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【祓魔師】大掃除には早すぎる…葦原の長屋の泥棒掃除屋

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【祓魔師】大掃除には早すぎる…葦原の長屋の泥棒掃除屋

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第5章 おそーじさせましょ、おそーじしてあげましょ Story2

「―…入り口で待ってもらっておくか。さて、誰が迎えに行けそうなやつはいるか?」
 一輝からメールをもらった月崎 羽純(つきざき・はすみ)が、茶の間にいる仲間へ顔を向ける。
「歌菜が解呪中だから、俺らのほうは無理だな」
 バタバタと急がしそうに掃除する村人を追いかけては、ホーリーソウルの気を送ろうとする彼女を見る。
「わ、私とロラでよろしければ。で…ではっ」
 高峰 結和(たかみね・ゆうわ)は遠慮がちに手を挙げて、おどおどとした口調で言い、戸をそっと開けた。
「ロラ、時の宝石の力を、私に…」
「うぅー!(いっきに行くよ!)」
 パートナーの背にしがみつき、ロラ・ピソン・ルレアル(ろら・ぴそんるれある)はペンダントに触れる。
 祈りの言葉を紡ぐと、藍色の宝石が輝きを見せた。
 限界まで走行を速め、掃除させられている人々の中を駆け抜けていく。
 一輝のところへたどりついた頃には、ロラの精神力が尽きてしまっていた。
「ありがとうございます、ロラ」
 背から落ちそうになっているロラを肩に乗せて礼を言う。
「すまないな」
「い、いえっ。そ…、それでは、ご案内します」
「他に宝石使いはいるか?」
「えっと、ロラですが。今はちょっと」
 ぐったりしているパートナーの頭を指で撫でてかぶりを降る。
「結和さん走るの速いな……。宝石の能力かな?」
 長屋の出口へ駆けていく結和の姿を見つけ、何かあったのだろうかと思い、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)が追ってきた。
「どなたか、呪いにかかってしまったんですか。それとも怪我を…」
 ミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)は呪術にかけられたり、傷を負ったりしていないか、彼らをじっと見て調べる。
「あ、あのー。お迎えに来ただけだけなんです」
「そうだったのか?何事もなくってよかった」
「お父様、わたくしたちもついて行きませんか?探知する者がいませんと襲われた時、反応が遅れてしまうでしょうから」
「ロラさんの回復もしてあげないといけないからね」
 放っておけないと言うミリィに、そのつもりだと小さく頷いた。
「俺は少し離れていくよ」
 一輝は迷彩塗装を施した龍鱗の盾に隠れ、小型飛空艇アラウダを操縦して後ろからついていく。
「お父様!お掃除している人が、こちらへ来ますわ。…どうやら、強制憑依させた者ではないようです」
 ペンダントを覗き込み、アークソウルの反応を見てチェックする。
 ミリィの瞳に映った村人は、竹箒で休む間もなくシャカシャカ通りをはいているようだ。
 いつからやらされているのか、ぜぇぜぇ息を切らせていた。
「エリザベート校長によると。あの呪いの進行で、毒などの侵食はないようだけど。身体の疲労はかなりのものだろうね」
 掃除させられ続けては、彼らの身体が参ってしまう。
「私たちは解呪を行うから、コレットさんは彼女が動かないように、止めてくれないか」
「うん…!」
 ハイリヒ・バイベルを脇に抱えたコレットは、村娘の背後をとって両腕を掴む。
「あわっ、じっとしてて!!」
「はわわ…、わ…私は何をすれば?」
「やつらが襲ってきた時のために、すぐ術を唱えられるようにしてくれるとありがたいな」
「は、……はいっ」
 涼介に頷いた結和は詠唱の準備をするべく裁きの章のページを開く。
 だんだんと落ち着いた様子を見せる彼女から、ミリィへ視線を戻した涼介は、エレメンタルケイジに触れる。
「全てを癒す光よ、傷付き苦しむものに再び立つ活力を」
「癒しの光よ、傷付きしものに活力を与えよ」
 彼に合わせてミリィも詠唱し、温かな優しい光が呪の邪気に苦しむ者の中へと溶け込んでいくタイミングを見て、柔らかな白い光を村娘の手に触れて送り込む。
 2つの浄化の気が、身体を支配する邪気を探る。
「(さて、どこに隠れているのやら)」
