なし

リアクション

　ＤＮＡを書き換える魔導書、レイゲノム。
　そのレプリカを入手した神崎　荒神（かんざき・こうじん）らは、さらなる研究をつづけていた。
　しかし、彼らの研究もここにきて行き詰まりをみせる。レプリカではどうしても後一歩が足りない。
　レイゲノムの研究を進めるために、荒神は魔導書によって生み出されたというレイトウモロコシの捕獲に赴く。こいつを調べれば新たな発見があるかもしれないという、期待を込めて。
　幸いレイトウモロコシの戦闘力は低く、他の契約者によってすでに殲滅されている。荒神は零の顔をした粒を掴み上げると、試しにアルベール・ハールマン（あるべーる・はーるまん）に食わせてみることにした。
　ただでさえ遺伝子組み換えな上に、レイゲノムによって異形化されるという、二重にＤＮＡをいじられたかわいそうなトウモロコシ。食べても大丈夫なのか定かではないが、荒神にはさして懸念がなかった。――どうにかなるだろ。アルのことだし。
「おや……」
　零の頭にかじりつくアルベールが、意味深長な声を上げた。すぐに荒神が問いかける。
「アル、どうした？」
「なるほど……。これは……」
「何かわかったのか！？」
　期待をふくらませる荒神に、アルベールはしれっと答えた。
「……とても美味しゅうございます」
「おい」
　荒神は思わずツッコミをいれる。
　やはり食べてみただけでは、レイゲノムに関する情報は得られなかったようだ。
　アルベールはなおも、零の顔をしたトウモロコシを食べつづける。
「部位によって味が違います。眼球は甘く、鼻は苦味があり、唇には独特の香ばしさが……」
「いちいち説明しなくていいぞ」
「これほどまでに美味な食材。捨ててしまうのはもったいないのうございますね」
「いや、どう見たって体に悪いだろ。普通の人間には食えねーよ」
「いえいえ。人体にも無害でございますよ」
　なんと、レイトウモロコシは食べても大丈夫のようである。
　それを聞いた荒神は、さっそく他の契約者たちにその旨を伝えることにした。

　荒神が向かった先では。
「なんという生命の冒涜なんだ。土に還してやるのが、せめての供養かもな……」
　と、酒杜陽一がレイトウモロコシに祈りを捧げており、
「――くだらないというのは判ってる。だがそれでも、馬鈴薯と唐黍と玉葱と夕張メロンとハスカップを粗末に扱う奴はどうしても許せんのだっ！！」
　風森巽が、道産子魂を炸裂させて悔し涙を浮かべていた。

　倒されたレイトウモロコシを土に埋めようとする二人へ、荒神が告げる。
「食えるみたいだぞ、これ」
「本当か？」
「ああ。見た目はあれだが、美味い上に害もないらしい」
　これは朗報とばかりに、さっそく契約者たちはいろんな調理法を試しはじめた。

　そこへ、ローザマリアからレイトウモロコシ殲滅の知らせを受けたハイナが、様子を見にやってくる。太陽がおっぱい作戦から抜けてきた彼女だったが、いちおう上着を羽織っていた。
　バラバラのレイトウモロコシを見ながらハイナは言う。
「こいつが食品になるとすれば、葦原の財政に役立つでありんす」
　とはいえ、とても一度にさばける量ではなかった。
　なにか良い調理法はなにかと思案するハイナに、エレナ・リューリクが近づく。
「ハイナさん。フリーズドライ製法ってご存じですか？」
「うむ」
「わたくしの【ホワイトアウト】と【氷術】で、レイトウモロコシを凍らせておきました。これで長期保存が効くはずです」
「なるほど！」
「缶詰にして売り出せば、損失を補填できる筈ですわ」
「それはいいアイディアでありんす！　まさに、これが本当の冷凍もろこしでありんすな！　ひゃひゃひゃ！」
　ハイナは駄洒落を言って、ひとりでウケていた。