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Exhibition Match!!

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【唯斗 対 アレク】


「アーレークー! 遊ぼうぜー!」
 なんて軽いノリできた割、いざフィールドに立つと紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は真剣そのものだった。
(ま、偶には全力でぶつかんのも悪くねぇ、今の俺を試すにゃ丁度良い)
 対峙するアレクに向かって、唯斗は言う。
「本気で来いよ?」と。
 これは相手を舐めているからの発言では無い。アレクの強さは唯斗も知っている。
 だから最初から全開で挑まねば、速攻でやられてしまうだろうと考えて、開始直後に――アレクが刀を抜くよりも早く、『縮界』という忍術を使用した。
 これは唯斗の持てる技術の全てを駆使して体得した、いわば究極の忍術である。
(秒を刻み刹那を割き阿頼耶を分け那由多を振り切る
 即ち涅槃寂静の極致なり)
 唯斗の『縮界』の速さは名の通りまるで世界を縮めたような――常人からは知覚不能の領域であった。
(と、まぁ俺の奥の手な訳なんだけど。
 アレクの奴、この速度に割り込んで来そうで油断できねぇ)
 此方こそ速攻で決めるのだと、唯斗は刹那の間に分身を作り出した。
 四体の分身と一体の実体。
 五人の唯斗がアレクを襲う。
 顎を狙い左右から強い連打撃を加え、脳まで揺らしてしまおうという考えだった。勿論常人ならば気絶どころか死んでしまうが、アレクだったら大丈夫だろうと踏んだのだ。
 唯斗の此の考えはある意味正解で、外れだった。
 アレクは左右からきた分身の腕を両手で掴み、ぐんと下へ引っ張っぱる勢いで分身と分身をぶつけてしまったのだ。
 そしてそのまま跳ねあがるような勢いで、腕を二体の分身のこめかみ辺りに連続で当てて行く。
 それこそ死んでしまうような攻撃だったが、アレクの方はアレクの方で分身だったら大丈夫……じゃないかな?まあいっか位の考えだった。
 さて四体の分身が霧散した事で、実体の唯斗は抜刀しようとするが、超近距離まで接近していた為、柄頭を掌で抑えられた。
 抜けない――!
 と思う躊躇いのような感情が最後、掴まれた頭が無理矢理下を向かされ、膝の間でプレスされた。
「早過ぎて分かんないんだよこの早××野郎!!」
 トゥリン・ユンサル(とぅりん・ゆんさる)の過激なヤジを聞きながら、唯斗の意識は落ちた。
 後に目を覚ました唯斗は、分身を使って高速で攻撃が出来るのなら、波状攻撃や遠距離からの攻撃をするべきではとヤンに薦められるのだった。



【リカイン 対 ハインツ】

 
 ハインリヒとの対戦において、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は「手加減無用」と宣言したが、別の思いもそこに介在していた。
 リカインが好奇心を持っているのは、まともな状態のハインリヒが戦うところを見たいという望みだ。手加減無用とすればそれを見る事は叶うが、果たしてそれでリカインが瞬殺されてしまえば、矢張り意味は無い。
「ジレンマね…………。
 しょうがないわ」
 こうしてリカインは開始直後、万が一の自体に備え予防措置を取ったのである。
 まあ、本気のハインリヒのスピードはとんでもなかった為、速攻でこの一回を使い果たしてしまったが、それでも「首尾よく凌げた」と言ったところだろうか。
(それじゃあ次は私の歌を聞いて貰うわ――!)
 リカインはその歌を通して、強烈に感情を表現する。
 彼女が頭の中に描いているのは、――何故か――ハインリヒに感謝の意を表すアレクだったが、この想像している思いはハインリヒに届いているだろうか。
 この歌を聞いた者は魂を揺さぶられ、力が湧いてくるのだが、リカインはそれでハインリヒがやる気を出し過ぎて長期戦になった時にガス欠になってくれればいいと考えて居た。
 だが、この時間が無駄だった。
 此の歌を歌っている間に、リカインの手は空いてしまう。手加減をしないつもりのハインリヒは、当然そこに突っ込んできた。
 歌による攻撃と銃撃、次いで身体ごと飛び込んできた時には、リカインはもう昏倒していたのだった。



 五回戦目が終了したところで、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は沁み沁みとこう呟いた。
「……皆酷ぇもの好きだよな。
 俺だったらこんな化け物脳筋連中相手になんざしたくねぇ」
「えぇっ? なんでなんで? ベルクだって強いじゃない!」
 ジゼルが本当に驚いた顔で言うのに、ベルクは素直にそれを否定する。
「先読みかつ一番詠唱が短い術駆使してても……早々死にはしねぇが重症に陥る自信はあるぞ」
「重傷…………?
 そうかなぁ?」
「ああ、特にアレクやハインツな。
 アイツら俺が挑んだ日には絶対嬉々として殺りにくるだろ」
「そんな事無――」
 ベルクのぼやきを否定しようとしたジゼルは、言葉を途中で飲み込んだ。
 爛々と輝く四つの瞳が、此方を注視している事に気がついたからだ。彼等が狙いをつけているのは、ベルクで間違い無い。
「アレクもハインツも、ベルクとやりたがってるみたい。
 そっか。ベルクみたいなタイプって、プラヴダには少ないものね」
「やるというか殺るというか…………」
「あなた、ここで私と座っていた方がいいわ。きっと…………」
「何にせよ俺は大人しく回復役に専念させて貰うぜ」
 ベルクが何時ものように、胃を抑えながらジゼルに答えた。
 間もなく次の試合が開始になる――。