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第3次スーパーマスターNPC大戦!

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宝物 ―女神の采配―


 セレアナが導くルートは確かに襲撃者との遭遇が少なく、破名の負傷というトラブルの為に失った時間を取り戻すかのように一行はガンガン進んでいった。
「次の通路を曲がったら辿り着くわ」
「取り巻きも沢山いるよ」
 セレアナと真の声が状況を知らせる。
「じゃぁ、足止めする」
 エースが提案した。
「蹴散らすのは得意!」
「加勢するぜ」
 シュヴァルツヴァイスを手に取るセレンフィリティにイアラがメルトバスターをちらつかせた。
「できるだけ近くって、どのくらい?」
「派手なのは好きか?」
 質問に、場違いな質問で返されて、ルカルカは一瞬きょとんとするも、大きく頷いた。悪魔は、彼女の答えに満足そうに目を細め、歪んだ笑みを浮かべる。
「こんな馬鹿げた祭りを煽る皇帝に目にもの見せてやろう」
 至高のゴールデンパンティさえ手に入ればこちらの物なのだ。こそこそと背後に回ろうが、コロッセオの死闘に夢中になっている主催者の後頭部を殴り飛ばして強奪しようが、結果は同じだ。ならどの手段が効率がいいか、破名は契約者全員を煽った。発破をかけたのではない。これ以上もないくらい注目を集めろと煽ったのだ。
 集中の邪魔をされたくない、最初にそう言ったことを思い出して、契約者達は任せろと各々の得物を持ち直す。
 主賓席に飛び込むと同時にセレンフィリティとイアラが発砲した。開始一番の威嚇射撃に皇帝アッシュは「何奴!」の一言も言えず、近場に居た取り巻きの戦士を蹴飛ばして盾にする。
 ぱんつ戦士達が反撃に出る前にセレアナはイナンナへ全員の加護を祈った。少しでも怪我をしないように、少しでも無茶ができるように。
 そう、思いっきり暴れることができるように!
 主賓席の飾り柱に這う蔦に新たな生命を吹き込むとエースはエメラルドセイジの弦を引き絞り、植物達を先導する。
 陽動なら任せてとルカルカが取ったのは十人規模のちっちゃな分身達を使った目眩まし戦法だった。見慣れない大きさの生き物の出現にぱんつ戦士達は大いにパニックを起こす。
 言葉通り派手に襲撃する契約者達に口端を愉悦に曲げた破名は、自分への攻撃を近場に居る戦士の肉壁で防ぐ皇帝アッシュが持つゴールデンパンティに標準を定めた。