 魔法学校へ依頼があってから、葦原の長屋へ到着した時間の経過を考えると、だいぶ時が経っているだろう。
 その分、呪いの侵食も深いものとなっている。
「アークソウルの光りが?こ、これは…。結和さん、例の者が来ますわ!」
 大地の宝石は鈍い色合い輝きを見せ、治療に集中しているミリィに気配のポイントを伝える。
「―…はい。(引き受けたからには、私が皆さんを守らなければ)」
 ロラにも火山であったような怖い目を、2度とさせたくない。
 白の衝撃のオーラを纏い、詠唱の言葉を紡ぐ。
「へへっ、石にしてやんよぉー」
「(ぁあ…っ、間に合わない!?)」
 目を閉じそうになった瞬間…。
 “大丈夫だったかな?”と、聞きなれた声が聞こえた。
「弥十郎さん?」
「いやぁ、斉民にエターナルソウルで速くしてもらってね♪」
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が守ってくれたらしく、石化の魔法にかからなかったようだ。
「探知だけじゃなくって、盾にも使ってやっていいよ」
「それ、酷くない?ワタシをなんだと思っているのさ」
 ぶーぶー文句を言うが、賈思キョウ著 『斉民要術』は農業専門書は謝ることなくそっぽを向く。
「あれは、ワタシと斉民が引き着けておくから。結和さんは術に集中してね」
「はわっ…あ、ありがとうございます」
「あのバケツを何とかできればいいんだけど…。囮になってバイオポンプを誘い、その噴射をエターナルソウルで避けるというのはどうかなぁ。至近距離から祓魔銃のミストで目潰しとかかなぁ」
「飛沫があるのだから、完全に避けられるとは限らないよ。やるなら、打たれる前に動いとかないと。あと、奇襲だから1回しかダメかもね」
 術者や村の者を守るために弥十郎が猛毒の水を被るのは構わないが、仲間のほうへ散ってしまった場合を想定して警戒する。
 相手の耳に届かないよう小声で言い、パートナーの作戦に呆れた斉民は、仮に成功したとしても次はないと注意する。
「長く持続させるようにしたから制限時間は20分。できる限り相手を混乱させなさい。皆が楽できるようにね。あなたが掃除されたら笑うけど」
「むっ、笑うとかやめてよ」
「怒らないの、平常心を保ちなさい。魔道具の力に影響がでてしまわないようにね、分かったらさっさと行く!」
 囮になれと彼のドンッと背を押す。
「うわ!危ないなー、もっと優しくしてよね」
「ちぃ。ジャマくせーなぁ。てめぇから沈めてやんよ」
 ペトリファイの魔法の成功率では成功率が低いか、と判断してポリバケツを脇に抱えて弥十郎に向ける。
「―…っと。ふぅー、危ない危ない♪」
 バケツの口から発射された猛毒の水を、斉民による時の加速でかわす。
「(どっちの方向に動くか。…っ、しまった空へ!?)」
 祓魔銃で相手の術の発動を邪魔しつつ、じっくり観察してやろうと行動予測しようするが…。
 相手の動きをイメージできず、地獄の天使の翼で空を飛ばれ、上をとられてしまった。
「ばぁか、掃除でもしてな!」
「(ふふん♪こっちはスピードあげてかわしちゃうよ)」
 にやっと笑い人型の毒々しい灰色の塊りを軽々とかわしてやる。
「一発避けたくらいでよゆーそうじゃねぇか。Seele sich ausruhend nicht,ewig,setzen Sie fort,Boden
zu reinigen!(その魂休むこと許さず、永久に、地を清め続けよ!)」
 本当の狙いは解呪中の2人だったらしく呪いの言葉を唱える。
「しまった…っ」
「もう、おせぇーよ!!」
「むぅ……。…な、何だろうこれ、白い光の糸?」
 魔性を強制憑依させた者を、悔しげにを見上げると細く繊細な糸のようなものが、相手のほうへ伸びていく。
「忌々しい、祓魔術め」
 それに気づいた彼は、舌打ちをして離れる。
 標的を失った呪いは空へ舞い、消えてしまった。
「―…うぅ、逃してしまいましたか」
「涼介さんたちを守れたんだから、よしとしようよ?ありがとうね♪」
 俯いて落ち込む結和に、弥十郎はにこにこと笑顔で声をかけて礼を言う。
「さっきのって、哀切の章の能力かな?」
「え、えぇ。イメージで糸の形にしてみたいんです。(簡単に、思うようには、上手くいきませんね…)」
 白の衝撃の力で、哀切の章の強化を試みたが、思った能力は得られなかった。
「(同じ術を、2度連続使える…ということですが。もっと、他の使い方を考えなくては)」
 連発させても、それぞれ1度ずつの効果しかない。
 術を重ねて威力も威力は上がらないだろうから、ファーストアタックをどう扱うかがポイントになるかも…と考える。




