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なし

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茨姫は秘密の部屋に

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茨姫は秘密の部屋に

リアクション

「歌菜のアニメイトで作った偽キアラに騙されて追っ手の数も減ってくれた、が……、俺達がゲートを目指すのは丸分かりだからな。待ち伏せも考えられる」
 最短ルートを避けて、彼等の行動を予測し別の逃走ルートを考える月崎 羽純(つきざき・はすみ)の隣で、遠野 歌菜(とおの・かな)はキアラの肩をそっと抱いた。
「キアラちゃん……。
 私と羽純くんで、守ってみせますから……絶対大丈夫ですよっ」
 緊急事態ですら人の為を思える先輩魔法少女の頼もしさに、キアラは情けなさから溜め息をついた。
(Ho bisogno di ottenere una sospensione di me stesso.(私がしっかりしなきゃ!)
 頬を叩く勢いで両掌を張りつけ、キアラは二人の顔を見上げた。
「さっき、お姉様の胸元にゲーリングの血星石みたいなものが見えたんスよ」
 キアラの言葉に、歌菜は羽純の反応も確認し、二人分の否定を首を振る事で現す。
「やっぱ私の見間違えっスかね。焦ってたし……」
「キアラちゃんはトーヴァさんと契約してるから、何か感じ取ったものが絵として見えたとかないかなぁ」
 契約者とパートナーの関係は、未だに謎に包まれている所が多い。キアラを慰める歌菜の言う可能性もまた、有り得ないとは言い切れないもの含めている。しかしそれについて今、考えている時間はないのだ。
「行こう。こっちだ」
 羽純の示す道なき道へ、契約者達は続いて行った。



 静まり返った森の中で、少女たちの悲鳴が木霊する。
「離して! 離して下さいッ!」
「マスター……東雲さんが連れて行かれて……どうしたら……!」
 東雲を庇っていた輝達は、逃げ切る事が出来ず早々に捕らえられてしまっていた。動けない東雲は何処かへ連行され、冷たい土の上に膝を付きながら両腕を拘束された状態の輝は、友人である筈のトーヴァに向かって叫ぶ。
「トーヴァさん、ホントにどうしちゃったんですか! 何でこんな事を……」
「どうもしないわよ? トーヴァおねーさんは何時だってこんなだわ」
 冷たい目で見下ろす彼女に、輝は言い返す。
「……おねーさんはいつも元気。それがトーヴァさんの口癖な筈です。
 それを言えない今のあなたは何時ものトーヴァさんじゃ有りません!!」
 上官へ生意気な口をきいた輝の頬へ平手が飛ぶ。するとトーヴァは輝へ暴力を振るった隊士の腕を捻り上げた。
「手荒な真似はやめて。輝君はアタシの大事な友人なのよ」
「トーヴァさん……」
 彼女は何時もの友人なのか、そうでないのか。輝の頭が混乱に支配されいくと、泳ぐ視線を捉えようと、トーヴァは彼の前に膝をついた。
「ね、輝君。あなたこそどうしてそんな冷たい態度をとるの?
 アタシとあなたはお友達。そうでしょ?」
「でもボクは……。
 あれ?……そ、う……ですね。何でこんな事を言ってるんだろう。ボクとトーヴァさんは……お友達なのに……」
「そう、だからあなたも『あの方』の友達になるのよ」
「あの方の……友達……」
「「マスターッ!!?」」
 誘導されるように呟かれた輝の言葉に、瑞樹と真鈴は声を重ねて叫ぶが、その声は輝に届いていないらしい。輝は何も映さない表情で虚空を見つめている。
「心配しないで二人とも。瑞樹ちゃんも真鈴ちゃんも私の友達なんだから。
 直ぐにあの方の友人として受け入れて頂ける」
 振り向いたトーヴァのアイスブルーは狂気の色を孕んでいる。恐ろしさに息をのんでいると、徐に立ち上がったトーヴァが仲間を呼びつけた。
「ハデス! ペルセポネ!」
「此処に――」
 現れたのはドクター・ハデス(どくたー・はです)と、ペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)である。二人の目もまた、トーヴァや輝と同じように妙な光りに濁り輝いている。
 この日、ハデスはプラヴダと行動を共にしていた。この自称世界征服を企む悪の幹部が組織に准ずるような行動をとるのは珍しい事だったが、彼は考えて居たのだ。
 『白の教団』と『白衣の科学者率いる組織』。『白荊の乙女』と『白衣眼鏡』。
 二つの存在は被るのでは無いかと、大真面目に思っていた。
 そんな訳で今朝も「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス! おのれ、白の教団の『白荊の乙女』とやらめ! そんな教団と二つ名だと、秘密結社オリュンポスの白衣の科学者であるこの俺と、キャラが被るでは無いか! そのような者達は放っておくわけにはいかんな!」と、長い自己紹介と説明を経て、プラヴダの作戦に協力していたのである。
 そして事件発生の際トーヴァの真横を歩いていた彼は、そして彼のパートナーは、一も二もなくトーヴァと同じ様な状態に引込まれてしまったのだ。
「ねえ白衣眼鏡、このままじゃ埒が空かないわ。
 幾らこちらが充分な兵力を持っていても、あんな風に小細工をされちゃ敵わない」
 耳に息が吹き掛かる距離まで撓垂れかかるトーヴァを払いもせず、ハデスは機械のように彼女の命令に従う。
「了解しました、トーヴァ様。
 ご命令通りに……」
 静かな声で言うとハデスは一歩前へ進み出て、寸分の狂いも無く整列する隊士と自らの戦闘員、そしてペルセポネへ作戦を出す。
「ククク、全ては我が友人の為……。
 キアラと契約者達を捕らえてくれるわっ!
 さあ行け皆の者!!」
 バッと風を切り掌を突き出したハデスに命じられ、隊士と戦闘員が散開する。
「了解しました、ご命令通り私は敵の退路を断ちます。
 パワードスーツ、迷彩機能展開!
 ペルセポネが叫ぶと、その声に呼応して少女の華奢な身体が森の木々に塗りつぶされていく。
 それを見つめながら、トーヴァは満足そうに息を吐いた。
「いい作戦ねハデス。これでまた、友達が増えるわ」
「ええ、きっとあの方もお喜びになられる事でしょう」