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無人島物語

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無人島物語

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「……」
 浜辺にぱんつが落ちていた。
 それを見つけたのは、先ほど一人でタブレットで遊んでいたあの“伏見くん”だった。
 いくらソロ充を気取ってみても、腹が減るときは減る。何か食べれそうなものがないか、探しているところだった。
「……どうしてこんなところに?」
“伏見くん”はぱんつを拾い上げた。よく見ると、すぐ傍には痛んだ蒼空学園の女子制服も捨ててあるではないか。三次元女には食指の動かない彼であったが、オブジェなら収集してもいい。辺りを見回してみるが、誰もいなかった。もらっていくとしよう。
 彼が持ち帰ろうとしていたのは、雅羅が先ほどハメを外しすぎて脱ぎ捨てた衣装一式だった。
「かわいいぱんつだな」
“伏見くん”は鑑定を始めた。海水に長時間晒されてたであろうにもかかわらず、ほんのりいい匂いがする。きれいだが派手ではなく、清楚な感じ。間違いない。はいていたのは美少女だろう。それが誰なのかに興味はなかったが、『オレの嫁』にはかせる妄想をするのは悪くなかった。これをセレナにプレゼントしよう。きっと喜ぶだろう。
「さて、お腹いっぱいになったし、帰るか。セレナが待ってる」
 すっかり満足した“伏見くん”は衣装一式を抱えて浜辺を後にする。
 すると、そこへ見知らぬ数人がやってくるのが見えた。
「……」
 他人と関わりたくない。“伏見くん”は軽く頭を下げて通り過ぎようとする。
「ちょっと、そこのあなた。雅羅を見ませんでしたか?」
 やってきたのは、先ほどから雅羅を探していた城 観月季(じょう・みつき)城 紅月(じょう・こうげつ)だった。浜辺にいると聞いたのに、雅羅の姿はそこにはなかった。
「さあ……。オレは忙しいから」
“伏見くん”は、面倒くさそうに答えた。実際知らなかったし、彼には関係のないことだった。
「では」
「ちょっと待って」
 行ってしまおうとする“伏見くん”を呼び止めたのは、観月季たちと一緒にいたルゥ・ムーンナル(るぅ・むーんなる)だった。
 ルゥは幸運属性の持ち主だった。それは、誕生花が教えてくれている。にもかかわらず、そんなおまじないなど、雅羅の呪いとも言える不幸属性の前には通用しなかった。結局、難破し一緒にやってきたのだ。
「雅羅の匂いがするわ」
 ルゥは鼻をひくつかせた。間違いない。雅羅ファンの彼女にはわかるのだ。
「あなた、それどこで手に入れたの?」
 ルゥは、“伏見くん”が抱えていた衣装一式を目ざとく見つけた。素早く手にとって確認すると、確信した。一目でわかった。雅羅のものだ。
「雅羅ぱんつだわ」
「落ちていたから拾ったんだ」
“伏見くん”は仕方無しに答えた。
 次の瞬間、ルゥの美しい顔が鬼へと変貌した。
「あなた! 雅羅ぱんつでなにをしようとしていたの!? 雅羅ぱんつで、雅羅ぱんつで! あんなことやこんなことをしようとしていたんでしょう!?」
「ま、待ってくれ。これはセレナへのプレゼントにしようと」
「嗅いだり頭から被ったり、あまつさえ身に着けてみたりして、いけない妄想に浸ろうとしていたんでしょう!? 雅羅ぱんつ! 私だってやったことないのに!」
「ち、違っ……」
“伏見くん”は宙を舞っていた。雅羅ぱんつを握り締めたルゥのぱんつパンチがクリーンヒットしていたのだ。
 雅羅の着ていた制服が“伏見くん”の手から離れ、舞い上がった。ルゥは、それを一つ残らず受け取った。
「ひええええ! ごめんなさーーーーい!」
 逃げ去る“伏見くん”。その姿を見つめていた紅月は、笑顔で後を追う。
「この島にはお宝があるって噂だったけど、本当だったのね!」
 雅羅ぱんつを握り締めながらルゥは言う。柔らかい布地から伝わってくる感触だけで、ルゥは生気が沸いてくるのがわかった。
