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パラミタ・イヤー・ゼロ ~DEAD編~ (第1回/全3回)

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パラミタ・イヤー・ゼロ ~DEAD編~ (第1回/全3回)

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 ローザマリアは迅速な動きで地下を調べあげていた。パートナーのエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)と、従者を含めたユニットとともに、情報を洗い出していく。
「八紘零……名前からしてニッポーズ(日本人)かしら? いえ――先入観は排除した方がいいわね」
 零には未だ謎が多い。下手な思い込みで真相を曇らせないよう、ローザは細心の注意をはらう。
 地下のいちばん奥の部屋までたどりついた彼女たちは、超感覚でなかの危険を探知。ローザがトラップの気配を感じとり、パートナーに告げた。
「ジョー。頼んだわ」
 エシク・ジョーザはすぐさま、火薬を抑えた機晶爆弾を投げ込む。簡易閃光弾と改良されたそれは、周囲の機材を傷つけることなく、トラップのみを破壊する。
 つづけざまエシクは従者達へ、部屋の周りに待ちぶせを命じた。
「それにしても――。八紘零が報道機関に対して持つ影響力の大きさが気になります。ただ証拠を集めるだけでなく、零の外堀を埋められる材料が必要でしょうね」
 ローザとともに次々とセキュリティロックを解除していくエシクは、取り囲む端末を深刻な表情で見つめていた。
「……由々しき事態になる前に」

『機晶支援AIシューニャ』の力を借りつつ、ふたりは零にまつわる手がかりを探す。
 八紘零はどれだけ裏からパラミタ社会に手を回せるのか。調べれば調べるほど、政治家との癒着がわき出てきた。
 とくに零の傘下である、電力会社の存在が大きい。その会社は、資材や工事費用を水増しして発注しており、取引先は水増しされた分をプールして、零が別に用意した法人格をもたない団体に預けていたのだ。団体が法人格をもたないのは、国からの検査を免れるためである。
 そうして預けられた金は、八紘零が自由に使えるようになるので、政治家への献金にまわしている――という仕組みだ。

 その他、とくに目立っていたのは『遺伝子にまつわる研究』だった。レインコートでは、表向きこそ『遺伝子の治療薬』としているが、実際は遺伝子を変異させて『先天奇形をもたらす生物兵器』の開発を進めていたのだ。
 ローザが入手したデータには、DNAを操作され、単眼症や両性具有、結合性双生児として生み出された子供たちの写真があった。

 八紘零への怒りと、子供たちへの憐れみがこみ上げるローザとエシクだが、今は感情に流されているときではない。ふたりは粛々と端末のセキュリティを解除していった。
 そしてついに――。
 零のいる、核シェルターへのアクセスに成功したのである。


「――ここまでたどりつくとは。私は少しばかり、君たちを侮っていたようだね」
 モニタに映しだされた初老の男が、笑っていた。彼こそが八紘零である。
 ローザマリアにむけて拍手を送る零だが、彼の瞳には、どこか人を見下しているような自惚れが感じとれた。
「ご褒美といってはなんだが、ひとつ君にいいことを教えてあげよう。――【アポカリプスの開闢】。その内容を教示しようじゃないか」
 八紘零は、もったいぶった仕草でサングラスをかけると、ローザに向きなおり、一冊の魔導書をみせた。
「ヒトゲノム、という言葉は知っているな。人間がもつすべての遺伝情報のことだ。この魔導書には、ヒトゲノム――人間の遺伝情報が記されている」
「それが、魔導書の正体なの?」
「もちろん、ただ記されているだけではないさ。ファーストクイーンの力を借りて、ちょっと細工をしたからな。――この魔導書にはね。人間の遺伝子を、『特定の塩基配列に書き換える』作用があるのだよ。私はこの素晴らしき魔導書に、ヒトゲノムならぬ【レイゲノム】という名前を冠した」
「ってことは……。まさか、あんた……」
 ローザが抱いた不吉な予想は、零の不敵な笑みによって肯定される。

「そう! 私はこの魔導書を使い、パラミタにいるすべての人間の遺伝子を、私と同じ塩基配列に書き換えてやるのさ!」


――アポカリプスの開闢。
 その悍 (おぞ)ましき目的が、いま明かされた。
「……『生命の本は、庭にいる一組の男女から始まり、ヨハネの黙示録で終わる』。オスカー・ワイルドの言葉だが、なかなか示唆に富んでいると思わないかね」
 モニタのむこう。零が喉をくくくと鳴らした。
「いいかい。この世はゼロサムゲームなのだ。男と女。罪と罰。希望と絶望。生と死――」
「なにを勝手なことを……」
 ローザマリアが睨みつけたが、とつじょモニタの電源は落とされる。
 画面が真っ暗になる直前。八紘零は、陶酔したような口調でこう囁いていた。

「――私のもとで、すべてがゼロになる」