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少女と執事とパーティと

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少女と執事とパーティと

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No.3 パーティ終了、チズとジョージ
 

 「今日は楽しかったですよ」
「ありがとうございます」
 無事にパーティは終了し、招待客はチズに挨拶をしてパーティ会場を去っていく。
 いつもとは違うパーティに興奮気味に帰られる招待客もいた。ただ、楽しそうな雰囲気はこちらに伝わってくる。
「今度は当家でパーティを開くので、是非お越し下さい」
「はい、楽しみにしております」

 「玄関ホールでささやかですが、イリスフィル家の花を押し花にした記念品を配っております。是非、お持ち帰りください」
 真の提案で押し花をカードにした記念品を配っていた。
「どうぞ」
「ありがとう」
 真を中心に他のウェイターと共に、招待客の一人一人に手渡していく。

 「海君、上手くいってよかったね」
 柚は海にそっと寄り添った。周囲は暖かな雰囲気で満ちている。
「ああ、これで二人も落ち着くと良いんだがな」
「そうだね」

 「涼司君、お疲れ様」
「今日は、なかなか忙しかったな」
 加夜は涼司の手を取り、招待客を見送っていた。
「無事に終わってよかったね」
「ああ」

 「楽しく過ごすことが出来ました」
「ありがとうございます」
 舞花が礼儀正しく感謝の意を伝えた。
「素敵なパーティーに招いてくれてありがとー!とっても楽しかったよ!」
 ノーンは終始ご機嫌でチズにお礼を言った。
「また来てくださいね」
「うん!」

 「……お嬢様」
 険しい顔でライスがチズの元へとやって来た。
「何か?」
「ジョージ様がお嬢様に控室に来て頂きたいと……」
「……そうですか。分かりました」
「チズ、僕達も行こうか?」
 一寿がチズを呼び止めた。
「いえ、これは私達の問題ですから」
「そう……頑張って」

 庭園に隣接する賓館へとチズ達は歩いていく。
 螺旋の階段を登り、控室へと向かう。その足取りは確かなものだった。迷いや不安などは感じられない。
「……お嬢様」
「大丈夫です」

 ライスが扉の前に立ち、数度ノックを入れる。
「入れ」
 ライスは慎重に扉を開け、チズは控室の中へと足を踏み入れた。
「……」
 第二控室。控室としては、大きな部屋だった。
 控室には、ジョージと複数の黒服のボディーガードとチンピラ、そしてジョージ専属の弁護士がいた。
 余計なテーブル等は片づけられ、円卓のテーブルを挟んで控室の最奥にジョージが高級なソファーの上にどっかりと腰を下ろしている。
 ビリビリとした緊張感をライスは肌で感じていた。殺意が部屋に満ちている。
「座れ」
 一脚だけ用意された椅子にチズは座る。
「先ずは、パーティの成功おめでとう」
「ありがとうございます」
 ジョージの瞳をライスは見ていた。祝いの気持ちなどは微塵も感じられない。
「……」

 「何の御用ですか?」
 先に口を開いたのはチズだった。
「分かっている筈だ……お前がココに呼ばれた理由が」
「分かりません」
 ジッとジョージはチズの目を見た。パーティ開催以前の揺らぎは感じられない。
「……なるほど」
(無駄に自信を付けたようだ)
「では、率直に言おう。チズ、イリスフィル家の当主を放棄しろ」
「!」
 ライスは驚きの顔を見せていた。パーティは成功したのだ。当主として、チズは認められたに等しい。
「――」
 ライスが口を開くのをチズが遮った。
「今さら――愚問です。私は当主を辞するつもりはありません」
 ジョージはチズの目を見ていた。更にその奥の心遠を見ている。その意志は揺らぎはしないだろう。
 そして、この問答は無駄だと思った。
「そうか……残念だ」
 我慢していた殺意をハッキリさせ、指を鳴らした。
「ジョージ様!」
 ライスは呻いた。
 傍に控えていた黒服達が銃を抜いたのだ。総勢七人の銃口がチズに向けられる。
「お前たちは此処で終わりだ」
「ジョージ様!」
 ライスはチズを庇う様に前に立つ。大した壁にはならないだろう。だが、それ以外の選択肢はない。
「それが貴方の応えですか?」
 淡々とチズは尋ねた。
「そうだ。貴様には残っていたテロリストの仕業で此処で死ぬのだ。発見者は私だ。私は必死に蘇生を試みたが、死亡が確認された。そういうことだな?」
 隣の弁護士は頷く。
「ええ。チズ様が死亡された場合の次の当主はジョージ様になられます」
「そういうことだ。さよならだ、チズ」