「雅羅ぱんつゲット!」
 ルゥは広げて太陽にかざしてみた。きらきらと輝き、まるで宝石のようだ。
「……」
 ふと、視線を感じてルゥはそちらに顔を向ける。
 いつの間にやってきたのか、雅羅がじっとルゥを見つめていた。
 ルゥは笑顔が硬直していた。
「ま、雅羅じゃない! 会いたかったのよ。い、いつからそこにいたの?」
「ルゥが、雅羅ぱんつを連呼していた時からだけど」
 こんな時、どんな顔をすればいいんだろう。雅羅は困った様子で近づいてくる。
「取り返してくれたのよね。ありがとう、ルゥ。私も探していたの」
「……雅羅、あなたなんて格好をしているのよ」
 雅羅ぱんつはひとまず置いといて。
 ルゥは裸同然の雅羅の姿に目を丸くした。
 彼女は、あの騒動の後も何も着ていなかった。食人からもらった男物のシャツを着ているだけだ。普段ならお目にかかれないほどのキワドイ姿。それが許されるのは、ここが無人島だからだ。
 ルゥが聞くと、もにょもにょと言い繕いながら雅羅が続けてくる。
「新しい自分になれると思って、鎖を解き放ったのよ」
「……それでどうなったの?」
 ルウの問いに、雅羅は遠くを見ながら答えた。
「……もう少しで、モヒカンの子供作るところだったわ」
「何よそれ。もうすでに一騒動終えてきたの?」
 ルゥは驚きながらも、さりげなく手に持っていた雅羅ぱんつと脇に抱えていた制服を手渡す。
「ありがとう」
 雅羅は、笑顔で受け取ってくれた。
 危ないところだった。もう少しでルゥのよからぬイメージが雅羅に植え付けられるところであった。ルゥは汗をぬぐう。暑いからであって、他意はない。
「十分に手遅れだと思いますけど」
 観月季がポツリと呟く。
 雅羅は、手元に戻ってきた衣装一式をしばらく見つめていたが、ぱんつをルゥに差し出してくる。
「あげるわ、雅羅ぱんつ」
「え、えええええっっ!? な、なにを言い出すのよ、突然!?」
 ルゥは一瞬戸惑ったが、すぐに悟りを開いた賢者の顔になって首を横に振った。
「それを手にするには、私はまだ修行が足りないわ」
「いいえ、ルゥには十分にその資格があるわ。ぱんつを手に入れたから私と出会えた。そうは思わない?」
 これもまた、神の配剤。雅羅は微笑む。
「私、この島に来て気づいたの。いつも皆に助けてもらって仲良くしてもらっているのに、それを当たり前と思っていたわ。なんて愚かだったんだろうって。全てを脱ぎ捨てて、殻を破って初めて、新しい一歩が踏み出せるの。私にぱんつをはく資格はないのかもしれないわ」
「……」
 ルゥは、改めて雅羅を見つめなおした。彼女の苦悩、彼女の葛藤、彼女の憂鬱がそこにはあった。
「ルゥ、あなたならこの状況をバカにしない。あなたならぱんつを軽蔑しない。だから、よ……。これは、ルゥに何もあげることが出来なかった私からの、せめてものお返しなんだから。是非、もらって欲しいの」
「雅羅、あなた……。本当にいいの……?」
 ルゥは、雅羅ぱんつをもう一度受け取った。それは、もはやただの雅羅ぱんつではなかった。雅羅を縛っていた、重い重い呪いの鎖。それをルゥが解き放ってあげるのだ。 
「わかったわ、雅羅。私が受け取ってあげる。命に代えてもこの島から持って帰るからね」
 ルゥは、雅羅ぱんつを握り締めながら力強く頷いた。恐らく、誰も手に入れることが出来ないであろう、禁断の秘宝。それをルゥが手に入れた瞬間だった。
「観月季も、ありがとう。私のこと探してくれていたんでしょう?」
 雅羅は、成し遂げた満足な笑顔で観月季に向き直った。
「どういたしまして。いい物を見せてもらいましたもの」
 オメデトウ雅羅さん、とぱちぱち手を叩いていた観月季は、安堵の表情を浮かべた。
「私、実は期待してましたの、雅羅さんの残念ぶりに! いつも通り、いいえそれ以上のあなたに出会えて本当によかったですわ」
「私、この島で生まれ変わったの! 見て、この幸せに満ち溢れた新しい私を! 観月季にも分けてあげたいくらいよ!」
 雅羅は、その場でくるりと回ろうとして。
 ゴキッ!。
 案の定、足をくじいた。
