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【ぷりかる】水無月スーパーライブ

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【ぷりかる】水無月スーパーライブ

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アーティスト

 続いての演目も「花道中央に設置された特設リング」が継続して使用されていた。
 ただしこちらは「コント師」を目指す2人に非ず。正真正銘「アイドルレスラー」としてデビューを果たす2人組、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)斑目 カンナ(まだらめ・かんな)によるデビュー試合である。
 試合開始を告げるゴングが今、鳴らされた。
 互いに向き合い、間合いを計る。
 曲のリズムに素直に乗っているのは「ハートブレイクカンナ」こと斑目 カンナ(まだらめ・かんな)、リズムの裏拍を取ってスイングしているのは「謎の魔法少女ろざりぃぬ」こと九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)だ。
 警戒ゆえの静況はここまで、わずか数秒。曲のイントロが終わると同時にろざりぃぬが飛び出した。
 駆ける勢いを利用してダイブ! 先制の「その場飛びカンクーントルネード」(※捻りを加えたムーンサルトプレス)が炸裂した。
 ド派手な飛び技に会場が一気に沸き上がる。それらの歓声を力に、「スイングDDT」(※相手の頭を左脇に抱えたまま相手の体を軸に自分の体を旋回、背中からマットに着地することで相手の頭をマットに叩きつける)へと繋いでハートブレイクカンナの体をぶん投げると、そのままマイクを手にして「曲のサビ部分」をどや顔で歌い出す。客を煽るように、呼びかけるように歌う様は会場のボルテージを一気に上げて盛り上げた。
 間奏に入るとろざりぃぬはマイクをリンク中央に置いた。そうして再び両者が向き合う。その直後、ハートブレイクカンナの「ボマイェ」(※片膝を付いた相手の顔面に膝蹴りを叩きこむ)と「バズソーキック」(※相手の左側頭部を自分の右足で蹴りつける)が炸裂! そのまま一気に主導権を握ったまま2度目の「サビ」へ。すると今度はハートブレイクカンナがマイクを手にソロで歌い始めた。なるほどどうやら、試合の中で優位に立った者がマイクを手にして歌うという演出のようだ。
 アイドルであり、レスラーでもある。
 最後はろざりぃぬの「ドラゴンラナ」(※コーナー上から相手めがけて飛び、空中一回転した後に相手の肩口に跨がる、そこから後方へ仰け反り、そのままエビ固めへと繋ぐ)が派手に決まり、観客から起こったカウントの末に勝負あり。
 最後の最後は2人声を合わせて歌い、観客にタオルを投げてリングアウト。
 プロレスとアイドルの共存と融合を目指す2人の新たな第一歩は、多くの観客に見届けられながらに大成功という形で踏み出されたのだった。


 花道ステージの中央から、再びにスモークが噴き出した。
 一瞬の静寂に包まれる会場。それを打ち破いたのは、一つのドラム音だった。
 一つの楽団の「打・管・弦パート」がそれぞれ花道の四端にまとまっている。
 演奏の始まりは先のドラム音。一斉に順音が紡がれてゆき、曲となる。
 肩でリズムをとり、思わず踊りたくなるようなリズミカルな曲調に声を重ねるのは【2022ライブフェスタ】の覇者であり、アイドル・シンガーソングライターの赤城 花音(あかぎ・かのん)である。
 披露するのは、もちろんオリジナル曲。曲名は『ワイルドメーカー』。

♪♪♪
遥かな夢へ駆け出す鼓動 真っ白なノートを広げて
幻想に浮かぶ創造の扉 君へ届けたい始まりの言葉
自分自身に問い掛けて 心の輝きを生み出すよ
願いの数だけ灯る真実 行こう希望のファンタジー

五線譜に踊るメロディー 嬉し涙も悔し涙も乗せて響くよ
出逢えた全ては宝物 僕は歌い続ける…ありがとう

見果てぬ青空へ解き放つ想い 感じるインスピレーション
天地創造の正義のペン 感じる心は自由の翼
目覚めた命を護る力 運命を超えて未来へ導こう
君は何を描きたい? 織り成す新世界へ旅立つよ!

僕らはワールドメーカー クリエイティブ仲間だね♪
♪♪♪

 演奏はに尽きる。
 当然といえばそれまでだが、重要なのは「どこまで拘るか」。その度合いがパフォーマンスの出来を大きく左右する。
 そうした意味では今回のステージにおける一番の功労者はリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)かもしれない。
 846プロを通じてではあるが、世間的にはまったく無名の楽団に目をつけて交渉、そして契約をまとめるに至るまでを、花音のマネジメントと平行して行ったそうだ。
 ライブでの生演奏に拘りたい。
 彼のこの信念がこそが、花音のパフォーマンスと観客の高揚感とを強烈に結びつけ、最高の一体感へと導いたのだった。