 襲撃者を退かせたすぐ後、幸いなことに新手と遭遇する前に、涼介とミリィは解呪を終えることができた。
「ひとまず、これで安心かな?」
「よほどお疲れのようですわ、寝てしまいました」
 ぐったりと横たわり、寝息をたてる村娘をミリィが見下ろす。
「は…、お父様。また気配が…。この方を早く避難させましょう」
「このままにしておいたら、また呪いにかけられてしまうだろうからね」
「私が運んであげる。(というか、私しか手があいてないし)」
 弥十郎に任せようと思ったが、祓魔銃を持っているから無理と即答されるだろう。
 しぶしぶ斉民が運ぶことにした。
「うーん、どこへ運べばいいかな」
「こ、こちらへ。私が、案内します」
「さっきのやつらみたいなのに、見つかると面倒だし。さくっと行こう」
 囮用程度に使うつもりだったが、状況的にしぶっている場合じゃない。
 エターナルソウルの力を分けて加速させ、結和の案内で遠野 歌菜(とおの・かな)たちがいる民家へ駆ける。
 歌菜たちのほうはというと…。
 呪いで強制的に掃除をしている村人を、取り押さえようとすることで手一杯だった。
「ああもう、呪いの解除が出来ない…っ。止まってください!…と言っても、無理そうね。羽純くん、捕まえて!」
「こう動き回られちゃ、やっぱりキツイか」
 ばたばた掃除し続け、止まる気配を見せない村人を見据え、羽純はやれやれと肩をすくめた。
 時の宝石で走行に加速をかけ、呪いにかかった者を捕まえて畳へ転がる。
「ひっ。な、何するんだぁー?」
「いいからじっとしてろ。あまり、手荒なマネはしたくないんでな」
 暴れる相手を止めようと、うつ伏せにさせる。
「怖いわねー。あなたも物取りに押し入ったやつみたいよ?」
「うるさい、黙ってろカティヤ。歌菜、早く解呪を」
 “女神の私に、なんて口の利き方するの!”と怒るカティヤ・セラート(かてぃや・せらーと)を無視して歌菜を呼ぶ。
「うん、しっかり押さえていてね。(ずっと掃除させられてたのかな…)」
 ホーリーソウルの聖なる気を注ぎ、身体を操る存在を探す。
「解除されなきゃ倒れるほど疲れても、続けているってことだよね?」
 手放そうとしない竹箒を目にし、リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)は呪いにかかった村人の様子を見る。
 いったい何時間、掃除していたのだろうか。
 酷く肌の血色が悪く、汗もはっきりと見えた。
 身体の疲労はもちろん、必要な水分が全部身体から出てしまったら、へたしたら死んでしまうのでは…とも思えるほどだ。
「トラウマにならなければいいわね」
 一生分の掃除をした感じになってしまっては、いくらキレイ好きでも片付けだとかキライになってしまいそう。
 “ごめんね、女神の私でも治してあげられないの。”と心配そうに瞳を潤ませた。
 取り押さえることで手一杯の羽純は、つっこむ気にすらなれなず無視する。
「村の人の身体から、黒い影が…!」
 抜け出た人型の女のようなものをリーズが見上げる。
 それは金切り声を上げて消滅してしまう。
「あ…、ってことは解呪終わったんだよね」
 襲われた人の状態を見ようと、畳に座って顔を覗き込んだ。
「ありゃりゃ寝ちゃってる」
「相当疲れてたみたい。しばらく、お話は聞けそうにないかも」
「どうするんだ、歌菜。猫又のこともあるし、ずっとここにいるというわけにもな」
「もちろん、最優先にしたいわ!けど、聞き込みもしなきゃだから…」
「―……しっ。喋るな、誰か来るぞ」
 アークソウルでいくつか気配を感じとった羽純は、木造の戸のほうへ寄る。
 トントントンッと戸をノックする音が聞こえ、おどおどとした若い女の声が聞こえた。
 耳慣れた声音に安堵して開けてやる。
「お連れしてきました…」
「メールじゃ、2人だったみたいだが?」
 地球人は探知に入らないとしても、気配の多さに警戒していた羽純が首を傾げた。
「え、えぇっとですね、通りで助けてもらったのです。呪いのほうは、解除できましたか?」
「さっき終わったところだ。村人から話を聞こうにも寝てしまったからな。起きるのを待っているんだ」
「そ…そうでしたか。わ、私も起きるまでお待ちしてますね」
 畳に正座した結和は、ロラを休ませようと膝へ乗せた。
「見張りは彼らがやってくれるようだから。ロラさんを回復させてあげようか」
「あ、ありがとうございます、涼介さん。(早く、元気になってくださいね、ロラ…)」
 喋ることすら辛そうなパートナーの小さな身体に触れてじっと見守る。