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空京に遊びに行こう


「エレノア、もうすぐ夏本番ね」
 蒼空学園の学食で、氷の沢山浮かぶコップの水を置いて、布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)はパートナーのエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)に話しかけた。その口調は弾んでいる。
 エレノアは頷く。二人ともとっくにタンスの衣替えを済ませ、道を行く人も半袖やノースリーブ、ショートパンツに変わっている。
 そして彼女は、続きを待った。佳奈子が何か言いたくて仕方なさそうだったからだ。
「夏休み前だし、ワクワクするね」
「どこかに遊びに行く?」
 早期割引や期間限定の割引クーポン、夏休み料金に土日の割り増し、予約の埋まり具合……、苦学生の佳奈子には色々と調べて、考えることがある。いかにお得に過ごせるか。
 エレノアもそれに付き合おうと先んじて携帯を取り出したが、
「うん、せっかくの夏なんだからプールとか海とか一度は行きたいよね! でね、エレノア、これ見て」
 佳奈子が逆に自分の携帯のエレノアに見せる。空京のデパートのサマーセールのお知らせがポップな文字で画面を踊っていた。
「前の古くなったしそろそろ水着を新調しようかな……って思って。明日も朝から晴れるって!」
 嬉しそうな佳奈子の顔に、エレノアも快く頷くのだった。


 夏休みも目前の土曜日、その日は朝からからっと晴れたいい天気だった。
 佳奈子はTシャツにショーパン姿の身軽な姿で、エレノアはふわりとしたワンピース。制服のままショッピングもいいけれど、着替えると遊ぶぞー、という気合が入るね――と佳奈子は言った。
「バイト代が結構貯まってきたし、水着だけじゃなくて、夏の服とか買いたいな。エレノアも見る?」
「ええ。……あ、季節柄水着の売り出し中みたいね」
 エスカレーターで婦人服の売り場に上がっていくと、鮮やかな色がぱっと目の前に広がった。
 普段着にはあまり使わなれない派手な色柄が洪水のように押し寄せて、まるでここだけ南の島だ。丁度良い具合に、人工の島に立つ小麦色の肌をした水着美女――のマネキンたちがバッグや小物と一緒にディスプレイされている。
「先に水着見よっか?」
 佳奈子は言うなり、その真夏色した布の海に飛び込んだ。
「どれがいいかなぁ、水色とか淡いピンクとか黒とか、カラフルな水着がいっぱいあるよ。
 トロピカルなものとか、無地とか、フリルのついてるのとか、ビキニとかワンピースとか、セットのとか……」
 同じような考えで来たのだろう、若い女の子のお客さんたちの間を潜りながら、佳奈子はきょろきょろあたりを見回した。
「さすがに夏休み前のデパートは、混んでるわね」
 佳奈子とはぐれないよう、エレノアが付いて行きながら言うと、自分だけ買い物するのが悪いと思ったのか、
「エレノアは水着は選ばないの? セクシーなビキニとか? 黒の水着とか大人っぽいよね。……あ、色別のコーナーもあるね。あっちに行く?」
「……私の水着? 私は泳がないから、別に水着が欲しいわけじゃないけど……」
「そっか、そういえばエレノアは泳ぐの苦手なんだよね」
 苦手、というより、エレノアを見ていると水に入ること自体好きじゃないみたいだ。
 誘ったのは悪かったかなぁと思ったのが顔に出たのか、エレノアが微笑して、
「でもまあ…佳奈子がぜひって言うんだったら、海水浴やプールに行くこともあるでしょうし、買っておいてもいいのかもしれないわね」
「水に入れとは言わないから。……ビーチとかプールサイドでのんびり過ごすのなら、紫外線対策のできる格好がいいのかな? こっちにもいろいろあるよ」
 最近は日焼け対策と、足を出すのが恥ずかしい人も増えたのか、ラッシュガードやラッシュトレンカのコーナーもあった。
 長袖でだぶっとしたラッシュパーカーは、手の甲も隠れて首もしまるパーカー付きで、紫外線防止加工付き。焼けたくない、という美と健康へのこだわりを感じさせる。
「確かに紫外線対策は必要よね。私は水に入らないから、足も隠したいけど……佳奈子はビキニ着るの?」
「ううん。私は体型に自信あるわけないし、ワンピースでいいかな」
 佳奈子はパタパタと手を振った。ちらりと見る他の買い物客の女の子たちは、着たいものを選んでいる。きゃっきゃしながら布地の少ないものを手に取っている姿を、大胆だなー、と思ったりする。
「それにしても、同じ形でも色で結構違うね。スポーティなのとかセクシーなのとか……そうね、これなんかどうかな?」
 佳奈子が手に取ったのは、ワンピースタイプの中でもピンクのフリル付きの可愛らしいデザインのものだった。
「カワイイわよ、似合うと思うわ」
「エレノアはどうするの?」
「そうね、私の水着は……この水色のはどう? パレオ付きでそんなに派手でもないし」
 エレノアがラックから取って見せたのは、薄い水色のビキニに、長いパレオが付いたタイプのもので、腰だけに巻いても、胸元まで巻いても綺麗に見えるデザインのものだった。
「うん、いいと思うよ。エレノアの髪や目によく似合ってる」
「ありがと。……あと、サンオイルとか、ビーチパラソルとか、大きめのタオルとか準備しないとね」
「うん!」
 佳奈子は笑顔で頷くと、今度はサングラスをかけてみたり、つばの広い帽子をエレノアに被せてみたりした。
「日焼けしたいならサンオイルでしょ、エレノアは日焼け止めかな……これ水で落ちちゃうと思う? あっ、見てエレノア、あのフロート可愛いわよ。ウミガメ!」
 ビニール製の浮き輪が並ぶコーナーであれこれ眺め、気が付いたように顔を上げ。
「……そうだ、ビーチバレーなら水に入らなくても遊べるわ。何がいい? やっぱり基本はスイカかしら」
 値札を真剣に見比べる佳奈子の横顔は、とっても楽しそうだった。
 新しいタオルや小物やプールバッグや、色々と買い込んで。
 お昼ごはんで一休みして。どこに行こう、と話して。
 それから夏服をお互いにこれが似合うとか似合わないとか言ってはしゃいで。お揃いのアクセサリーを買って。
 日が暮れるまで、たっぷり二人で。
 ――うん、ショッピング楽しい!
 やっぱり女の子な佳奈子とエレノアだった。