「きゃっ!?」
 体勢を崩した雅羅は、とっさに手を伸ばした。そこは観月季の胸元。
 ずるり、と衣装がめくれ観月季の芳醇な二つのメロンが露になった。
 雅羅は、そのまま二つの弾力の間に顔を突っ込ませながら倒れこんでくる。観月季も巻き込んで重なり合って浜辺に転んだ。
「……」
「……」 
 しばしの沈黙。
「あ、あははははっっ。失敗失敗。幸運でもたまにはこんなこともあるわよ!」
 雅羅は元気よく復活した。勢いよく立ち上がると同時に観月季も慌てて半身を起こす。
 勢いで、雅羅が纏っていたわずかな布地がめくれ上がっていて。今度は低い位置から観月季の顔が雅羅の谷間に挟まれていた。
「……」
「……ごめんね、観月季。私、やっぱりもう死のう……」
 急激にどんより落ち込んだ雅羅は、ふらふらと海へ歩いていく。
「はいはい、雅羅殿、気落ちしなはんな。我も慰めたるよって、こっちへおいな」
 先ほどから、笑いをかみ殺しながら様子を見つめていた此花 知流(このはな・ちるる)が、雅羅を連れ戻してくる。
「疲れたやろ。膝枕したるよって、ゆっくり休みなはれ。目が覚めたら、いいこともあるさかいな」
 結局いつも通りの雅羅は、これまでの緊張の糸が切れたのか素直に横になった。ほどなく、すーすーと寝息を立て始める。
「我たちは、ずっと傍におるよって、安心しなはれ」
 知流は、自分の衣装の一枚を雅羅にかけてあげる。
 ルゥと観月季も傍まで近寄ってきて優しく微笑む。

 向こうから、他のメンバーがこの浜辺にやってくるのが見えた。



「待っていたよ。ずいぶんと遅かったね」
 あの“伏見くん”がほうほうのていで元の場所へ戻ってきたとき、紅月は先回りして、すでに彼のタブレットで遊んでいた。
「このゲーム面白いね。でもごめんよ、セーブデータ消しちゃった。てへぺろ」
「ああっっ、何するんだ! 返せ!」
“伏見くん”は、怒って飛び掛ってくる。紅月はそれをひょいといなして、後ろ手に捻りあげた。締め上げながら耳元で囁く。
「お前、ゲームばかりしてるからずいぶんと色白だね。嫌いじゃないよ、そういうの。最近じゃオタクもお洒落だし、受け受けしそうないい顔してるじゃないか」
「な、なにをする。やめろ……!」
「セーブデータ消しちゃったお詫びに、俺がお前にいいことを教えてあげるよ。人生がばら色になる魔法さ」
 紅月は手際よく“伏見くん”の上着を脱がせていく。上半身を軽く可愛がってやるだけで、“伏見くん”は未知の快楽に身悶え始めた。初めての体験に彼は「ああ」と甘い声を漏らす。
「ソロ充なんて寂しいことを言うなよ。もう俺がいないとやっていけないと言わせてやるよ」
 これは、この未熟な一人ぼっちを社会復帰させるためのリハビリなのだ。
 紅月は、荒々しくせずに優しく弄び始めた。甘い快感がやみつきになるくらいまで染み込ませてやるつもりだった。調教のためのアイテムなど不要だった。紅月の手つきと囁きだけで、相手の全身に言いようのない至福の時を与えてやることが出来る。
 二人は、濃密な一時を楽しみ始める。じっくりほぐされた“伏見くん”は程なく恍惚とした表情になった。
「あああ……、オレ間違ってたよ……。人間って……こんなにいいんだね……」
「まだまださ。もっと良くなっていくからね」
「いいっっ……。ああ、最高だよぉぉぅっ。もうオレを離さないでくれよぉ……」
「ふふふ……」
 長い時間が過ぎ、こうして“伏見くん”はソロ充を卒業していくのだった。
「そっちの子もおいでよ。男同士が嫌いな女子などいないってね、興味があるのもわかるけどさ。もっと別の楽しみ方もあるんだよ」
 遠くから様子を見ていた“今池さん”を目ざとく見つけた紅月は、すぐさま彼女も捕獲してくる。
「さあ、三人で遊ぼうよ」
「ああっっ、ああああっっ……いいよぉぉぉぉ」
「もっと、もっと啼かせてぇ……。全身がぞくぞくと疼くくらいに……」
 島に、甘い矯正が響き渡る。
 紅月は微笑んだ。ついでにこの男女二人もくっつけてやろう。
 やれやれ……、と紅月は肩をすくめる。
 俺とした事が。また社会の役に立ってしまった……。