天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

茨姫は秘密の部屋に

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茨姫は秘密の部屋に

リアクション



【終わりの始まり】


「いやぁねマジになっちゃって!
 ちょっとしたオフザケよ。ね、皆」
「はは、トーヴァさんがまたパンツくれるっていうから俺もついつい悪ノリしちゃったぜ」
「まさかあんなに怖がってくれるなんて思いませんでしたけどね」
「ごめんねアディ、愉しんでくれた?」
「でもかつみさんがあんなに本気になるなんて思いませんでしたよ」
「シシィがあんなに怖がるとは……、すみません大人げなかったですね」
「ハハハ、これも偏に俺が作った天才的などっきり大作戦のお陰だな!」
「大成功だね」
 そう言ってのけたトーヴァとその仲間の契約者達を前に、森で逃げ惑った者達は何も言う事が出来ない。
 追ってきた時の恐ろしさが、あの目が冗談だったとは、彼等には到底思う事が出来なかった。
 それにトーヴァの胸の血星石。あれは本当にキアラの見間違いだったのだろうか。
 笑い合う声すら薄ら寒く感じ、彼等はただ俯くしか無かった。

***

 蒼空学園にほど近い定食屋。閉店の作業を終えたジゼルは、扉を叩いた音に首を傾げドアノブを捻る。閉店の看板も出したのに、こんな時間に客がくるなんておかしな事だ。だからジゼルはもしかして、と思ってしまう。
「ごめんなさい、お店もう終わり――」
 そこに立っていたのは客では無く、期待していたあの人でも無く、ジゼルの友人達だった。
「ジゼルさん……!」
 目の前のフレンディスに向けられた同情の表情に、ジゼルは首を傾げる。するとフレンディスはジゼルの手を取り、唇を噛み締めるのだ。
 ジゼルはそこで初めて、余程自分が酷い顔をしていたのだと気がついた。



 白荊の乙女――ミリツァ・ミロシェヴィッチは、強化人間の手術を施された、アレクの妹だった。
「何時意識が戻ったのかは……私も覚えていないわ。
 ただ何も無い暗闇の中に居る内、自然に気がついたのよ。
 例えば音が何かにぶつかって反響するように、私が意識をすると魔法か――電波か良く分からないけどそれがぶつかって『向こう側』の形が見えるのだわ。
 音は聞こえない。色も分からないけれど、それらの風景や、人や、浮き上がった文字で向こう側の事を知るには充分だった」
 イルミンスール魔法学校の校長室で、ミリツァは事の経緯をエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)に説明する。
 ただ、エリザベートと会話する彼女が見ているのはエリザベートでは無い。
 金色の瞳は常に、もう一時も離れまいと言うかのように指を絡めるアレクに固定されていて、共に居た契約者のうち何人かはその異様さに気がついていた。
「私が居たのは恐らく病院――或は何かの研究機関なのだと思うの」
「そこからイルミンスールの地下に運ばれたのですか?」
「そうね、ごく最近の事だと思うわ。その後に関わって来なかった事を考えれば……もしかしたら棄てられたのかもしれないけれど」
「廃棄の為にわざわざ、あんな面倒な場所に運ぶとは思えない」
「そうねアレク。
 なら誰が何の目的で連れてきたのか――。
 その人たちはは私のこの反響の能力を、何らかの実験に使うつもりだったのではないか――と、私は考えるわ。
 何故なら此処へきて暫くすると、ずっと前に反響について自然に気がついたのと同じ様に、私はこの学校の幾人かの生徒とコミュニケーションを取れる事に気がついたの。
 とは言っても日本語は知らなかったから、ぼんやりとした会話にも満たない様なもの……初めはその程度のものだったけれど。
 それ迄に無かったものがイルミンスールの地下に着た後で発現したのだとしたら、そういった可能性を考えるのが当たり前の事では無くて?」
 スラスラと答えるミリツァその美しい容姿も相まって、かなり聡明な娘に見えた。
 エリザベートを前に物怖じせず、兄とも対当に話す姿を、ジゼルは気後れした様子で遠くから見つめるばかりだ。
「一番最初に話した子は、モンスターの制御をする研究をしているのだと言っていたわ。
 その人が今何処にいるのかは知らないけれど、その人は私の状況を聞いて、協力してくれると言っていたの。
 少ししてその人は私の姿を魔法道具で見つけ、仲間を集めて『事件』を起こした。
 危険な地下の中から、誰かが私を見つけてくれるように。
 その誰かがアレクだなんて……思わなかった」
「Da li stvarno mislite?」
「Ne.Ljubim te Alek.Ti si najbolji brat!」
「Ma,Gladak govornik.」
 内容の分からない兄妹の会話を切らせて、エリザベートは結論を出す。
「私の庭で勝手に強化人間の実験をした犯人は捕まえたいところですが……、モンスターの悪戯事件は解決したことですし、取り敢えず良しとしましょうか。
 全く……、兄も困ったものなら妹も困ったものですぅ。
 アレクサンダル、今後同じ様な事が無い様に、兄としての責任を果たして妹の面倒をみるのですよぅ?」



