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ナスティ・ガールズ襲来

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ナスティ・ガールズ襲来

リアクション

  VS ツァンダの宝石商人


「リコ! 大丈夫!?」
 テロ襲撃の知らせを受けて、理子のもとに駆けつけた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)。そしてコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)。彼女たちは、女王と代王を守るロイヤルガードの一員だ。
 そして何より、理子を守りたいと信じる、最愛の仲間である。
「あれが西シャンバラの代王、高根沢理子。……なんて美しい」
 ツァンダの宝石商人が、病的な笑みを浮かべながら彼女に歩み寄った。
「レイ様の意向に背くようで申し訳ないが……。高根沢理子の肉体は、核兵器で吹き飛ばすにはもったいない素材だ。腹を割いて、臓物を引きずりだし、宝石にしたいよ」
「そんなこと、私がさせないんだから!」
 身構える美羽に、宝石商人はうんざりした仕草で答えた。
「まったく騒がしいなぁ。――こいつで頭を冷やしたらどうかな」
 そう言って投げつけたのは、《腎臓アクアマリン》。
 人の内臓を改造した宝石には、水魔法による攻撃の効果があった。
「アクアマリンの石言葉は《沈着》。どうだい、これで少しは冷静になれたかな?」
 にやりと笑う宝石商人。対する美羽は、水しぶきをかわしながら、さらに激高していた。
 すぅっと息を吸い込んでから、理子に向けて叫ぶ。
「リコ! いっしょに飛んで!」
「まかせて、美羽!」
 理子が、美羽とは反対の方向から駆けてくる。まさに阿吽の呼吸。宝石商人を挟み込むようにして、ふたりの蹴りが同時に炸裂した。
「甘いね」
《肝臓アンバー》を地面に叩きつけ、宝石商人が土魔法を発動させる。
 地面がメキメキとめくれ上がり、巨大な男の姿になった。とつじょ現れたゴーレムが、美羽と理子、ふたりの攻撃を両手で防ぐ。
「アンバーの石言葉は『抱擁』。この宝石の効果はね、守りにも使えるのさ」
 得意気にニヤつく宝石商人は、すぐにゴレームへ攻撃の指示をだした。
「さあ。このじゃじゃ馬娘たちを屠れ」
 宝石商人が命じるままに、ゴーレムは両腕を振り上げる。
 攻撃を終え、体勢を崩したままの美羽と理子に、土人形の強靭な腕が叩き降ろされる!
「――ふたりに手出しはさせないっ……!」
 彼女たちの前で立ちはだかったのは、コハクだった。『女王騎士の盾』による広範囲の防御フィールドで、ふたりを完全に守り抜く。
 まさに、アンバー(琥珀)の石言葉どおり、コハクは仲間たちを抱擁していた。
「……リネン。後は任せたよ」
 彼が振り返った先には、タシガン空峡の空賊王。『天空騎士』と畏れられる義賊リネン・エルフト(りねん・えるふと)が飛翔していた。

「千載一遇のチャンスじゃない。素晴らしいわ」
 こんな状況にあっても、リネンは笑っていた。自分のシマ――ツァンダに巣食う悪党を見つけて、彼女の気は昂ぶっている。
「へぇぇ、面白いことになってんじゃん」
 並走するフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)もまた、興奮ぎみに破顔していた。
 それは裏社会を生き抜いてきた者だけができる、残忍な微笑。
「おやおや。今日は獲物がよく引っかかるね」
 宝石商人は、リネンとフェイミィを見据えて言う。
「美しいお嬢さんたちだ。さぞかし内臓も美しいんだろう。今すぐ切り裂いてみたいねぇ!」
《心臓ルビー》を投擲すると、彼の周囲は炎の海となった。めらめらと揺らめく火の柱が宝石商人を取り囲んでいる。
「ルビーの石言葉は《愛の炎》。君たちに贈るには、うってつけの言葉だよ」
「気色悪いこと言わないで」
 空高く旋回しながら、リネンは吐き捨てる。
「言っておくけど、私たちはフリューネほど甘くないわよ。容赦なんてしない。……シャンバラを離れた事、後悔させてあげるわ」
 リネンはタービュランスで細かく軌道を変える。乱気流を発生させて、宝石商人を撹乱していた。
 その隙に、フェイミィが前衛のポジションに踊り出る。
「許せねーなぁ。未来の恋人になってたかもしれない美少女を、こんなにしやがってよぉ!」
「安心していいよ。もうすぐ君も、同じ姿になるんだから」
 宝石商人は、風の効果がある《膵臓ペリドット》を取り出した。空中戦を得意とする彼女たちにとって、風をコントロールされるのは分が悪い。
 だが、リネンはそれを読んでいた。イーダフェルトソードを最大まで伸ばし、膵臓ペリドットを叩き落す。
 宝石の効果はほとんど発揮できず、微かな風がフェイミィの頬をなでただけだった。
――《夫婦の幸福》。ペリドットの石言葉を思い出しながら、フェイミィは口づけにも似た優しい感触に、思わず笑みをこぼしていた。

「くっ……」
 あわてて次の攻撃をしかけようとする宝石商人。だが、彼の周囲はフェイミィの発動したホワイトアウトに覆われていた。
 ルビーの炎は消え、代わりに視覚を遮る猛吹雪が吹き荒れている。
「観念しな。もう逃げ場はねぇ」
 コンドルのレガースを突きつけ、フェイミィは凄みのある声で告げた。商人が手に持った宝石を投げつける前に、彼女はブレードを一閃。
 飛び出した鉤爪状の刃が、敵の体を切り裂いていく。
「が……はぁ……」
 血の臭いをまき散らして、宝石商人は絶命した。
「ったく。汚ねぇ死に様だぜ……男って奴はよ!」
 ぶちまけられた内臓を見下ろしながら、フェイミィは吐き捨てる。
「こいつぁどんなに磨いても、宝石にはならなそうだな。その辺の石ころのほうがよっぽど綺麗だぜ」



 そのとき、商人が握っていた最後の宝石が、美羽の前に転がってきた。透明な輝く石。
「なんだろう?」
 美羽が拾い上げて確認する。商人が切り札として用意していたのは、光の攻撃を持つ、《脾臓ダイアモンド》であった。
「ダイアモンドの石言葉って、たしか……」
「《永遠の絆》ね」
 高根沢理子が、美羽のとなりに寄り添いながら言った。
 美羽は複雑な表情で、脾臓ダイアモンドを見つめていた。輝きはたしかに美しいが、このために誰かの死が犠牲になっている。そう思うと、殺戮を望まない美羽の優しい心が、ずきずきと痛むのだ。

 弔うようにして、彼女はダイアモンドを空中に放った。ニルヴァーナの空に弾けた成仏の光を、美羽と理子は静かに見上げていた。
 ダイアモンドの眩(まばゆ)い輝きは、ふたりの網膜に、永遠に残されることだろう。