「それは貴方です。ジョージ」
「……お嬢様?」
 ライスは背後のチズを顧みる。
「終わるのは、貴方です」
 チズが手を掲げた。
 現れたのはカル、惇、ジョン、ドリルだった。
「やれやれ……なかなか呼ばないからヒヤヒヤしたよ」
「お手数をお掛けします」

「お久しぶりです」
「……下らん」 
 エースとメシエも居る。
「ほう……」
 ジョージは感心した顔でチズを見ていた。
「……これでもやり合いますか?」
 両陣営とも二人の合図で直ぐに動ける状態である。二人が少しでも腕を振れば、始まってしまう。
 二人の視線が交差し、空気が小さく震えた。
「此処で退くわけにはいかないのだよ――殺れ!」

 ジョージの合図で戦端が切られた。
 黒服達は一斉に引き金を引いた。
「させない!」
 カル、惇、ドリルが『サイコキネシス』を発動させる。念力の障壁が弾丸を空中に静止させる。
「下がってください」
 ジョンが『お下がりくださいませ旦那様』でチズとライスを後方へと下げる。
「やれやれ」
 『エバーグリーン』をエースが発動させる。
 展示用の観葉植物が急激に成長し、巨大化した幹が黒服の男達を二人まとめて薙ぎ倒す。
「時間の無駄だ」
 メシエが『渾爆魔波』を発動させた。3種の魔法が繰り出され、それぞれが別々の黒服に突き刺さる。

 「ぬうん!」
 黒服の弾幕が途切れた瞬間、惇が『轟雷閃』を放った。
 轟雷が紫電を散らし、黒服達を感電させる。

 「ちっ!」
 ジョージが慌てて席を立つが、メシエの『魔王の目』がそれを許さない。
「……座っていたまえ」
「っ!」
 メシエの鋭い眼光にジョージは体が動かすことが出来ない。
「貴様もだ。弁護士」
 ジョージの隣に控えていた弁護士を睨みつける。
「エース」
 隣に立つエースをちらりと見ると、
「分かってるよ」
 『エバーグリーン』で蔦を操作し、ジョージをソファーに縛り付ける。
 黒服達も同様だ。縛って、脇の方へ押さえておく。

 「さて、ジョージさん。言った筈です、楽しみにしていると」
「……」
 ソファーに縛り付けられたジョージをエースは見下ろした。
「貴方の手腕を楽しみにしていたのですがね」
「それが……これか?」
 呆れを通り越し、失望した表情でメシエはジョージを見た。
「貴様らに何が分かる?」

「分かりませんよ、何も……。ただ、貴方達二人と同時に話をしてみたかった」
「チズさん、当主は家に仕える全ての者の人生に責任を負う。君は仕えてくれる者の、亡くなるまでの人生を背負うだけの覚悟はあるのかい?」
「あります。それが私が継いだものですから」
「へえ、君は家に仕える者達を路頭に迷わさないようにと常に心を砕いているかい?君は何が出来る?
 執事達に甘えて全てを任せきりの当主では、受け継がれてきた遺産を食いつぶすだけで家を衰退させるだけの害悪でしか無い。
 百年の昔を振り返り、百年先まで繁栄を保てるよう、万事に対して采配するのが当主の務めだと俺は思っている」
「私は――」
「そこは私がお答え致します」
 ライスが間に割って入ってきた。
「お嬢様は前当主様の生前からイリスフィル家の資産の四分の一を運用されております。年6%の割合で資産を常に増やしておいでです。その金額はイリスフィル家を維持、発展させるのに十分な役割を果たしております。金額はここでは申し上げられませんが、必要であれば資料を準備致します」
「なるほど」
「そして――」
 ライスはジョージを見た。
「それはジョージ様の持つ資産の倍以上の物になっております」
「それは初耳だ」
 エースは感心したように見えた。

「だが、当主の問題が解決していない。当主は前当主の血に近い成人男性が基本的に後を継ぐ。順当にいけばジョージが次の当主で問題ない筈だ。
 貴族的慣例を無視してまでチズを後継ぎにというのなら、遺言等の前当主の意志表示が客観的に残されていないと今まで付き合って来た貴族達も納得がゆかないのではないかな」
 メシエが話を切り出した。
「そう、そして――ジョージ。あの事を話して貰えるのかな?」
 エースはジョージに話を振る。
「……良いだろう。だが、これを取ってもらおうか?後継者が無様な格好では示しがつかん」
「分かりました」
 エースは『エバーグリーン』を解除した。ジョージを縛っていた蔦が、身体から離れていく。
「ちっ」
 メシエは舌打ちをしていた。
「ちょっと、何してんだよ」
 カルが抗議するが、エースは意に介さない。
「エースさん?」
「申し訳ないね。チズさん、まだ判定は終わっていないんだ」