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茨姫は秘密の部屋に

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茨姫は秘密の部屋に

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 氷の壁を立ちはだからせて軍の進撃を阻害すると、付いて来れないのを確認して再び走り出す。
「キアラさんが言っていた血星石の存在、もし本当だとしたらジゼルさんも狙われている?
 プラヴダの隊員達……操られているのかもしれない。なら、彼等も極力傷つけない様にするしかない。
 問題はトーヴァさんか……。彼女の相手は危険か……?」
 逃げる契約者達の殿を務めていた高峰 雫澄(たかみね・なすみ)の呟きに、ホロウ・イデアル(ほろう・いである)は仮面の下で眉を顰めた。
(やはり雫澄は甘い。
 時に自ら縋り付く者すら切り捨てられなければ……いつか、本当に大切なものを、失う事になる……)
「……いや、放っておく訳にはいかない、何とか止めないと。それに、彼女を元に戻せば状況は一気に良くなる筈だ。
 だが……もし実力行使で止めたとしてそれで彼女は無事なのか……?」
 どうしたらいいと苦虫を噛み潰した表情の雫澄にホロウは思う。
(雫澄……もっと、強くなって貰う。
 強くなって貰わねば、俺が今ここに存在する意味がなくなる。
 強くなり……今度こそ、守らなければ……)
「ホロウ、やっぱり僕は…………ッ!?」
 パートナーへ振り向いた雫澄は目を丸くしたまま動きを停止させた。
 ホロウが、銃口をこちらへ向けている。
「…………ホロウ?」
 戸惑う声に対して、ホロウは口を噤んだまま何も言う事は無い。
(そうだ。
 優しさは、本当に守りたいものを、殺す。
 切り捨てる強さ――非常さが、必要だ……。
 俺がそれに気がついた時は、既に手遅れだった。
 だから……お前は、今ここで、知るんだ……)
 長い沈黙。
 それを斬り裂いたのは甲高い声だった。
「何ぼーっとしてるっスか!!」
 強く腕を引かれて、雫澄は弾ける様にその場から走り出す。戸惑ったまま足だけ動かしている彼に、キアラは強く叱咤した。
「隊長達の強さの理由の一つは取捨選択が正しく出来る事……そんなの分かってるっス! 
 ケド、何も選ばないで、何も捨てないで、皆を守っても良い!
 『そういう強さ』だってきっとある!! 私はそうなりたいの!」
「何も捨てない……」
「皆を護るって事っスよ!! 分かったらどうするかは後にして欲しいんスけど!」
 痺れを切らしてもう一度グイと引いてくるキアラを雫澄が呆けた顔で見つめたままで居ると、彼等を『守る』という明確な意志を持った声が飛んできた。
「「ここは俺(私)達に任せて(くれ)!」」
 そう言ったのは蔵部 食人(くらべ・はみと)桜月 舞香(さくらづき・まいか)だった。
「危険過ぎるっス! 皆一緒に――」
 渋るキアラに、魔装侵攻 シャインヴェイダー(まそうしんこう・しゃいんう゛ぇいだー)は、キアラにとって嫌がらせのような提案を始めるのだ。
「ダーリン、ちょっと上着を脱いで。キアラさんがボク達じゃ不安らしいから、その鍛え抜いた男らしい肉体を見せて安心させてあげよう」
「分かった!」
 二つ返事でシャツのボタンへ手をかけ始めた食人の姿に、キアラは顔を真っ赤にして叫んだ。
「ぎゃーーーーーッ! まだ懲りてないのこの変態男!! もういいっ! あんたなんか鼻血吹いてしんじゃえええええええ!」
 若干フラグめいた事を言いながら、雫澄を引っ張ったキアラの姿があっという間に見えなくなる。その刹那の間に、表情をキリリと正した食人は、シャインヴェイダーは叫んだ。
魔装変身!
チェンジ、シャインヴェイダー!」 
 解け合う二人の身体は、正義の戦士の姿へと変わる。
「ヴェイダー、防御メインだ!
 【ルーン空間結界】【殺気看破】。回復は【リジェネーション】で、時間を長引かせながら進む! 少しでも多くの敵を、俺達に惹き付けるんだ!
 無理はしなくていいから時間をかけて逃げ切ろう!」
「了解ダーリン! それと【プロフィラクセス】もね!」
 シャインヴェイダーが言った名は、致命傷を回復する為の予防措置だ。この場でそれを出すのは少々縁起が悪いが、実は理由はあともう一つあるのだ。
(……まぁ、相棒が相棒なだけにこれの用意だけはしておかないと)
 シャインヴェイダーは食人の鼻血癖を心配していたのだった。

「さてと。
 大の男が女の子を追いかけ回すなんて、あんまり良い趣味じゃないわね。
 お仕置きにちょっと痛い目に遭わせてあげる」
 一人呟いて、舞香は姫君が纏うような可憐なドレスを躊躇無く脱ぎ捨てた。
 露になった白い肌を守るのは、限りなく面積の小さなビキニアーマーだ。
「「まじかよ!!」」
 拳を天に突き上げた男達の視線から飛び出すスパークルに当てられて、舞香は呆れ声を出すしか無い。
「あら……そんな状態でも、正気は残ってるみたいね」
 呆けた顔の隊士たちに向かって、舞香は己の名前の如く舞い踊る様に飛び込んで行く。
 その俊敏な動きに、隊士たちは狙いを付ける事が出来ない。適当に撃てばフレンドリーファイヤになりかねない状態だからだ。
「下手に撃つな! 銃を捨ててかかれ!」
(それを待ってたのよ)
 悪戯っぽい顔をして、舞香は飛びかかってきた筋肉達磨たちの急所に蹴りを喰らわせていく。相手は戦闘服に身を包んだ軍人達だから、狙うのはアーマーの無い部分に限られてしまうからだ。
「あなたで最後よ!
 命まで取るつもりは無いけど、骨の二、三本は覚悟して貰うわ!」
 正面に堂々と向かってきた男を投げ飛ばし、関節を極めた。ミシミシと言う不快な音を立てて、相手が動けなくなった事を確認すると、舞香は脱ぎ捨てたドレスを拾いに戻る。
「……なんとかなったわね。
 と言っても、トーヴァお姉様には通用しそうに無いわね」
(一応含み針を準備しておきましょ)
 溜め息混じりに言って、舞香はキアラ達を追いかけるのだった。