天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

【ぷりかる】水無月スーパーライブ

リアクション公開中!

【ぷりかる】水無月スーパーライブ

リアクション


開演

 技術の進歩とは何とも実にめざましい。
 現在ではライブ演出等の照明操作はプログラム管理が主流のようで、マウスのクリックやノズルを動かすだけで天井部のライトを自在に操ることができる。
 今日この時ばかりは「照明係」の一員となったコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は、一応に一通り、それらの説明を聞いたのだが―――
「さっぱり分からない」
 どこかのガリレオな物理学者のような台詞を吐いて首を傾げた。
「そうですね……では……」と先輩技師も困り顔をした後に、
「少し重いですが、アレなんて如何でしょう」
 勧められたのは総重量が1トンにもなる大型のライトだった。会場の後方からでもステージ上のひと一人をすっぽり覆い照らす事ができるほどの高性能ぶりだそうだが、それ故に何より機体が重い。ステージ上を激しく動き回るアーティストのステージには不向きな代物だが―――
「うむ、なるほど、これは中々の重労働だ」
 言葉とは裏腹に、彼はスポットの首を左右上下に自在に動かしてみせた。
 怪力巨体な彼のポテンシャルが思わぬ所で生かされている。スポットの首は明らかにノズルで指示して動かしたそれよりも速く正確に動いていた。
 {bold大型ライトの操作を彼に一任した先輩技師だったが、一点だけ『彼がライトの首に顔を添わせていること』が気になって指摘したのだが―――
「む? なるほど、いや大丈夫だ、私はアイドルの皆の熱い想いに感じ入っている! この程度の熱さなどなんのそのだ!」
 そうなのである。何を隠そう、いや隠してはいないが、今日のライブには彼のパートナーであるラブ・リトル(らぶ・りとる)も出演するという。
 自称とはいえ彼女もアイドル。可愛いあの娘の晴れ舞台をより一層に輝かせてみせようぞ、と彼も気合い十分なのだった。



 会場の照明が落とされる。
 観客たちのざわめきが少しばかりにトーンダウンした、正にそのときだった―――

「AHー、ゆー、レディ?」

 天井に向けて噴き上がるスモーク、そして爆音が弾けた所でライトアップ。ステージを覆う白煙の中からラブ・リトル(らぶ・りとる)を先頭にアイドルたちが次々と十字の花道へと駆け出してきた。
 思い思いに観客に向けて手を振ったりポーズを取って見せる中で、まず初めにマイクを手にしたのは五十嵐 理沙(いがらし・りさ)だった。
「水無月スーパーライブっ! その幕開けは「ハレルヤ」な気分でスタートダッシュで行っくよー☆ ラブちゃん〜〜〜よろしくっ☆」
 曲は魔法陣がグルグルな「ハレルヤ」ソング、メインボーカルを務めるラブ・リトル(らぶ・りとる)が元気いっぱいに跳ねて魅せた。


「ん」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は「その声」に気付いて顔を上げた。手元の資料から部屋隅のTVへと視線を移す。いつもは「おにーちゃん」と無邪気に寄ってくるノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が画面の中で歌い踊っている。
Let’s Sing ! Let’s Dance !
 画面に近づきボリュームを上げると歓声もまた大きくなったが、幾らかはっきりとノーンの声も聞こえてきた。
「Let’s Enjoy Ourselves All Together ! May You be Happy !!」
 得意の『マジカルステージ』や『リリカルソング』を駆使しているのだろう。身軽なダンスと弾むような歌声は画面を通してでも熱気や楽しさが伝わってくる。
 きっと仕様は普通なのだろうが、耳に付けた「インカム」が大きく見えるのもまた可愛らしかった。
 ファンの皆と一緒になって、ある晴れた日に嬉しさを集めるのは簡単なんだよ、な「ハレルヤハレルヤ」ソングを歌った所でようやくに、五十嵐 理沙(いがらし・りさ)セレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)の2人は、
「本日のライブの司会進行を務めさせていただきます【ワイヴァーンドールズ】ですっ☆ どうぞよろしくお願いしま〜す」と自己紹介を行えていた。
 ライブの冒頭は皆が知ってる「ハレルヤ」ソングで一気に盛り上げる、がコンセプトだっただけに割り込む間が無かったようだ。
「さて続いては【マジカラット】の登場だー☆ 曲はシェイクでブギーな明日からも2人なら「ハレルヤ」ソングよっ☆」
「!!!」
 この紹介に、ステージ上でスタンバイポーズをとっていた白波 理沙(しらなみ・りさ)が瞳を泳がせた。
「えぇっ! ちょっ、曲違くない?!!」
「え? そう?」同じくポーズをとる愛海 華恋(あいかい・かれん)が何でもないという風に応えた。
「違わないんじゃない?」
「違うでしょう! 最初の曲は「一足先にフライングしてでもゲットするわよ!」っていう肉食テイストの曲のはずでしょう?!」
「それはこの次、この曲の後。まずは「最高でヒッピハッピーシェイク」な曲で盛り上げるんだよ☆」
「だったらこのフリル要らなかったんじゃない?!! 思いっきりダンスナンバーだし、本歌は男性が歌ってるものじゃない!」
「この後に及んでまだそんなことを……」あきれ顔で言ったのは白波 舞(しらなみ・まい)理沙と同じくコーラスとダンスを担当しているが、衣装に関しては彼女の見解とは異なるようだ。
「さっき納得してたでしょう? さっきの言葉は嘘だったの?」
「嘘じゃないけど……でもこのフリルは……」
 またモジモジし出した理沙の様を見て、衣装を作成したチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)もため息を吐いて言った。
「これでも今回はフリル少なめなんですよ? これ以上少なくすると私たちのアイドル活動にも支障が出ますわ」
「そんな事ないでしょう?!! フリルの量でアイドル活動の是非が問われるなんてそんな―――」
「わたくしの作った衣装、お気に召しませんか?」
「うっ…………いや……そういう事じゃなくて……」
これはイイわねと言って下さったのは、あれは嘘だったのですかっ?」
「違っ……あれはその……いつもこんな感じなら別にアイドルとして参加してもイイって意味で言っただけで―――」
(キュピーン!)
(キュピーン!)
 かかった。
 理沙の口から「アイドルとして参加してもイイ」だなんて……その言葉をどれほど心待ちにしていたことか。
「理沙さん……やっとやる気になってくださったのですね」涙目から一転、キラキラと瞳を輝かせてチェルシーが言う。
「うん、よかったわー。理沙がやる気になってくれて。」ここぞとばかりにも笑顔で攻め立てた。
「やっぱりリーダーがやる気になってくれないと気合い入らないものね☆」
「わたくし達、とても嬉しいですわ♪」
「いや、あの、ちょっと待って……」
 慌てて取り消そうにも、時すでに遅し。
「っていうか、いつの間にリーダー決定したのよっ?!」
「理沙、曲、始まるよ☆」
「あ〜、もうっ!!」
 弁明も弁解も撤回もできないステージ上。すでにシェイクでブギーな曲の前奏が流れ始めている。すると誇らしくも憎たらしい事に、体は勝手に曲に合わせてビートを刻み、歌に合わせて踊り始めていた。
 振りは練習の通りだがそれ以上にキレが良いのは、戸惑いやモヤモヤを体内から押し出そうとしているからに違いない。
「いいわ、いいわよ、やってやるわ」
 見せ場は「フライング気味な肉食女子曲」の間奏部分、そこでのダンスパートで観客の心を鷲掴みにするその時まで、理沙は一心不乱に踊り続けたのだった。