 会場内メインステージに「揺らめく海中」が出現した。
 演出しているのはブルーとグリーンの照明。それを薄く張ったスモークに当て、微風で揺らす事で静かに漂う揺波を表現していた。
「みなさーん☆こんにーちわー☆ネットの海からカンテミールへ☆」
 海中を漂うのは「バーチャルアンドロイド」の富永 佐那(とみなが・さな)だ。
「海音☆シャナ、水産で〜す☆みんなまだまだ元気だよね〜☆」
 拳を突き上げて観客たちがこれに応える。押し寄せる歓声に答えるように海音☆シャナはステージ上で躍動する。
 普段はディスプレイ上でしか見られなかったアンドロイドアイドル海音☆シャナが目の前で歌い踊っている。ファンにとっては何よりの喜びだが、会場が最も沸いたのは曲の終盤、ラストサビ前の間奏時にそれは起こった―――
 突然のサプライズ。
 海音☆シャナは、マイクを持っていない方の手を背中へ回すと、そこから一気にファスナーを下ろしたのだ。
 ある熱狂的なファンは言った。「あれは羽化だった」と。
 フリルをなびかせ、ロングブーツでタップステップ、エメラルド色したロングヘアーが軽やかに波間を泳いでいる。
 ゆる族の抜け殻を加工して作った超精巧コスプレ用着ぐるみを脱ぎ去った彼女は、戸惑う観客たちを余所に一気にサビを歌い上げる。その熱が観客たちをも巻き込み、再びの大熱狂を沸き上がらせた。
 初めて感じる生の声援、割れんばかりの歓声に海音☆シャナは涙を抑えきれなかった。最後は声も上手く出せなくて、それでも観客たちは温かく見守ってくれて。
 ネットアイドルから現実のアイドルへ。アンドロイドアイドル海音☆シャナの更なる進化が、この瞬間から始まったのだった。


 美しく煌びやかな世界から一転、ステージ上は無機質で色彩のない空間へと姿を変えた。
 その中で囁くようにして歌うのはコスプレアイドルデュオ【シニフィアン・メイデン】。綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)の2人は「サイバーパンク風なボーカロイド衣装」に身を包み、オリジナル曲である『Forbidden Colours(禁じられた色)』を歌い奏でる。
 表現するのは「光と影のコントラスト」。
 無機質な色と声色により影の表現から入ったが、影の中に光を灯すのもまた2人の声。ささやく声にもリズムがともり徐々に意志を帯びた歌へと変化を遂げる。
 無機質だったステージ上の空間も少しずつだが確かに色彩を取り戻してゆく。曲が中盤に差し掛かる頃にはステージ上は圧倒的な光と色彩に満ち溢れていた。
 どんなに光が優勢を極めようとも決して影が消える事はない。光が強ければそれだけ深く鋭利な影が生まれてしまう。そんな影にアデリーヌが捕らわれた。
 絶望がその身を支配した時、人は心と体の自由を失う。光の中で躍動するさゆみには、そうした闇は気付けない。強すぎる光もまた人を盲目にしてしまう。
 絶望は人を孤独にする。誰かに助けを呼ぶ事も誰かを頼るという考えすらも浮かばない。それでもアデリーヌにはがある。2人を繋ぐ歌がある。
 光の中から闇を見る。その歌を標に絶望の縁にいるアデリーヌを見つけて手を差し伸べる。
 大切な物を見つけた2人が新たに生きるは光と色彩が乱舞する世界。
 いよいよ曲はクライマックス。「生命の跳躍」を感じさせる歌声とリズムで歌いきると、最後は穏やかな曲調に着地した。
 余韻に浸りつつ曲が終わる。
 まるで一つの芸術作品を見たかのような、そんなステージを2人は創りだした。
 笑顔で踊り歌うだけがアイドルじゃない。大手を振って主張したわけではないが、そうしたメッセージは確かに観客たちにも示す事ができたようだ。


「神の力は現れなかった、か」
 ベルバトス・ノーム(べるばとす・のーむ)はステージに背を向けて呟いた。
「まぁ、今の魔鎧の精度を考えれば妥当な所かねぇ。データも取れなかったとなれば、いよいよ笑えなかったが。くっくっくっ、下手な詩も少しは役に立ったというわけだ」
 盛り上がる観客たちを余所に教諭は会場を後にした。
「お楽しみは次の機会に持ち越しだ。くっくっくっ」

担当マスターより

▼担当マスター

古戝 正規

▼マスターコメント

 おはようございます。ゲームマスターの古戝正規です。

 これまでに幾らかの馴染みあるNPCを絡ませてのシナリオになりましたが、いかがだったでしょうか。
 お楽しみ頂けたなら幸いです。

 アクションを拝見する中で個人的にツボだったのは「小暮秀幸の空気さ」でしょうか。
 彼の「超魔王編」は完結しているとはいえ、フラグを立てても誰も寄りつかないなんて……さすがのポテンシャルですよね(笑)
 そんな彼の不遇さが私は大好きです。

 「ソフィア・アントニヌス」が着用した「紫銀の魔鎧 type-β」は、そのまま彼女が所有しています。
 今後どこかのタイミングで再び登場するかもしれませんが「他マスターのシナリオにおいて着用する事はない」としたいと思います。ご理解とご協力のほどよろしくお願いします。

 さて、次はどんなドキドキに出会えるでしょうか。
 次回のシナリオでもお会いできることを楽しみにしております♪