋

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【祓魔師】大掃除には早すぎる…葦原の長屋の泥棒掃除屋

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第3章 エリドゥ・調査 Story3

 シィシャはグラルダに追いつくなり、“遅い。”と睨まれた。
 その態度に表情を変えず、“他の者の情報も、耳にしたほうがよいのでは?”と告げた。
「“対象”につながることを得なければなりません」
「アタシのやりかたが間違っているとでも?」
「いいえ。他者の視点で得ることも、手段の1つというだけです」
「視点を変えろということか」
 頷いたグラルダだったが、明らかに不満そうな面持ちだった。
「火山の件から想像しますと、彼らは自然災害を起そうとしていたように感じましたわ」
「尋問では、そんなふうに言ってたわ。人を苦しめて殺すことに、生き甲斐がある。そんなふうに思えたわ」
「やはり…災害を起すことが目的でしたか」
 対峙した時、綾瀬も彼らからは純粋な悪意を感じていた。
「今は目的について、考えている場ではりませんね。町の人に、いろいろと聞いてみませんことには…」
 ヒールらしき足音を耳にし、話を聞こうと綾瀬は“訊ねたいことがあるのですが。お話、よろしいでしょうか?”と呼び止める。
「こちら町の近辺で、自然に作られた遺跡や、昔から伝えられているような…伝説的な地形などはありませんか?」
「遺跡とか、伝説っぽいことは聞いたことないわね。変わったことといったら、すごい砂嵐くらいかしら」
「町中や海側ででしょうか。それとも外で?」
「外だったわね。ちょっと運動しようかなって、散歩に出かけたら。砂嵐のせいで、そこから先は行けなかったわ」
「どの辺りだったか覚えていらっしゃったら、描いていただけませんか?」
 綾瀬はノートを千切りペンを渡した。
「んー、…はいっ」
「どうも。砂嵐が起こる前、その辺りは何がありました?」
 簡単な地図を受け取り、ノートに挟んで質問を続ける。
「特に何もなかったかも。オアシスとかない、ただの砂だけのところね。観光するような面白いものとかないから。人もほとんど、行かないような場所よ」
「普段は滅多に立ち寄らないのですね。ありがとうございます」
 町娘に礼を言い、離れた綾瀬は“砂嵐の向こうに、何かありそうですわ。”と考える。
「これだけ情報が伝わりやすい世の中ですし。一般の人の中に紛れて、大胆な行動はしない…ということでしょうか」
「向こうは私たちの存在を知ってるわけだから。魔法学校にすぐ依頼がいくような、目立つことはやらないんじゃ?まー、知られても簡単に入れるようにはしない…って感じかな」
 綾瀬の呟きに、短期間で魔法学校へ情報が届くような手は、使わなさそうとドレスが言う。
「なるほど、それで砂嵐の壁ですね」
「あなたたちは、先程…見えましたか?」
「―…何のことでしょう」
 シィシャの言葉に綾瀬は首を捻り、ドレスのほうは“何々?”と言った。
「グラルダ、あなたは……」
「いいえ?」
「そうでしたか。…あの人の肌、傷がありました。それも、鋭利な何かにより、負わされたような傷跡です。小さなものですから、おそらく本人も気づいていないかと」
「砂嵐を目撃した場所でということ?」
「ええ、きっと。無理に進んでいたら、私たちと会うことはなかったでしょう」
 パートナーの声に小さく頷き、殺意があったと想定する。
「中を知られ、生きて帰すくらいなら。そのような壁は、必要はありません」
「知られたくない、何かがあるということね。あいつもいる可能性が高いわ」
 生かして帰せば、魔法学校に情報が流れてくると考えれば、それも当然の手段。
 黒魔術を教える知恵者も、そこにいるのだろうと想像する。
「おそらくは。ですが、“風の力”は…。黒魔術を教えた者の力はどうか、判断する段階ではありません」
「魔性の力を利用している可能性もありますわ」
「―…となれば、外の調査はどうしますか?」
「そっちは別の者が行っているかと。帰還するわよ」
「では、終わるまで…。私たちは、海側へ行きましょう。そちらで待っている方がいらっしゃいます」
「その必要が?」
 命令に逆らったかのように聞こえ、眉間にぎゅっと皺を寄せた。
「はい。…念のためです。今、章を使えるのは、グラルダ…あなたしかいないでしょう?」
「分かった…」
 無表情で告げるシィシャに帰還を止められ、レイカ・スオウ(れいか・すおう)の元へ向かった。



