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Exhibition Match!!

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【壮太 対 スヴェ】


「いいこと壮太、ミロシェヴィッチ家次男として恥じぬ戦いをしなさい。
 負けたら承知しなくてよ!?」
 ミリツァ・ミロシェヴィッチ(みりつぁ・みろしぇゔぃっち)瀬島 壮太(せじま・そうた)の両手を握りそう言ったのに、アレクは首を傾げて対戦相手を見ていた。
 壮太が戦うのは、スヴェトラーナなのだ。
「ツェツァが負けたら同じ事じゃないか?」
「あら、ツェツァは女よお兄ちゃん。その事を忘れているのではなくて?」
「忘れてました。素で」
 兄の言葉に呆れて、妹が息を吐き出して首を横に振りながら先に見学席へ戻ってしまう。
「まあ俺はどっちが勝ってもいいから。頑張れ」
 ぱんぱんと強すぎるくらいの力で背中を叩いて、アレクもミリツァの後ろをついていく。
 と、スヴェトラーナに声を掛けたジゼルが、此方にもやってきた。
「勝ったらピザ作るね!」
「ピザ? なんで?」
「あれ? ニンジャっていうのは皆ピザが好きなんだって、お兄ちゃん、言ってたの。
 壮太は違うの?」
 良く分からない事を言ってジゼルが席へ戻って行く。と、ぱたぱたした足音に混じって、トゥリンの声が聞こえてきた。
「アタシのパートナーでしょ、あんなヒョロいのに負けたら許さない。
 ボッコボコにして」
 不吉な言葉はやけに耳に残るものだ。向こうのセコンドは強力――というか凶悪だったが、壮太も出来る限りはやるつもりだと、席へ腰を下ろしたミリツァ達へ手を振った。

「戦いに関係ないけどオレがおにーちゃんの弟なら、スヴェトラーナはオレの姪っ子(仮)になんのかなあ?」
 本当に戦いに関係無い言葉が第一声で出てきたので、スヴェトラーナは思わず動きを止めそうになった。
「ええっと……そうですね。
 壮太さんは年上ですし、それでも全く構いませんけど、私の感覚で言うとお兄ちゃん的な感じもするんですが…………」
 喋りながらも二人は戦いを止めた訳では無い。
 今もスヴェトラーナがダガーをいなし、もう片方の刃で突いてきたところを、壮太が紙一重で避けたところだ。
「兎に角家族内でのポジションはどうあれ。私壮太さんの事、大好きですよ」
 にこっと笑ったスヴェトラーナの言葉に、壮太じゃなく、見学席に居たウルディカが攻撃を喰らってしまったような顔をしている。
「あ、そういえばおまえ柏餅って食ったことある?」
「無いですね。
 モチというからには、美味しいんでしょうが」
「そ。
 日本じゃ五月五日に子供の日ってのがあってさあ、歯ごたえのある白い餅の中にあんこがたっぷり入ってて、それを柏っつー葉っぱでくるんである和菓子なんだけど。
 あれがまた香りが良くてうまくてなあ――」
「ふぁあ〜……思わず想像しちゃいますねぇ、涎が出そうですよぉ」
「じゃあ食ってみる?」
 と、壮太は突然ポケットから本当に柏餅を取り出し、スヴェトラーナに向かってぽーんと投げたのだ。
「――わ!」
 スヴェトラーナは驚いた声を上げたが、即座に反応して駆け寄り、宙空でぱくりとキャッチする。
 ――やっぱりな。と、壮太は思った。スヴェトラーナの反射神経ならば、落ちてきた食い物を口でキャッチするくらい簡単に出来ると踏んでいたのだ。先程の取り留めの無い会話も、手数で勝てる気のしない彼が考えた口数で攻める方法で、この柏餅キャッチも作戦の一つだ。
 スヴェトラーナがジャンプしている隙に横をすり抜け後ろに回った壮太は、首に手刀の一撃を喰らわせ勝利を得ようと考えた。
 が、此処で番狂わせが起こった。
 柏餅を一口で飲み込んだスヴェトラーナは、その場で急にしゃがみ込んだのだ。
 そして「まだある筈!」と壮太のポケットを弄り、二つ目の柏餅を見つけて徐に立ち上がったのである。

