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一会→十会 ―領主暗殺―

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一会→十会 ―領主暗殺―

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 ――イベントが行われる数日前。
 『MG∞』の事を聞きつけたシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)は、豊美ちゃんにある交渉をお願いしていた。

「このイベントにさ、ミルザムを呼べないかな?
 オレとあいつで『魔法少女Wシリウス』をやりたいんだ」
 シリウスはイベント参加に当たって、{SNL9998927#ミルザム・ツァンダ}を招待したいと言った。二人はかつて『AKIHABARAM@STER』で共演したことがあったし、最近では『魔法少女Wシリウス』として行動を共にしたこともある。豊美ちゃんも紅白歌合戦でミルザムの事は知っていたので、分かりましたー、交渉してみます、と回答した。
「……本当はティセラお姉さまもお呼びして、4人でまたやれたらいいのですけど……流石に難しいですわよね」
 リーブラがどこか懐かしむような顔で、やはり『AKIHABARAM@STER』で共演した{SNL9998929#ティセラ・リーブラ}の名を挙げる。
「無理って諦めたらそれまでだろ? まずは言ってみなくちゃ始まらねぇ。そうだろ、豊美?」
「あははー、交渉するのは私なんですけどね。
 ティセラさんも知ってる方ですし、やれることはやりたいと思いますよ」
「……そうですね。ありがとうございます。
 では豊美さん、ティセラお姉さまへの交渉を、お願いいたします」
「はいー、任されましたー」

 ――そして、後日。
『シリウスさん、リーブラさん、ミルザムさんとティセラさんへの交渉、成功ですー。
 お二人とも当日を楽しみにしている、とのことでしたー』
 豊美ちゃんから交渉成立の連絡を受け、二人は喜びを分かち合った後、当日のステージに向けて練習を始めるのだった――。


「ふふ。まさか今一度、あなたと共演する日が来るなんて思いませんでしたわ」
「それは私も同じ思いよ。……パラミタに来るのは、久し振りね」
「都知事として頑張っていらっしゃる、というのは聞いていましたわ。そちらの方は?」
「そうね、今は大分落ち着いてきたわ。……そういえば、あなた結婚したそうじゃない。
 おめでとう、何も用意出来ていないけれど、祝福の言葉は送らせて頂戴」
「いいえ、そのお気持ちだけで十分ですわ。
 今日こうしてあなたと共演出来る、それこそが何よりの贈り物ですわ」

 ステージを前に、ミルザムとティセラが会話を交わす。一時は互いに剣を向け合った仲、けれど今は背負うものも変わり、何より互いを気遣える関係にまでなっていた。
 それは決して二人だけの成果ではなく、彼女たちに力を貸す者たちの存在があってこそであった。
「その調子だと、もう準備万端、って感じだな。気にする必要はないみたいだ」
「ティセラお姉さま、変わらず素敵です……。また、あの時の感動を味わえるのですね」
 シリウスとリーブラが支度を整え、それぞれミルザムとティセラの隣に立つ。ミルザムとシリウスは『魔法少女Wシリウス』の衣装、そしてティセラとリーブラは今回、「ミルザムさんとシリウスさんが『魔法少女Wシリウス』なら、リーブラさんとティセラさんは『魔法少女Wリーブラ』なんてどうでしょうー」と言い出した豊美ちゃんの意見を(リーブラは最初固辞したものの、最終的にはティセラに押し負ける格好で)取り入れ、『魔法少女Wリーブラ』の衣装で合わせていた。
「それでは次のステージ、『魔法少女Wシリウス』と『魔法少女Wリーブラ』、夢の共演です!」
 やがて、出番を告げる声がステージから聞こえてくる。声を聞いたシリウスが振り返ってリーブラ、ミルザム、ティセラを見れば、それぞれステージへの意気込みを滲ませた顔でもって応える。

「さぁて、それじゃ行くか!
 『魔法少女WWシリウス&リーブラ』、地球とシャンバラから歌と踊りを届けようぜ!」



 ステージに立った四人を、観客たちは最初、何が起きているのか分からないといった表情で見つめていた。それはステージの左と右に二人ずつ立つ彼女らが、まるで瓜二つであったから。
『♪〜〜〜』
 しかし、そんな疑念は音楽が奏でられ、いかにも踊り子風な衣装の二人が踊り出すと一気に払拭される。リーブラの演奏で踊るシリウス、ティセラの演奏で踊るミルザム、よく見れば腕の位置やタイミングに違いがあるものの、それがアクセントとなってステージを盛り上げていった。