* * *

「勝負はほぼ五分五分、互いに決め手に欠けるってところか」
状況を冷静に分析しながら、武尊は舌打ちをした。
 ハデスのブラジャー作戦。そして驚異的な力を誇るジゼルの勝負ぱんつを装備したリカインによって窮地は去った。しかし戦士側と契約者側、人数の違いもあり勝負は拮抗状態のままだ。
 どちらかの体力が尽きるまで、言い換えればどちらが先に倒れるか。
 マスターぱんつ戦士たちは、このコロッセオで数百となく戦ってきた猛者だ。引き換えこちらは勝手の分からない異世界の戦場での戦い。先に倒れる可能性はこちらの方が絶対的に高いだろう。
武尊は逡巡し、そして武器を下ろすと懐へと手を伸ばす。
「こうなったら――」
決意を口に出し固くすると、彼はそれらを空へと舞い上がらせた。
「あれは……!!」
「おお、なんと美しい…!」
「なんたる光景……」
伝説に謳われし神の祝福!!
 皇帝アッシュは玉座から立ち上がり、叫び、そして思い出す。幼き日より何度も繰り返し聞いた寝物語を。
 空を舞う聖なる祝福の雨。
 伝説にを目の当たりにし、戦士たちは動きを止めた。否、動くことが出来なかった。
「今だ、お前等、やっちまえ……!!」
 叫びながら武尊の体は、崩れるように地へ落ちて行く。
 土埃の中倒れ伏した彼の体を抱き抱え、壮太は言う。
「馬鹿だろあんた!」
「こんな……こんなことって!!」
 美羽はなぎこの顔を見る。回復を施しているなぎこの額には、玉のような汗が浮かんでいた。
「新鮮なぱんつ力が無くなって、体力が急激に衰えてる!
 こんなことをすれば貴方ならどうなるか分かっていた筈なのに、なのに――!」
「ああ、でもこの犠牲、無駄にはできない!」
 コハクは闘いの様子から目を反らさず、闘技場の中心を見続けていた。
 激戦に次ぐ激戦で、契約者は疲労の極みに達していた。
 吹雪との闘いと自爆から逃れたアレクが戦線に戻ってくる、そんな短い間にも戦況は更に悪化している。
 契約者たちの剣が、刀が、槍の鉾が鈍っているのが、遠く見ているだけで分かった。
「アレクさん、皆さん……あんなに、傷ついている」
 満足に戦えない自分の代わりに、傷を負い、蓄積する疲労に苦しみながら戦う者たちを目の当たりにして、豊美ちゃんは意を決して飛び上がり、その身を晒す。
 現れた少女にコロッセオ中の視線が集まる中、豊美ちゃんは『ヒノ』を掲げ、呪文のように言葉を紡ぐ。

「聖布を纏い、命を賭して戦う彼らに、いま一度溢れる力を――」

 ぱんつの事を聖布と言ってしまう豊美ちゃんに陣のツッコミの声が挙がる前に、ぱんつ契約者の被っていたぱんつに光が灯る。すると彼らの中から生命力が湧き起こり、剣を振るえば尽くぱんつ戦士を打ち倒し、背後からの攻撃でさえも避ける。どこかぱんつを被ることに恥ずかしさを覚えていた者は、悩みから解放され悟りを開いたかのように己の持つ力を存分に発揮していた。
「何だ? 何が起こっている?」
「分からない、だが根源はあの少女だ、あいつを討て!」
 会場を警備するぱんつ戦士が即座に、豊美ちゃんへ攻撃の目を向ける。
「豊美ちゃん!!」
 誰かが叫んだ。その次の瞬間、豊美ちゃんの鼻先まで迫っていた剣が、槍の鉾が地面へ向かってグズグズと崩れ落ちた。
「……」
 豊美ちゃんは何も言わない。ただ静かに笑顔を称えて彼を見上げる。目の前にきたのが誰かなのか、自分を守ったのは誰なのか分かっているからだ。
「すまない。約束を違えた」
 地を縮める程の俊足に耐えきれず落ちた豊美ちゃんのピンクのぱんつを拾い上げながら言うアレクが浮かべた、どこか罰の悪い拗ねた子供のような表情に、豊美ちゃんは謝らないで下さい、と首を振って言う。
「私のワガママで招いた危険なのに、それでもアレクさんは私を護ってくれました。
 私こそ、アレクさんの手を煩わせてしまって、ごめんなさい。そして、ありがとうございます」
 ロリータにはノータッチ派でなければ、そして愛する妹の存在が無ければ、瞬間で恋に落ちてしまうような、そんな笑顔を向けられて、アレクは豊美ちゃんから目を反らしながら言う。
「……豊美ちゃんも謝ってるじゃないか」
「えへへ、そうですね」