 その日から自分の生活の中に突然やってきた変化に戸惑うジゼルに、アレクはミリツァを連れてザンスカールへ戻ってしまったのだ。
「だから……、おにいちゃんだと思ったの。おにいちゃんだったら……、いつもみたいに迎えにきてくれたら……いいなって……私――、私が、ミリツァなんて居なければいいって思ったから……お兄ちゃん、居なくなっちゃった……。
 私が……嘘つきなのを……アレクは気がついてた…………。
 …………どうしよう……みんな……私……誰かにこんな想いを感じたのは初めてで……
 私は……私が人を殺す為の道具なら…………私はこの想いで、心で、人を殺すの?」
 海の中に落せば溶けてしまいそうなその瞳は、夜の闇に溶け込んで暗い色に震えている。
 ティエンはフレンディスの後ろから、ジゼルを見つめて言う。
「あのね、ジゼルお姉ちゃん。
 前にユピリアお姉ちゃんが言ってたけど、道具は契約出来ないんだよ。
 自分の心があるから、契約出来るんだって」
 フレンディスはジゼルの手を乱暴なくらい強く引いて、そのまま抱き寄せた。
「その心の闇。
 言葉でも行動でも構いませぬ、私達に託して下さいませんか?
 私は既に闇との付き合いが長く扱いは慣れてますし、闇は心に溜めこむと広がり続け危険故……
 ジゼルさんは闇に触れてはいけませぬ。
 友として私に出来る事をやらせて下さい!」
 不器用なりに精一杯のその言葉に、ジゼルは倒れ込む様に腕を回して声を上げ泣いた。


 一人の家に帰らなければならないジゼルをそのまま帰す訳にはと家まで送った帰り、フレンディスは呟いた。
「私は思うのです。
 アレックスさんは……もしかしたら未だ、闇の中に居るのやもしれぬ、と。
 なれば、その心を救えるのは妹君ではなく、異性であるジゼルさんだとは思いませぬか?」
 彼女の言葉に、リカインは組んだ腕を解いて考えを口にした。
「人魚姫に水の中に飛び込まれて、今度はアレ君がもつはずもない。
 あの時も言ったようにやることなすことだいたいベクトルおかしいんだから、そこはフォローしていくつもり。
 いきなり結論まで思考がショートカットする前にそれこそ殴ってでも深呼吸くらいさせて、周りをよく見させないとね。
 お兄ちゃんだからって誰かを頼ったり甘えたりしちゃいけないわけじゃないんだから」



 闇色のその場所で、まるで光を放つように雪色の白い肌の『お姫様』が立っている。
 彼女の前にかしずくのは、一人のヴァルキリーと軍隊、そして何人かの契約者達だ。
「ふふふ、こんなに沢山のお友達が出来るなんて――。
 トーヴァ、本当によくやってくれたわね。とても良いわ。ミリツァは嬉しいわ。
 これで私はまたお兄ちゃんと二人ぼっちになれる。
 でも……その為にまだ邪魔なものが一つあるの」
 顔を上げた者たちへ褒美とばかりに美しい笑みを贈呈して、お姫様は肩に掛かる黒檀の髪を後ろへ送った。
「私の可愛いお友達なら、分かるわよね?」
 そしてお姫様は美しく微笑んだまま続ける。
「『人魚姫は王子様と幸せに暮らしました』。
 ――そんな結末は絶対に有り得ない。
 人魚姫は、王子様と結ばれてはいけないのだわ。
 だから……」
 白いドレスの懐から細やかな装飾が施された瞳と同じ金色のナイフを取り出して、お姫様は血潮のように赤い唇を嫉妬に歪ませるのだった。


あの女の心臓を、私に捧げなさい
 

担当マスターより

▼担当マスター

東安曇

▼マスターコメント

 東です。ご参加頂いた皆様、ここまで読んで頂いた皆様、どうも有り難う御座いました。
 今回イルミンスール魔法学校のゲートや魔動技術の設定などは、猫宮烈マスターにご協力頂きました。
 この場をお借り致しまして、お礼申し上げます。
 さて。次回は妹対妹の全面戦争が勃発します。またお付き合い頂けたら幸いです。
(私事で申し訳有りませんが、パソコンの調子が悪いため今回の個別コメントはお休みさせて頂きます。ご了承下さい。)

【以下、次回以降のアクションの参考にどうぞ】

・闇落ちしたPCについて
 関係称号『白荊に絡めとられた』が発行されています。
 こちらのキャラクターさんは次回のシナリオにご参加頂いた際、ミリツァ様の下僕……じゃなかったお友達として登場して頂きます。
 詳しくは次回のガイドをご覧下さい。
 
・ターニャの過去へ飛んできた理由ついて
 ターニャは特定の人に向けて話しているというよりも、その場の皆に向けて話していますので、地下でターニャと一緒に居た方は話しを聞いていた体でアクションをかけて頂けます。

・ラストのジゼルの定食屋にきたキャラクターについて
 名前が上がっているPC以外にも居る体で執筆しました。
 「私もあの時一緒に居て、ジゼルの話を聞いた」というアクションをかけて頂いて問題有りません。


【劇中外国語意訳】
「本当に(そう思った)?」
「嘘よ。愛してるわアレク、貴方は最高のお兄ちゃん!」
「ったく、調子いい奴」

▼マスター個別コメント