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リアクション
第三章
フロアで馬鹿勝ちする者が増え、ここの従業員として潜伏していた桜月 舞香(さくらづき・まいか)はこの異常事態を知らせるべく、オーナーの部屋へと向かう。
「オーナー、どうやらお客様の中にイカサマをしているものがいるみたいです」
「ああ、見ていたよ。タネは分からないが、明らかにおかしな勝ち方をしている連中がいるな」
九条はそう言いながら何分割もされているモニターを見つめていた。モニターにはフロアが映し出され、カメラを通してコントラクターたちの姿も確認できる。
「馬鹿な人たち、オーナーのカジノでイカサマをするなんて……」
舞香はそう言って九条へと歩み寄り、胸を露骨に押しつけた。
「桜月君……何をしている?」
「別に、なにもしていません」
舞香はイタズラっぽく笑みを作る。九条の腕に胸が当たり、軽く押さているせいで胸の谷間がポッカリと空いていた。
九条は咳払いをしながら視線を逸らす。瞬間、舞香はキッと目を細め、九条の前に足を踏み出す。その身のこなしは女ではなく、武人としての動きそのものだった。
九条が何事か理解する前に舞香は投げの極意で跳びかかろうとする。
が、
「兎に紛れて、狐が入ってきたみたいだねぇ」
音もなく現れたセフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)が背後から奇襲を仕掛ける。
「っ!」
普段ならかわせる攻撃ではあったが、ハイヒールという動きにくい靴が機動を殺し、セフィーの一撃が舞香の背を襲い、舞香は壁に背中を叩き付けぐったりと倒れこんだ。
「まさか、こんな優秀な傭兵を雇っているとは思わなかったようだな」
「それで? この子はどうすればいいのかしら?」
「縛って監禁しておけ、後でショーにでも出して見せしめにでもなって貰うとしよう。それと……イカサマをしている奴らのことだが」
「そっちも抜かりないわ。すでに部下をフロアに向かわせているから」
「ふむ……なら、そいつを別室で監禁しろ」
九条に言われるがままセフィーは舞香へと歩み寄る。
「こんな……悪徳カジノのオーナーに雇われて……恥ずかしくないの?」
脳震盪を起こしているのか、舞香は途切れかけた意識を繋ぎながらセフィーを見上げる。
セフィーはクスっと笑うと、舞香の顔を踏み付けた。
「イカサマはバレた方が悪いのよ。あたしに見抜かれる様じゃまだまだね。噛み殺してあげましょうか?」
セフィーは舞香の顔から足をどかすと舞香を肩から担ぐ。そして、九条には聞こえない声でこう言った。
「どのみち、小手先では雅羅を助けられないわ。やるなら、完璧なイカサマで正面からぶつかりなさい」
「あなた……その事を知ってるの……?」
「さあ? 何のことかしら?」
答えずにいると舞香は意識を手放し、セフィーは九条がいる部屋を後にした。
神月 摩耶(こうづき・まや)、ミム・キューブ(みむ・きゅーぶ)、クリームヒルト・オッフェンバッハ(くりーむひると・おっふぇんばっは)、アンネリース・オッフェンバッハ(あんねりーす・おっふぇんばっは)の四人はバニースーツを着込み、フロアの中心に行くと、ダンスショーを始めた。
胸やお尻を強調する刺激的なダンスにディーラーたちも視線がそちらにチラチラと向かってしまう。
「皆ぁ、頑張って稼いで頂戴ね♪」
クリームヒルトは客達にウインクをすると、男達は心を奪われたようにポカンと口を開けてしまう。
隣で踊っているミムもその姿に釘付けになっていた。
「ふぇ〜……クリムちゃん、凄いの〜」
「ミムちゃんも、もっとサービスしないと。こうやれば、お客さんも喜ぶよ?」
摩耶はそう言うと、ミムを抱き寄せるようにして近づき耳打ちをした。
「えっと……えっと、これで良いの?」
ミムはバニースーツに指をかけると、そのまま下に下ろし胸がスーツから零れそうになる。男達はその姿に歓喜の声を上げた。
ただ、その姿に一番辛抱できなかったのはアンネリースだった。
「ミム様……!」
アンネリースは上気した表情でミムを抱きしめ、スーツの上からミムの体を撫でた。
アンネリースの指がミムの体を這い、胸の辺りで指が沈み込む。
「それじゃあ、ボクも……クリムちゃ〜ん!」
摩耶はクリムに飛びつくと、そのまま押し倒すように顔をクリムの胸の谷間に沈めた。
「あ……やだ、摩耶ったら……こんなところで、みんな見てるのに……」
そう口にしているがクリームヒルトは一切抵抗せずに、自身の身体を貪るようになで回す摩耶の手に全てを委ね、時折快感が背中を走るのか、
「ん……ふぁ……」
淡い声が漏れて背中が弓なりに反った。
その声をもっと聞けるように摩耶の手が一層激しく動き、クリームヒルトの呼吸が荒くなっていく。
刺激的なその光景に、警備をしている人間までもがそちらに気を取られるようになってしまう。
他の警備達が見かねて、摩耶達の前に立った。
「待ちなさい君たち。それ以上はお客様やディーラーの邪魔になる。即刻中止しなさい」
摩耶は目を潤ませて警備に抱きつく。
「なっ……! き、君! やめなさい!」
「あぁ、御免なさい。ボクたち、悪いことしちゃったんだよね? でも……お仕置きなら、誰もいないところでやって欲しいな」
それを見て、クリムもイタズラっぽく笑みを浮かべた。
「あは、摩耶ったら♪ ね、この子も、あの子達も一緒に……♪」
「う、む……」
止めに入った警備達も誘惑に負けて、鼻の下が伸び始めると、
「そこまでだ」
そう言って割って入ったのはオルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)だった。
「そんなにお仕置きされたいなら、俺が四人まとめて相手してやるぜ。おい、こいつらを別室に連れてけ。……そこで、きっちりと可愛がってやるよ」
オルフィナはアンネリースを抱き寄せると、その白い肌に舌を這わせた。
「あぅ……」
ピクリと背中を少し反らせて反応してみせるアンネリースを見て、オルフィナは楽しそうに目を細めた。
「わたくしはどうなっても構いません。ですから……ミム様だけはお助け下さいましぃ…!」
「え、あ、アンネちゃんが代わりになんて! それならミムも一緒なのー!」
「安心しろよ。全員、キッチリとお仕置きしてやるから」
オルフィナは舌なめずりをすると、四人を連れて別室へと消えていった。
時より部屋から艶っぽい声が漏れたが、カジノの喧噪はそれをかき消しそれに気づく者は誰もいなかった。