「町のほうはもう、よいのですね」
 振り返るレイカにシィシャは小さく頷いた。
「海岸にいる方に、今回の対象について聞くのですか?」
「えぇ。私のほうは町の人ではありませんけどね」
 エレメンタルケイジに触れたレイカ・スオウ(れいか・すおう)は浜辺を歩き、水の魔性の気配を探す。
 アークソウルは強い光りを示し、術者であるレイカにニクシーの位置が伝わる。
「お久しぶりです。会うのは、3度目でしょうか」
「レイカ。遊びに、来た?」
 また遊んでくれるのかと思い、嬉しそうに彼女の名を呼んだ。
「いえ、今日は少し訊ねたいことがありまして。黒魔術を使う者の存在を、知っていますか?」
「―…知ってる」
「人であった者のことでしょうか」
「それも、ある」
「会ったことは…?」
「ヒトだった、のは…話だけ」
「(エリドゥの事件には、彼らは関わっていないようですね)」
 町に訪れただけでグラッジやニクシーに対しては、人を襲えなどと関与していなかったようだ。
 しかし、近辺に潜んでいるとなれば、悪影響を及ぼすしてきそう。
 せっかく和解出来た彼らと、できれば戦いたくはない。
 早々に片付けるべき問題だと考え、質問を続ける。
「プリンばかり集めているという者は、彼らにヘッドと呼ばれていますか?」
「違う、それ…チビ、って聞いた」
「それは誰から…」
「レイカが、言った…プリン、に」
「他に…特徴は?」
 ヘッドという存在を少しでも知ろうとニクシーに聞く。
「知らない」
「簡単には、教えてくれないのですね」
「断った、から」
「え、断ったとは」
 その言葉に嫌な予感したレイカが気配に近づく。
「なんか、誘われた。けど、何か聞いてない。興味、ない。ウソばっか」
 ニクシーは嘘つきの誘いに乗らなかったと告げる。
「グラッジのほうにもでしょうか」
「知らない」
 目的が一致しない限り、ほとんど干渉し合わないため、一切気にかけていないようだ。
「どうだったか分からないのですね…。それで、プリンと呼ばれる方は…」
「ヒトでも、元ヒトでも…ない」
 人という存在ではない者、“魔性”だとレイカに教える。
「種族は、悪魔に、近い」
「名前は…分かりますか?」
「それくらい、は。…ディアボロス。ウソつき、能力…興味ない」
「ありがとうございます、名前を教えていただけても十分です。…あと、本当にグラッジのほうは…」
「―…何も、分からない。でも、あてがなかった、ら。別の、探す、って」
「まったく別の魔性を誘う…ということですね」
 ビフロンスがされたことを考えれば、ついていってら同じ目に遭わされてしまう可能性が高い。
 協力とは名ばかりで、誘いに乗ってしまえば道具として使われるのだろう。
「他に、気づいたことはありませんでしたか」
「プリン、が。子供、連れてた。…赤い髪の、子」
「ぇっ、子供?」
 もしやボコールたちの頭ではと思い、思わず声を上げた。
「すごく、震えて…た。昔…黒いの、いた。同じ…の。それと、たぶん、一緒は…いけない」
「“ヘッド”とは、違う存在なのですね」
 ニクシーの前で演技する意味はないだろうし、震えていたという表現を考えれば、別の者なのだろう。
「レイカ、遊ぼう?」
「すみません、今日は遊べないんです。また、今度ですね」
「そう………」
 申し訳なさそうに言うと、ニクシーは寂しそうに離れていった。