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【ぷりかる】水無月スーパーライブ

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【ぷりかる】水無月スーパーライブ

リアクション


準備と警戒(2)

「つまり、外部に送られていたという事実はない、と」
 バックステージの小さなロビーにて、テーブルに置かれた「例の脅迫状」を前に桐生 円(きりゅう・まどか)ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)に問いた。
 つい先ほどまで【ぷりかる】の控え室に出入りしていた彼女はグィネヴィア・フェリシカ(ぐぃねう゛ぃあ・ふぇりしか)から脅迫状に関する情報と現況を聞いてきたようで―――
「そうなんですよ〜。学園やテレビ局なんかには一切送られてないそうです。会場宛の一通だけだって言ってましたです」
「となると、宣伝目的ってのも怪しくなってくるわね」
 古いアイドルを蹴落として新しいアイドルがデビューしちゃうよー、お楽しみに! みたいな感じなら外部に煽りまくるだろうし、ニュースサイトやブログ等々への書き込みも見当たらない。となれば「今日デビューする新人が犯人」という可能性は低いということになる。
「仕方がないね」
 脅迫状に手を添えると、瞳を閉じて『サイコメトリ』を唱えた。
 物品に触れることで、その物品に籠められた想いや、その物品にまつわる過去の重大な出来事を知ることができる―――はずなのだが、
「……っ!!」
 書状が印刷される様や封筒に入れられる様子などが見えるのだが、どうにも「やたらとノイズが入って」見えづらい。
 『サイコメトリ』を警戒して何らかの対策を講じていたという事だろうか。だとしたら犯人は相当に魔術に詳しい者という事になるのだが……。
「これは……ますます怪しいねぇ」
 思い当たる人物が一人いる。イルミンスール魔法学校のベルバトス・ノーム(べるばとす・のーむ)教諭だ。
 彼ならば『サイコメトリ』対策も可能であろうし、辛うじて見えた「書状に封をする者の手」も彼のパートナーであるアリシア・ルード(ありしあ・るーど)の手だとすれば納得がいく。
「………………まぁでも、そこまではしないかな」
 以前から親交の深いだからこそ……そう信じていたかった。


 そんな疑いの目を向けられたノーム教諭はといえば、
「ここから先はNGだ」
 バックステージ、出演者控え室前でシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)に引き止められていた。
「どうしてだい? 私も会場の警備を任されているんだけどねぇ」
「あんた等は外の警備だろう? ここはオレたち『白百合団』の管轄だ」
 彼が「紫銀の魔鎧部隊」を編成して会場の警備に就いている事は知っている。しかしだからと言って控え室に通す理由にはならない。
「話があるならオレから伝える。つーか誰に会いに来たんだ? 警備に関する事か?」
「もちろん。私は変態ではないのでねぇ、それ以外の理由でこんな所までわざわざ足を運ぶなんて事はしないのだよ」
「知らねーよ、つーか、あんたが変態がどうかなんて、どーでもいい」
「と、とりあえず、」
 一触即発な空気を感じて、サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)が割って入った。
「身体検査をしたら良いんじゃないかな? ねぇ、シリウス」
「それは断る」
 シリウスが応える前ににノーム教諭がこれを拒否した。
「いや、でも、それが決まりなので……」
「検査をすれば通してくれるのかい? いいや、通してはくれないだろう、通す理由にはならない、そうだろう?」
「その通りだ、分かってるんじゃねぇか」
 また気まずい空気に。再びにサビクはアワアワとしたが、教諭もこれ以上粘るつもりはないようで、「くっくっくっ」と笑いながらに背を向けた。
 サビクはホッと胸を撫で下ろしてから、
「それじゃ、ボクは持ち場に戻るよ」
「おう、任せたぜ」
 バックステージに出入りする者に目を光らせ、怪しいと思う者に職質をかける。そういう意味でもノーム教諭は抜群に怪しいオーラが出ていたのだが、本人が引き下がったのだから問題はないだろう。
 他にも警戒すべき事は山ほどあるのだから。


「あの」
 サビクらは良しとしたが、桜月 舞香(さくらづき・まいか)はそうはしなかった。
「白百合団班長の桜月舞香です。少しよろしいでしょうか」
 去りゆく教諭の背に声をかけて呼び止めた。
「何だぃ? そんなに私は異質なのかな?」
「あ、いえ、その……」
 取り繕いながらに彼女は『ディテクトエビル』を発動した。
 邪念を抱いている存在や、自分や味方に害をなそうとする存在の居場所を感知する事ができる。教諭が何か企んでいるのなら、何かしらの反応があるはずだが―――
「先程は失礼致しました。彼女も悪気があったわけではないのですが」
「分かっているよ、実に仕事熱心な娘だ、良い瞳をしている」
 反応は無し、つまり彼に悪意は無いというになる。胡散臭いオーラは全開に出ているのだが……。
「警備へのご協力、感謝します」
 何もなかったかのように教諭は再びに歩み出した。悪意の反応が無かった以上、彼は白という事になる。
 彼に気を取られている隙に誰かが侵入した? いやそれもない、そうした事態を防ぐためにシリウスらの応対も含めてチェックしていた。不審者はもちろん、スタッフの出入りもこの間には見られなかった。
「綾乃、そっちの状況はどう?」
 インカムで桜月 綾乃(さくらづき・あやの)に問いかけた。彼女は出演者控え室の見張り役を務めている。今は【ぷりかる】の面々がメイクを行っているようだが、
「変わったことはありません。みなさん、とてもリラックスされてますよ」
 表面的には笑顔を見せているという事だろう。
 警備が物々しくなればなるほど彼女たちも緊張してしまう。綾乃は見張りだけでなく、メイクやお茶を出したりして緊張を解してあげたいとも言っていたが、いまのところそれも上手くいっているようだ。
「グィネヴィアさん、とっても綺麗ですよ。お姫様でアイドルなんて凄いなぁ。頑張って下さいね」
「ありがとうございます。綾乃さん、メイク上手ですわね」
「そんな事ないですよ。自己流なのでいつもお母様に怒られてしまって……もっと基礎を勉強する必要がありますねって」
「基礎ですか。それなら私も一緒に学び直さなきゃですね。私の方が明らかに手つきが荒いですし」
「そ、そんなっ! そんな事ないですよっ! グィネヴィアさん、とってもお上手ですよっ」
「ありがとう。そうだ、今度一緒にメイク教室に行ってみません? 知り合いの方が開いているスクールがありますの」
「本当ですか?! ぜひぜひお願いします!」
 何だろう………………すごく楽しそう。今はグィネヴィア・フェリシカ(ぐぃねう゛ぃあ・ふぇりしか)についているようだが、聞こえてきた様子だと、控え室は安全なのだろう。
 バックステージの警備体制に穴はない、出演者控え室も異常なし。
 白百合団班長の一人として舞香の統制と判断に間違いはなかった。ただ一点、去り際のノーム教諭の一言を聞き逃した事を除いては―――
「ふぅむ、やはりソフィア・アントニヌス(そふぃあ・あんとにぬす)には容易には近づけないようだねぇ」