 ――がつん。

 見学席にも、本当に音が聞こえたようだった。
 スヴェトラーナの頭と壮太の顎がぶつかってしまったのだ。
 地面でのたうち悶える二人を見下ろして、ヤンが言ったのは一言だけだ。
「食べ物で遊ぶな!!」



【歌菜 対 ハインツ】


「ハインリヒさん、この間殴った傷は平気ですか?
 思いっ切り殴っちゃってごめんなさい!」
 勢いよく頭を下げる遠野 歌菜(とおの・かな)に、ハインリヒはバツの悪そうな表情を浮かべた。何時もなら上手に微笑んでみせるのに、空京での事件については取り繕う事が難しいらしい。
「あれは僕も…………、否、僕が悪かったんだ。あんな大事なる前に、周囲を信頼して相談するべきだったんだ。
 だから歌菜さんの所為じゃないよ。それに止めてくれて嬉しかった」
 殴られた所為か、無意識に対当に接しようとしているらしく、ハインリヒは言葉も砕けている。
「そうですか、良かったです!
 私ああいう時、アレクさんならどうするかな〜って考えて、きっとこうするって思ったんです。
 そう思ったら、自然に身体が動いちゃいました」
「はは、どうだろ。
 まあ確かに、アレクなら実力行使に出たかもね」
「決して、昨年の大晦日での暴走戦車が怖かった事に関しての抗議だけじゃありませんから!」
 先日殴られた時と同じで、他意が大いに含まれた感のある発言に、ハインリヒは微笑む間を置いて口を開く。
「……一応言うけど、あれ運転してたのツライッツだからね。指示してたのは僕だけど。
 一応彼の代わりに弁解しておくと、
 「ちょっと調子に乗ってスピード出しすぎました。
 必要以上に怖がらせてしまったかもしれない点については、申し訳ないと思ってます……」って後で言ってた」
 弁解はしたが、轢けと命令すればツライッツはその通りにするのだと言う部分については、口を噤んだ。それが嬉しくて調子に乗って過激な命令――轢けとか、轢けとか――をした事が芋づる式にバレるからだ。
「いえいえこちらこそ!
 でも……、ハインリヒさんが無事で、本当に良かったです」
「あはは、ありがとう」
「こうして勝負出来なんて、ワクワクしちゃいますっ」
「…………あのさ、歌菜さん。僕なんだか自信無くなってきたんだけど、本当に君のその笑顔と言葉、真っ直ぐ貰っていいのかな?」
「はい、勿論☆」
 青い瞳は一切の濁り無くきらきらとしているし、言葉も心からという声音だが、どうも他意が含まれているような気がしてならない。
 だが彼女がそう言っているのだから、ハインリヒはそう受け取るしか無かった。