「へへっ、こうして踊るのは久し振りなんじゃないか?」
「ああ、そうだな。たまにはこういうのもいい」

 実に楽しげといった様子で、シリウスとミルザムの踊りが披露され、最後にポーズを決めた二人へ割れんばかりの歓声が送られる。
 照明が消え、今度はリーブラとティセラの二人にライトが当てられる。

「さあ、歌いましょう、リーブラ」
「はい、どこまでも付いていきます、お姉さま」

 シリウスとミルザムのステージが『動』なら、リーブラとティセラのステージは『静』。しっとりと、けれど感情的に歌い上げる二人に観客は心打たれ、惜しみない拍手を送る。

「最後は四人勢揃いだ!
 付いて来いよ、遅れるんじゃねぇぞ!」

 リーブラにシリウスが、ティセラにミルザムが合流し、『魔法少女Wリーブラ』を『魔法少女Wシリウス』が挟む格好で、四人は歌と踊りを披露する。
 一度も合わせて練習していないにもかかわらず、彼女たちの息はピッタリであり、それに連れて会場のボルテージは最高潮に達していった――。



「それじゃ行きますよー、せーの……
 『∞(Infinity)!!』


 出演者の掛け声に合わせ、ステージから紙吹雪が打ち上げられると、それら一つ一つに光が反射して幻想的な光景を作り出す。
 いつまでも終わることのない歓声に、出演者は感謝の気持ちで応える。

* * *

「はー、なんとか無事に終えられましたねー」
 ステージを降り、豊美ちゃんがホッと息を吐く。まずは一つ、『MG∞』を成功に導くことが出来た。
(……でも、まだ問題は残っています)
 それを確認するべく、豊美ちゃんは貴賓室へと足を向ける。この後は領主のステージ挨拶。そこで何らかの動きがあるのは必至。……そう考えていた所にちょうど、話をしたい人物の姿を見つけることが出来た。
「アレクさん、お疲れさまです。そちらの方はどうですか?」
 豊美ちゃんが小走りで近付いてくるのに、こちらも下官と話を終えたアレクが説明する。
 会場内に居た組織のメンバーは、即席で有りながら客席、地上、ステージ、そして上空と見事に連携のとれた警備担当の契約者達のお陰で全て捕縛されたようだ。
「そうですか、それは良かったですー」
 ホッ、と胸を撫で下ろす豊美ちゃんに、しかしアレクは表情を変えない。豊美ちゃんが疑問に思い首を傾げると、アレクは「残念だが」と添えた。
「あと一組残っているらしい。組織側が雇った契約者のグループだ」
「それは……つまりアレクさんは――」
 言葉を止めた豊美ちゃんへ、その言葉の続きを肯定するようにアレクが頷く。つまりアレクは、自分の命を狙う者たちが潜む中、その身を晒すことになる。
「……アレクさん――」
 豊美ちゃんは言いかける、「イベントを中止にしましょう」と。アレクさんが自分の命を危険に晒すのは良くない、そう言いかけた豊美ちゃんはアレクの目を見て、それ以上先を紡げない。
「その様子だと分かっていると思うけど……言っておく。
 確かに此方側の目的は果たされた。だが領主の――バァルの目的は果たされていない」
「……はい、そうです」
 小さく、豊美ちゃんが口にする。そもそもアレクがバァルの替玉を務める事になった経緯は、豊美ちゃんだって理解している。
 ――事件を起こしたかつての旧友を、自分の手で捕らえたい。
「俺達はバァルの意志を汲んでやるべきじゃないのか?」
「……はい。ごめんなさいアレクさん、ワガママを言いました」
 謝罪の言葉を口にする豊美ちゃんへ、アレクは何か言ったか? というような顔をする。そう、豊美ちゃんの言葉は実際には発されていない。だから豊美ちゃんは悪くない。多分アレクはそう思っているだろう。そう思いつつ、豊美ちゃんは反省の念を抱く。そしてもう過ちは侵すまいと、心に誓う。
「ウマヤド、予定通りイベントは進めます。
 後の事はお任せします、責任は全て、私が負います」
「……承知しました」
 背後に控えていた馬宿へ、豊美ちゃんがハッキリとした声で告げる。それに厳かに答えながら馬宿もまた、何かあった時には己の持てる力を尽くす覚悟を決める。
 豊美ちゃんと同じ様な不安を抱きながらもに、ステージに向かうアレクを一番近くで見守るフレンディスは自らと同じく警備にあたった仲間達を想う。暗殺が確定した場所に向かう等、豊美ちゃんのように止めてしまいたいとも想っていたが、フレンディスは義弟グラキエスやアレクの友人のカガチや壮太、そして皆の事を深く信頼していたのだ。
(私達が力を合わせれば守りきれます!)