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無人島物語

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無人島物語

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「……」
<ぐーねぐーねうねうね、ごろごろごろごろごろ〜♪ 無人島〜♪ 綺麗な景色に青い空〜♪>
 ルイのパートナーのパールビート・ライノセラス(ぱーるびーと・らいのせらす)は、働くルイたちを眺めながらごろごろしていた。ちょっと浮いているような気がした。
 パールビートは芋虫型ギフトで、会話機能がないのだ。普段は筆談だが、今日に限ってはいつも使っている筆記用具が波に流されてなくなってしまっていた。仲良く談笑すべくもなく、輪の中に入っていきづらかったのだ。
<本で読んだ事しかなかった遭難体験そうなんです〜♪ しかし、困ったの。いつも使ってる筆談用具が無くなってコミュニケーションが……>
 いやしかし。これはパールビートに課せられた試練に違いない。頑張るぞ〜。
「……」
 でもないか。と彼(?)は思い直した。会話なども、その辺の木の棒でも使って地面に書けばある程度大丈夫そうだし、食べ物だって金属から腐葉土まで食べる雑食で、実はこの島での生活に一番向いていそうな生命体だし。
「(・∀・)人(・∀・)ナカーマ!」
 どういうわけか、ハイコドとも会話が通用しそうだった。
「マターリ」
 パールビートも地面に書いて答えておく。
 そんな中、見覚えのある顔ぶれがこちらに近づいてくるのがわかった。
「チョリーッス! 焼き魚入ったから配りに来たぜ。そこに置いておくから食ったら手伝いな、Sっち。みんなキャンプ始めてるぞ」
 なんだか知らんが、調理した魚を入れた桶を抱えて、あのカレンデュラ・シュタイン(かれんでゅら・しゅたいん)が姿を現したのは、日も高く昇ったころであった。
 ナンパしていて難破した彼も例外ではなく、この島に流されてきたのだ。
 マスターのリアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)と共にさっそく魚を取り、『爆炎波【火加減はやや弱めで】』で捕った魚を焼いていくという調理で食べやすくした。よくわからない魚も混ざっているが、食べて食べられないことはないだろう。
「なんなら、鮫でも取ってくるぜ。欲しいものがあれば言ってみな」
「言ってみなー」
 後ろにいたリアトリスも言う。新鮮さには自信がありそうだった。
【白くて大きな犬耳と1mある白い犬の尻尾が生える。犬耳と尻尾を触られると甘えん坊になる】という超感覚と殺気看破を使用して、自分を強化し浅瀬で泳いでいる魚を捕獲するという方法だった。
【右目が龍の瞳になる】ドラゴンアーツの効果とスイートピースライサーを使用したレジェンドストライクで水面を叩きつけ衝撃で魚を気絶させる。それを繰り返していき気絶した魚を回収してきたのだ。
 どやっ!? といわんばかりの取れ具合だ。
「売るほどあるよ。売らないで、あげるけど」
「……お魚屋さんですか? どうせなら、コンビニやってくださいよ、コンビニ。実はあるんでしょう? セラ、お菓子が食べたいんですけど」
 木々の間につるされたハンモックに寝転がりながら、シュリュズベリィ著 セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)は答える。丈夫な蔓で編んだハンモックは力作だが、彼女はそれ以上は何も作る気がないようだった。のんびりとくつろぎながらも、どこかぼんやりした口調で続ける。
「ここが無人島だなんて、嘘ですよね? そういうネタはそろそろ笑えないからやめてほしいんですけど? まさかこのセラが遭難するなんて……そうなんですよ〜……なんて、何言ってるんでしょう、ふふふ」
「……」
 リアトリスとカレンデュラは顔を見合わせた。
 ちょっとメンタル弱い娘なのだろうか? こういうSっぽい人物はえてして打たれ弱かったりするのだ。想定外の遭難に動揺しているのかもしれなかった。
「……うん、やっぱりSっちは女の子だな。じゃあ興味はないぜ」
 念のために、シュリュズベリィ著の匂いから性別判定していたカレンデュラは、男の娘でないことを知ると、とたんにどうでも良さげな表情になった。男の娘だったら、全力で心と体のケアをしているところだが。
「まあ、魚でも食って元気だしな。……じゃあな、Sっち」
「じゃあな」
 今回は、リアトリスが脇役みたいだった。カレンデュラのキャラがよさげに濃すぎる。
「誰が、Sっちですか? あまりセラを怒らせないほうが……、っ!?」
 シュリュズベリィ著は、ハンモックから勢いよく立ち上がろうとして、そのまま宙返りして顔から地面に落ちた。彼女にしては珍しい光景だ。
「……あう……、あうっ……」
 痛みをこらえて起き上がるも、リアトリスたちの姿はもうなかった。
 ふふふ……、と彼女は虚ろに笑う。
「こんなのおかしいですよ。遭難したり転んだりするのはルイ一人の仕事ですのに……。まさか今後はルイに巻き込まれてセラ達も被害対象になる!? いやいやそんな事は事象的にありえないです」
 誰も相槌を打ってくれなかった。ちょっと不安になってもう一度言ってみる。
「ないです……よね?」
「どんまい、元気出そうね。あたしも傍で見ていてあげるから」
 マリオンが、森の果実を差し出してくる。
「あ、ありがとう」
 ちょっと気を取り直したシュリュズベリィ著が、果実や焼き魚を食べ始めた。
「じ〜っ」
 マリオンは言葉通りじっと見つめている。
「……マリオンちゃんも、欲しいのですか?」
「別に……。じ〜っ」
「……」
 パールビートも、じっと見つめている。
「よし復活しましたよ〜。ひゃっはー、どうやらセラの100%フルパワーを見せる時が来たようですね」
 腹ごしらえもすんで元気が出てきたシュリュズベリィ著が、もう一度もそもそとハンモックに寝直した。彼女は、あくまで、ルイたちを眺めているだけ。肉体労働をする気は全くないらしかった。
「セラの睡眠パワーは120万です。……すやすや……」
 そう、きっとこれは夢に違いない。今頃暖かいベッドの中で安眠していて、目が覚めたら日常生活に戻るのだ。シュリュズベリィ著は寝逃げでリセットする作戦に出たようだった。
「……くー」
 マリオンとパールビートもその場で寝転がりうとうとし始める。
 暖かい夏の日差しが、彼女らをやさしく降り注いでいた。
「……」
 野良仕事から帰ってきたルイが、気持ちよさそうにまどろんでいるパートナーたちを見つけて無言で微笑んだ。
 夏だからといって油断は出来ない。外で寝ていて風邪を引かないように。ルイは草を使って大急ぎで編んだ掛け物をシュリュズベリィ著たちにそっとかける。
「今夜は、みんなでキャンプファイアーをしましょうね。その頃には、もっと大人数が合流していることでしょう」
 ルイは狩に出る。少し歩いて……。
「?」
 浜辺近くにダンボールが置いてあるのに気づいた。
 ちょっとの間眺めていたが、彼はすぐに興味を失った。
「なんだ、ただのダンボールですか」
 そんなものは食べられない。食べられるものを探してくるのだ。
 ルイは、そのまま行ってしまった。
「……」
 ダンボールは、ガサガサと動き始める。