「よし、じゃあ、尋常に勝負です!」
 歌菜は『アルティメットフォーム』――所謂究極変身形態の『魔法少女アイドル マジカル☆カナ』に変身する。
(一度、思いっ切りやってみたかったんです!)
 歌菜が意気込んでいる時、見学席でアレクが立ち上がった。
「今よルカスちゃん、変身よ! 魔法少年☆ルカスマギ――」「Schweig!(*黙れ!)」
「…………残念、あっちは変身してくれないみたいだな」
 アレクが舌打ちするのにその隣のジゼルが笑いながら月崎 羽純(つきざき・はすみ)の方へひょこっと顔を出してくる。
「私、羽純が出ると思ってたわ」
「そうか?
 歌菜はああ見えて……強い相手と戦うのにワクワクするタイプなんだよな。
 今回も話を聞いて直ぐに参加するって決めて、アレクとハインリヒとどっちと戦うか悩んでいたようだが、
魔法少女として、ハインリヒと戦ってみたかったらしい」
「じゃあ尚の事変身しなきゃ駄目じゃないか。
 ハインツ、そのままじゃ全力の歌菜に失礼だよ、お前もやれって」
 さっきは冗談半分だったが、今度のアレクは本気である。妙に義理堅いところがあるらしいアレクに言われ、言葉を詰まらせたハインリヒはツカツカ早足でニコライの方へ向かい、何かやり取りして戻ってくる。
「ええっと……終わったら三秒以内に忘れて下さい」
 先程のあれは撮影を止めさせたのだろう。ちらっとだけ見学席の方を見て皆へ声を掛けると、覚悟を決めたように歌菜へ向き直り彼女のやり方に習う。
 果たして光りが瞬く間に変身を遂げた24歳男性に皆が声を上げようとした瞬間「何も言わないでくれ」というように真剣な――やや泣きそうな顔が見えたので、見学席は静かになった。
「歌菜、全力で行って来い!
 俺はここで応援してるから」
 羽純さえも此の言葉の後に、静かに戦いの様子を見守った。

 開始直後、歌菜はワールドメーカーの創作の集大成と言われる攻撃を発動させた。
 彼女の歌が無数の槍となりハインリヒに降り注ぐと、ハインリヒの方も全く同じやり方で応戦した。
 間合いには踏み込ませまいと、歌菜は自らも槍を掴み投擲する。
 槍を避けながら歌菜を追い掛けるハインリヒは、周囲に生み出したスヴァローグに似た騎兵銃で歌菜を狙い続けた。
 歌と歌がぶつかり合い、激しい発砲音が響く度、歌菜の槍が軌道を逸れて落ちながら霧散して行く。
 二人は実際に空を飛ぶ魔法は使用していないが、殆ど飛んでいるのと変わらない様な、重力を無視した最早何が起こっているのか分からないワールドメーカー同士の応酬を見て、羽純は思わず拳を握りしめていた。
 そんな時、戦いの方でも一つの区切りがあった。
「君も中々だと思うけど――、僕の本気のスピードについてこれるかな?」
 歌を止め、クッと笑いながらハインリヒが放った挑発に、歌菜も不敵に微笑んで返し背中から一対の光りの翼を顕現させた。
 直後に二人は再び動き出す。
 見学者の殆どが本当に見えないスピードで動いたハインリヒに、歌菜は――ついていけます!と挑む様に彼の間合いに飛び込んだ。
 両手に持った槍でハインリヒを目掛け全力の突きを繰り出した歌菜は、ハインリヒがニッと笑った事に気がついた。
 突きの怖いところは、先程かつみがヤンに指摘された通り、一度外してももう一度立て直しが可能なところだが、二槍の場合どうしても軌道は単純になりがちな上、回転させて二の手を繰り出す事が出来なくなってしまう。
 つまりこれはリスクを無視した必殺の一手だったが、ハインリヒの方はそれを読んでいた。否、挑発し導いていたのだ。
 歌菜の槍の柄を穂先に触れるのも構わず掴み、持ち上げて勢い叩き付ける。
 そして地面に崩れた歌菜の額に、銃口が突きつけられた。
 
 歌菜とハインリヒが握手で互いの健闘を称え終わると、羽純は二人の治療を始めた。
「お疲れさま、良いバトルだったな。
 俺も少し戦ってみたくなった」
「良かったらまた今度――」
 言いかけたハインリヒが、バッと勢い良く振り返る。
 丁度彼等の斜め後方では、アレクが端末を下ろしたところで、「えーとZ……Z……Zoereiz」と電話帳を検索するのにハインリヒが慌てて駆け寄るが、彼のスピードを以てしても辿り着いた時には既にアレクが送信ボタンを押した後だった。
「もう送っちゃった★」
 斯くしてワールドメーカー同士の対決は、ハインリヒがアレクの顔面をぶん殴るという場外乱闘で幕を閉じたのである。