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リアクション
第三章
グレゴがいる川から離れた山の中、ギースは木々を飛び移りながら木に実った果物を地面に落としていく。下には構成員たちが待機しており、地面に落ちる前にしっかりと確保していた。
「さぁて、いい感じに量も増えたことだし、一度戻って二代目様に届けてくるか……ん?」
ギースは視線の先に自分たちの仲間ではない人影を見て、木の上で停止して目を凝らす。
人影の正体はレナ・メタファンタジア(れな・めたふぁんたじあ)、水瀬 灯(みなせ・あかり)、神崎 輝(かんざき・ひかる)の三人だった。
「おっと、この山に誰かいるとは思わなかったな。お嬢さん方、ここは今危ないから怪我する前に帰った方がいいと思いますぜ?」
レナは忠告を無視するように一歩前に出ると、ギースを指さした。
「山の実りを独占するなんて良い度胸だねぇ? そんなことしてるんだから、覚悟は出来てるよね?」
「なんだお嬢ちゃんたちも欲しいのかい? じゃあ、あれだ。少しだけ分けてあげるから、ここは見逃してくれないかなぁ?」
「な……! ボクはそんなつもりで言ったわけじゃ……」
「レナさん、目が泳いでるよ」
灯がツッコむとレナの目がさらに泳ぎ、輝が割って入る。
「山のもの全部持っていこうとするとか……ダメですよそれはいくらなんでも……これ以上はやめて、帰ってもらえませんか」
「いや〜、それは無理だわ。そうしたいなら、力尽くでやってみたらどうだい?」
「うん、ならそうさせてもらうよ!」
頭上から声が聞こえてギースが上を見上げると神崎 瑠奈(かんざき・るな)が斬りかかってきた。
「っと!」
ギースは枝の上に座り込むと、背中から倒れて瑠奈の鉤爪を回避すると、そのまま枝から離れて、別の枝へと避難した。
「やれやれ、どうやらやる気みたいだ。それじゃあ、適当に痛めつけてお帰り願おうか」
ギースは腰に提げていたナイフを両手に握ると枝を蹴って跳躍した。
飛んだ先で再び木の幹を蹴り、木々の間を跳ね回るように移動を繰り返し徐々に速度を上げていく。
「おお〜。凄いですにゃ〜。でも、素早さならボクも負けないのです!」
瑠奈は跳躍するとギースと同じように木々を蹴って飛び回り、ギースと横並びになった。
平然と追いついてきた瑠奈にギースも思わず目が丸くなった。
「こりゃ驚いたな。まさか子供に追いつかれるとは……でも、この勝負は駆けっこじゃないんだよ!」
ギースはナイフを握り直し、身体ごと瑠奈にぶつかってくる。瑠奈は鉤爪でそれを払い落とすと二人は互いに距離を取る。
瑠奈は麒麟走りの術と魔障覆滅を使い高速の攻撃を繰り返すがギースもそのペースに巻き込まれないように移動を繰り返しながら瑠奈に斬りかかる。他人の目線からはすでに二人の姿を捉えることが出来ず、時折空中で火花が散っているようにしか見えなかった。
「ギース様! こちらも援護してください! このままでは……!」
ギースはちらりと視線を外して地面を見下ろした。
構成員たちは所持していた拳銃を一斉に発砲する。
だが、その弾丸は輝のオートガードとオートバリアによってあっさりと弾かれてしまう。
「レナさん、灯! 今のうちに反撃です!」
全員が弾を撃ち尽くして一瞬の隙が生まれると、後ろで控えていたレナと灯が前に出た。
「山の実りを……返せええええええええええええええええ!」
レナは鬼気迫る勢いで六連ミサイルポッドを展開させて容赦なくぶっ放した。射出されたミサイルは構成員たちの足下で爆ぜて、爆風で構成員たちが宙を舞った。
「まだまだぁ!」
さらにサンダーブラストで追撃を仕掛け、構成員たちの身体を雷が貫いた。
次々と構成員たちが倒れ、後ろで控えていた連中もレナの勢いに尻込みしてしまう。
「く、くそ! やってられるかよこんなこと!」
「なんで俺達があんなガキの為に命張らないといけないんだ! 俺は抜けるぞ!」
「俺もだ!」
「命あっての物種だ!」
構成員たちは次々とレナたちに背を向けて逃げ出してしまう。
「灯! 追撃して!」
「レナさん……それは容赦がなさすぎる気が……」
「このまま逃がしたらどこに被害が出るか分からないんだから、追撃した方がいいでしょ?」
「分かりました……追撃します!」
灯は魔導砲を構えると、スナイプで狙いを定めて逃げる構成員たちを追撃した。
構成員たちは次々と悲鳴をあげて魔導砲の餌食となり、地面に倒れていく。
その様を見て、ギースは歯がみした。
「何をしてるんだお前たち! 反撃しろ! 落ち着いて切り崩せばあの程度の数押しつぶせるだろうが!」
ギースは叫ぶが逃げる構成員たちには届かず、
「隙有りだにゃ〜」
足を止めたことが決定的な隙となった。
瑠奈は忍法・呪い影で自分の影を向かわせると、影は音なく近づきギースの背後を奇襲した。
「ぐあっ!?」
後頭部から鈍い音が響き、ギースは体勢を崩して木から落ちる。
瑠奈は忍び蚕に糸を吐かせると、白く強靱な糸がギースの身体を包み込む。頭からの落下こそまぬがれたが、ギースは木から蓑虫のように宙づりになってしまった。
「やった〜! この勝負、ボクの勝ち〜!」
「……情けない。二代目様、申し訳ございません……。おいらの負けだ、煮るなり焼くなり、好きにしてくれ」
木の上ではしゃぐ声を聞いて、ギースは力を抜き、ギースの部隊はここに完全敗北を喫した。