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茨姫は秘密の部屋に

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茨姫は秘密の部屋に

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【全ての始まり】


「ああ、駄目、駄目です……死んでは駄目!」
 赤黒い血で濡れそぼった身体を掻き抱いて、女は少女に呼びかける。
「死んではいけません、生きるんです! 
 あのね、これから素敵なお友達が沢山出来るんですよ! それから学校に行って、大切な人たちに出会うんです。毎日愉しくて……貴女はもっと……今よりずっと幸せになれるはずなんです。 だから……お願いだから、生きて!!」
 既に青白い耳に届く事の無い懇願は虚しく、意志を失った身体から腕が地面へ力なく落ちていった。
「…………な、んでだよ……どうして……何度繰り返しても、こんな結果にしかならない! 畜生! 畜生! 畜生! 畜生おおおおおおお!!」
 咽の奥に鉄の味を感じる程に叫んでも、何処からも返事は帰ってこないのだ。
 むかつく程に晴れ渡った空を眺めて、どの位が経ったか。
ふと我に帰った女は、抱きしめたままだった少女の顔を見た。自分と同じ海色の瞳。宝石のように煌めいていた輝きは消え、今は何も映さないままになっていた。
 震える指で慈しむように頬を撫でると、開かれたままの瞼を閉じてやる。
 その姿は首から下が斬り裂かれていなければまるで眠っているかのように安らかで、幼い頃に父の読んで貰った物語の眠れるお姫様のようだと、女は思う。
「――本当に綺麗な人だ……」
 笑みの浮かんだ唇で別れと誓いの意味を込めて口付けた。
「けれど父が言っていました。貴女は瞳を輝かせて微笑んでいるのが、一番綺麗なんだと。
 だから例え世界が――神が赦さなくとも、貴女が生きる未来の為なら、私は何だってする、何度だって繰り返してみせる。
 待っていて下さい。
 私が必ず、貴女を此処から救い出します! ジゼル……!!」
 
 その亡骸は花畑の中に眠れる姫君のように横たわっている。
 彼女の抱きしめていた誰かはもう、既にそこには存在しない。
 微笑む彼女を見る為に。それを永遠にする為に。



 女は次の過去へと向かっていた。