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【若社長奮闘記】若社長たちの葛藤

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【若社長奮闘記】若社長たちの葛藤

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【痛みと共に伝わる想い】


 その場所は草木が生い茂り、鳥や動物たちの鳴き声が響いていた。その鳴き声を聞きながらいつも思う。

(あいつなら、どの鳴き声がどんな動物か、分かるのかな)

 自分は動物についてあまり詳しくない。だからもしもここにいたのなら、教えてくれるだろうか、と。

「なぁ、お前はどう思う?」
 生い茂った木々を抜けた先にある、不自然に開けられた空間。他よりも地面が高くなっている――いわゆる丘の上に、友はいた。
 冷たく硬い石に刻まれた名前を指でなぞる。冷たいはずなのに、懐かしい、温かい感じがした。
 あの柔らかな毛並みの感触が思い起こされ、泣き叫びそうになるのをぐっとこらえた。今日は友に甘えに来たわけではなかったから。ぐっと、ぐっとこらえて言葉を紡ぐ。

「明日からあいつと……あいつらと旅行に行くんだ。それで」

 それで。
 ぎゅっと、いつの間にか握っていた拳が痛みを伝えてくる。爪が手の平に刺さっている。
 痛い。
 痛い痛い痛い。痛いけれど、どれだけ念じても力を緩めることはできなくて、諦める。
 痛みを諦める代わりに、友へ告げた。

「もう……今回で最後にしようと思う」



***



 深い森を、その入口でじっと見つめている男がいた。ドブーツ・ライキの秘書だ。……彼はほとんどドブーツの傍にいる。少なくともブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が知っている彼は、いつもドブーツの傍に控えていた。
 一人佇む背中をしばし珍しげに見てから、声をかける。
「メソド、すまない。遅れた」
 秘書、メソド。アンラ・メソドは、ブルーズと黒崎 天音(くろさき・あまね)の姿を確認し、微笑を浮かべながら綺麗にお辞儀をした。
「いえ。私の方こそこのような場所まで来ていただいて申し訳ありません」
 ここはドブーツの私有地で、森以外には何も無い場所。天音はそれこそ気にしないで欲しい、と告げた。
「僕がいいだいたことだから」
 天音は微笑み、森を見た。メソドは何も言わなかったが、この先に彼が。彼らがいるのだろうと察せられた。わざわざメソドがそんな時を選んだのは、おそらく彼の傍にいないのがこの時しかないからだろう。
「……ああ、そうでした。こちらです」
「いつもすまないな」
「いえ。こちらこそお世話になっておりますから」
 メソドが懐から取り出した輪っかを天音が受け取る。ブルーズとメソドが会話している中、天音は意識を集中させた。
 輪っか――犬の首輪に向けて。

 しばらくそうしていた天音の身体が、大きく揺れ動いた。誰かに殴られたかのような。電撃を浴びたかのような衝撃が彼の身に襲い掛かっていた。
「っ、大丈夫か?」
「……こういう事があるから、サイコメトリはあまり好きじゃないな」
 身体を支えてくれたブルーズに礼を述べてから、天音はそっと首輪をなでた。
 甲高い声が、彼の名を呼ぶのを、天音は聞いた。
 
「そうか。君の名前は……」