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リアクション
VS ヒラニプラの捨て機晶姫
ファット・ガール、最後の護衛はヒラニプラの捨て機晶姫だ。
マスターに捨てられ狂気に陥った彼女を、ハルミア・グラフトン(はるみあ・ぐらふとん)が説得する。
「ハルミアも仕える者なのです。誰かに尽くすという喜びは、分かり合えると思うのです」
彼女は慎重に語りかけた。プログラムの狂った捨て機晶姫は、人の体を見るなり料理してしまう。うかつに近づけば、ハルミアもカルパッチョにされてしまうだろう。
「どうやら、お隣の戦いは終わったようですね」
アルファ・アンヴィル(あるふぁ・あんう゛ぃる)が、隣の戦場に視線を移した。
「ともに相手を殺したようです。まあ、賢明な判断と言えるでしょう。人間が二人減っただけの話ですからね。悲しむ必要なんて何もない。そんなものは、感情の無駄遣いです」
あくまでも淡々と、アルファは告げた。
しかし、ハルミアの表情はさえなかった。たとえどんな相手であれ、死者を出したことに胸を痛めているのだ。
せめて捨て機晶姫だけは説得したい。カリスマ講師や宝石商人ならともかく、正気を失った哀れな機晶姫には、まだ同情の余地がある。
本来、彼女に登録されていた、
ご主人様の【身体を】洗う
【料理して】卓に並べる
掃除が終わったらゴミを【捨てる】
という3つのプログラム。
それらが混ざってしまい、捨て機晶姫の行動原理は、
【身体を料理して捨てる】
になっている。
この狂ってしまったプログラムさえ、元に戻すことができれば――。
「ウウゥゥ……。ウウゥゥ……」
焦点の合わない目を泳がせながら、捨て機晶姫が唸り声をあげた。返り血で赤黒く汚れたメイド服をなびかせ、彼女はハルミアのもとへ近づいていく。
「わたくしがお相手しましょうか」
アルファは雷術を放ってけん制する。小さな電流が捨て機晶姫を襲い、彼女の動きを止めた。
「ウウゥゥウゥゥゥ!」
鬼のような形相で、捨て機晶姫がアルファを睨んでいる。
痺れから解放された彼女は、手に持っていた出刃包丁をぶんぶんと振り回した。
すかさずアルファがサンダーブラストを畳み掛ける。掲げた出刃包丁をめがけて、強力な雷が降り注ぎ、捨て機晶姫の体を貫いていく。
「ガァァァァ……ッ!」
機晶姫はその場に崩れ落ちた。止めを刺すなら今のうちだろう。すでにアルファは、ファイアストームを放つ用意ができていた。
「死なない程度に焼いてあげたいところですが、焼き加減にはあまり自信がありません。ここ最近ブレス攻撃を使う機会が少なかったものですから」
ファイアストームを放てば、捨て機晶姫は焼け死ぬだろう。その結末を望まないハルミアは、アルファと機晶姫の間に立つ。
「私には思い出してほしいのです」
そう、ハルミアは告げた。
捨て機晶姫がまだ、仕える者としての喜びを感じていた記憶。それを呼び起こすために、彼女は荒療治に出た。
【ランドリー】による攻撃で【洗う】を。
【ハウスキーパー】による攻撃で【掃除】を。
それぞれ思い出させる作戦だ。
「えいっ!」
衝撃で元に戻ってくれないだろうか。そんな古いテレビじゃあるまいしと、ハルミア自身も半信半疑だったが、わずかな可能性でも賭けてみようと思った。
最後に、香辛料の小瓶を取り出して見せる。これでちゃんとした料理が蘇ればよいのだが……。
「手荒なことしてごめんなさい。でも、あなたには他のお仕事があった筈なのです。それをどうしても、思い出してほしかった」
「ウウゥゥ……」
捨て機晶姫が、よろめきながら立ち上がった。ふらふらとした足取りでハルミアに近づいていく。
いけない! このままでは、ハルミアがカルパッチョにされてしまう。
アルファがすぐに、ファイアストームを放とうとしたのだが――。
捨て機晶姫は、錆びついた出刃包丁を地面に放り投げた。そして、穏やかな表情を浮かべながら、ぺこりと頭を下げて、こう告げたのである。
「オカエリ……ナサイマセ……。ゴシュジン……サマ……」
本来の機能を取り戻した捨て機晶姫。返り血のついたメイド服も、【ランドリー】によってピカピカに洗い流されている。
律儀にお辞儀をする彼女は、ハルミアと並んでも引けをとらないほど、可愛らしいメイドの姿であった。
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