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2024夏のSSシナリオ

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2024夏のSSシナリオ

リアクション

【西暦202X年】

「はー……」

 レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)はこの所、ため息ばかり吐いていた。
 パラミタ世界に置ける諸々の騒動も一段落して、運営していた『目黒プライベ パラミタ支部』も解散。
 未来から来た娘もひとまず元の時間に帰り、ようやく念願の、愛する家族と水入らずの時間が過ごせるようになって、早数ヶ月。

「はー……。ヒマですねぇ……」

 夢にまで見た穏やかな時間だったが、それは同時に、生来のお祭り好きであるレティシアにとっては、予想以上に退屈で苦痛に満ちた時間だったのだ。

「やっぱり、あちきに専業主婦なんてのはムリだったんですかねぇ……」

 やりかけの晩御飯の支度をそのままに、カウチポテトしながらボーッとテレビを眺めるレティシア。
 特に観たい番組がある訳でもなく、次々とチャンネルを変えていく。
 ふとその目が、あるコマーシャルの上に止まった。

「――現在四州(ししゅう)共和国連邦では、国土の再建にご協力頂ける方を、募集しています」
「国土の再建、ねぇ……」

 リモコンの手を止めて、じっとコマーシャルに見入るレティシア。

「先年マホロバ幕府から独立し、共和国連邦となった我が四州島は、内戦や災害からの復旧復興と、国内インフラや国家制度の近代化を推し進めており、専門的な知識と経験を持った人材を広く募集しています――」
「ふーん……」

 パリッ、と音を立ててポテチが割れる。

「『アナタも、四州島で暮らしてみませんか?手付かずの大自然と美しい里山の景色、そしてどこか懐かしい人情味あふれる人達が、アナタを待っています!』四州共和国連邦では、四州島への移住者を募集しています!各共和国政府では、移住者の生活を支援する政策を数多く実施しており――」
「うわー、キレイですねぇ……」

 ドラマの中でしか見たことの無いような、江戸時代の日本そのままの町並み。
 素朴で人懐っこく、笑顔あふれる人々。
 息を呑む程美しい、雪山や湖の絶景。

 レティシアはいつしか、コマーシャルに釘付けになっていた。


「『四州プライベ 広城(こうじょう)本部』か。ちょっとカッコいいね〜、お役所みたい」

 ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)は、ぷ厚いヒノキの一枚板に、墨跡も鮮やかに書かれた看板に、至極満足そうに頷いた。
『四州プライベ』という名はもちろん、かつての目黒プライベにあやかってつけた名である。

「それはそうですねぇ。なんてったって、旧藩主様自ら筆を執られた逸品なんですからねぇ!」

 腰に手を当てて、威張るレティシア。

『自分の手で、一から国を作ってみたい』という誘惑に勝てなかったレティシアは、パートナーのミスティや家族を引き連れて、四州島へとやって来たのである。

「でもさ、ここでナニするの、レティシア?」
「ん〜。まずは手始めに塾でも開いて、子供に勉強でも教えますかねぇ。後はご近所の便利屋でもしながら2、3年過ごせば、何かあちき達に出来るコトが見つかるんじゃないですかねぇ」
「そっか〜。まずは塾かぁ〜」
「ヨロシク頼みますねぇ、ミスティせんせぃ!」
「え!ワタシ先生!?」
「当たり前ですねぇ。昔の仲間にも声をかけてるけど、全然人出が足らないんですねぇ」
「な、ナニ教えよう――……」

 思わず頭を抱えるミスティ。

「ゆっくり考えればいいですねぇ」

 対するレティシアは、あくまで鷹揚に構えている。

(アレだけ過酷な日々をくぐり抜けて来たんですから、必ず何とかなりますねぇ――)

 目黒プライベで過ごした、懐かしい日々。
 その日々が与えてくれた自信を胸に、レティシアは、新たな一歩を踏み出したのだった。
 そして、数十年の時が過ぎ――。



【西暦 20XX年】
 

「お帰り、お母さん。空京支部の支部長さんが来てるよ」

 いつの間にか未来人から現代人になった娘が、帰宅したレティシアを迎える。
 今では彼女も、2人の子を持つお母さんだ。

「止めてよ、そんな支部長さんだなんて〜。いつも通り『ミスティ』でいいわよ」
「あらいらっしゃい、ミスティ。早いですねぇ」
「会議が予定より早く終わったのよ。あなたこそお疲れ様、レティシア」

 その後、四州プライベは少しずつだが着実に規模を拡大し、ついに今年、島を飛び出して空京に支部を構えるまでになった。ミスティは、その支部長になったのである。
 去年ようやく末の娘が結婚し、肩の荷が下りたミスティが、自ら支部長を買って出たのだ。
 あれやこれやと手を出すウチに、四州プライベも、有力な出資者を多数抱え、各種の慈善事業を手がける財団法人へと、大きく成長した。
 レティシアの思いつきは、大成功だったのである。

「いや〜。やっとウチも、空京進出ですねぇ。ここまで、長かったような、短かったような……」
「突然レティシアが『四州島に行く!』って言い出してから、もう数十年ですか……」

 向い合ってお茶を飲み、語り合う二人。 
 自然と、遠い目になる。

「レティばーちゃん、ミスティばーちゃん、遊んで!」
「あそんで〜!」
「はいはい。二人とも、おいでおいで〜」
「ナニして遊びますねぇ?」

 突然の孫の襲来を、満面の笑顔で迎えるレティシアとミスティ。
 事業は成功、家庭は円満。
 彼女達は今、この上も無く幸せだった。