 アレクが戦線を離脱した闘技場では、豊美ちゃんの祈りによって契約者に力が漲り続けていた。
 奥底から湧き上がるようなものに、その不思議な自らの変化に目を見張はりながらも契約者たちは武器、肉体を振るう。
 豊美ちゃんが生み出した魔法。それは、ぱんつの持ち主達――乙女の祈りの力を契約者の能力として還元するものだった。
 羞恥心を抱きながらもそれをかなぐり捨て、愛するものの為に託そうと決めた乙女たちの勇気の力が、豊美ちゃんの魔法によって契約者たちの力となった。そしてまるで聖母に導かれる信徒の如く、契約者はその力を振るうのだ――。
「グラキエス、お前なのか……?」
「なぎさん、ちょっくらヒャッハーしてくるわ!」
「これが――白狼の、セフィーの力!」
「綾乃、貴女の応援、受け取ったわ!」
「歌菜……、見ないでくれ――
 いや、見てくれ! 俺を見ろッ!!
「これは……この感じ、ジゼル君……! わかる……今、ここに、君が今私の側にいる」
因みに、リカインが被るジゼルのぱんつは、兄の手によって無理やり奪われたものであり、正規のルートで、リカインに渡った訳ではないことをここに改めて追記しておきたい。
 その瞬間、アレクは見たのだ。
 リカインと共に声を合わせ、歌う妹の姿を。
 羽純の手に重なった、歌菜の手を。
 飛び上がる舞香の肢体を支える綾乃を。
 オルフィナと共に吼えるセフィーを。
 カガチに力を与えるなぎこを。
 そしてベルテハイトと共に戦場に立つグラキエスを――。
「豊美ちゃん……これは……」
 豊美ちゃんを見れば、彼女は笑顔でそれに応える。
 そしてアレクは悟った。あれこそが彼女が実況席から言いつづけていた力の正体。
 やがて観客達の戸惑う様なざわめきは、確かな興奮へと変わってゆく。
 そしていつしかどんな逆境にも諦めず、戦い続けた異世界の戦士達へのエールになり、契約者達を支え始めた。
頑張れー!!」「負けるな!」「いいぞ! そこだ!!
 市民達の声に、皇帝アッシュは玉座から立ち上がり、落ち着き無く彼等を見回した。
「馬鹿な!! ロミスカの市民達にが従うのは我が覇道のみ。
それをあのような者たちが!!?」
 皇帝アッシュには分からない。
 市民達の興奮が。乙女達(*約一名男)の心を得て闘う異世界の戦士達の強さの理由が。
 あの力の源が、愛であるという事が――。


……感動して、たまるかあああああああ!!!
 陣、魂の叫びであった。

* * *

 大切に握られている黄金の輝き。
 言い出したのは自分。決意したのも自分。破名として接触した契約者がいると知っていて、馬鹿な事をと思うが、それは仕方ないものと諦めた。どちらにしろやるしかない。
 奇襲が成功しているから優勢に見えているのであって、所詮ぱんつ無しでは取り巻き達に逆転を許してしまうだろう。時間は限られている。その中で最善を尽くすとなったら、躊躇いは許されない。迷わず転移魔法に使う機能全ての回線を繋ぎ回路の調整後、楔――特殊な古代魔術文字を解放展開した。
「しかし自信が無いからな。軌道の補正試算を二倍にするか、単純に範囲指定にするか迷う……」
 近くで襲い来るぱんつ戦士に足払いをかけていた真は犬みみに届く独り言に知らず破名を見た。過激な陽動に全員の注目が外れている中、破名を中心に銀に輝く白色の古代文字が幾重にも展開されている光景を目撃してしまい真は知らず見入ってしまった。その視線に気づいた破名がゴールデンパンティを見てろと瞳を動かす。
 黄金ぱんつに銀の柄が浮かび上がっていた。
 予備動作無しに発動できる転移魔法は、だからと言って事前作業が要らないわけではない。目的を完遂する為に、考え得る全ての状況に対応すべく式を綴り、思考が独り言として弾き出されてしまう程入念な試算処理に脳が逼迫され行動制限がかかり無防備を晒す破名は、最後に導き出され目の前に現れたコードを息を吸ってから思いっ切り叩いた。
 真が見ていた先で、皇帝アッシュに握られていたゴールデンパンティが一瞬にして掻き消える――。