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2024夏のSSシナリオ

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2024夏のSSシナリオ

リアクション

【西暦 2024年】

「山平ぁぁぁっっ!!??」

 バァーン!と、研究室のドアを勢い良く開け放った風森 巽(かぜもり・たつみ)は、ズカズカと大股で部屋を突っ切ると、研究室の一番奥に陣取る、所長の山平(やまひら)の机に、ドンッ!と手を突いた。
 その顔は怒りで真っ赤になり、額には青筋が浮かんでいる。
 
「てめぇ、いい加減にしろよ!!」

 物凄い形相で、山平を睨みつける巽。

「コレはコレは風森さん。早速のお運び、痛み入ります」

 しかし山平には、巽の怒りなど全く意に介した風も無い。

「それで『いい加減にしろ』とは、一体何のコトですか?」
「『何のコト』じゃねぇ!」

 山平の態度に、一層怒りを募らせる山平。

「校長帝国から始まって、変身ベルト『十二星華の森』だの、変身銃『宇宙大ニルヴァーナ』だの、変身デカ手帳『宇宙犯罪組織マホロバ』だの!!挙句の果てには、変身スパーク『大ゆる族バトル』じゃねぇか!!」
「よく覚えておいでで。流石は風森さん」

 ニンマリと、満足の笑みを浮かべる山平。
 自分の発明品の名前を、風森が一言一句間違えずに言えたコトが、余程嬉しかったらしい。

「悦に入ってるんじゃねぇ!!お前が何かしら変身ガジェットを作ると、毎回必ず悪人の手に渡るのは、一体どういうコトだ!!」
「それについては、大変申し訳無く思っています。我々としても、セキュリティには万全を期してはいるのですが――」
「嘘つけっ!!お前、ワザとテロリストどもにガジェット流して、データ収集してるんだろ!?」
「……何か、証拠でも?」
「い、いや……。証拠がある訳じゃ無いが――」

 痛いトコロを突かれて、言い澱む巽。
 証拠を掴みたいのは山々なのだが、毎回毎回つい張り切りすぎて、テロリスト達をアジトもろとも跡形も無く消滅させてしまうため、証拠の手に入れようがないのだ。

(オレにも、オレが戦っている間に敵のアジトに潜入して調査を行ってくれる、美人だったり可愛かったりする相棒がいれば――)

 などと常々思ってはいるだが、無い物は仕方が無い。

「と、とにかくだ!」

 風向きが悪くなって来たのを、勢いで誤魔化そうとする巽。

「普通、新兵器とかが盗まれるのは悪の組織で、盗んでくのは主人公側だろ?新番組の初回的に!?」
「それは、仰る通りです」
「だろ!?お前もそう思うだろ!!」

 山平の返事に気を良くした巽は、ココぞとばかりに畳み掛ける。

「もうこの際だから、異世界を渡り歩く通りすがりの旅人ヒーロー呼び出して、パクリの世界呼ばわりされて一触即発だった所から、『確かにこいつらは偽者かもしれない。だが、それでも心は、人々を守りたいというその魂は本物だ!!』的な展開を経て、オールヒーローズがドーンと勢揃いする様な事態を巻き起こせよ、畜生!!」

 一息にまくし立てる巽。
 その視線を真正面から受け止める山平。
 その顔に、不敵な笑みが浮かんだ。

「成る程……、面白い。その企画、ガジェットシリーズ開発10週年記念特番として、検討しておきましょう」
「ほ、本当か!?よろしく頼むぞ!!」

 予想以上の好感触に、喜ぶ巽。

「それで、今回のお呼びした件ですが」
「お、おう」

 巽の機嫌が治ったのを見逃さす、すかさず話題をすり替える山平。
 この辺り、すっかり巽の扱い方を心得ている山平である。

「これを見て下さい」

 山平は机の上に、一つのケータイを置いた。
 よく見るとそのケータイは、ハートや花の模様でデコレーションされ、パステルカラーで統一された非常に可愛らしいモノだ。

「――おい。コレ、もしかして……」

 思わず息を呑む巽。

「そう。『可愛くて癒される』アノ作品です」
「そう、じゃねー!そうじゃ!コレ、女の子向け作品じゃねーか!」
「『女の子向け変身ガジェットを作って欲しい』というスポンサーからのリクエストがありまして」
「むむ……。た、確かに、スポンサーの意向じゃしょうがねぇな」

 そう。スポンサーの意向は絶対なのである。

「しかしだからって、なんでオレがこんな格好――」
「おや、お嫌いですか?女装回数19回を誇る風森さんなら、必ずや喜んでくれるだろうと思っていたのですが」
「お、お前!ナゼそれを……」
「あなたは大切な協力者であると共に、重要な被験者でもありますからね。データは細大漏らさず収集済みです」
「くっ……。まさか、そこまで知られているとは……」
「お願いしますよ、風森さん。スポンサーから、『今年は記念すべき20週年だから、一日も早く商品化したい』と矢のような催促が来るんですよ」
「うーーーん……」
「全国の良い子のお友達が、この商品の実用化を心待ちにしてるんですよ、風森さん!」
「ようし、わかったぁ!良い子のお友達の夢と希望の為なら、この風森巽、男、いや女の子になろう!!」
「有難うございます、風森さん!アナタなら、必ずそう言ってくれると思っていました!!」

 山平は風森の手を取ると、その手に、変身ケータイをガシッ!と握らせた。

「くれぐれも、変身したテロリスト達の顔への攻撃は控えて下さい。保護者の方からのクレームが来ると困りますので」
「任せろ。その辺りのコトは心得てる。それより、女戦士同士の戦いはご法度なんじゃなかったのか?」
「ご安心下さい。テロリスト共には、各戦士のダークバージョンのガジェットを流してあります」
「鏡から出てくるアレか。流石は山平、抜かりは無いな」
「それはもう。それから、もう一つお願いが」
「なんだ?」
「各戦士の変身バンクのアクションとポーズ、それから名乗りを、完璧にマスターしておいて下さい。変身時にはガジェットから、変身バンク用の音楽と背景映像が投影されるようになってますので、完全再現が可能です」
「くっ……。歴代21作品の総勢75戦士の変身バンク、全部覚えてこいってか……」
「アナタなら、必ず出来ると信じています。風森さん」
「しかし……」
「全ては、良い子のお友達の夢と希望の為。そして何より、スポンサーの意向です」
「……わかったよ。良い子のお友達とスポンサーの為なら、しょうがねぇ」

 こうして風森は、変身ガジェット全75種を詰め込んだ風呂敷を背に、たった一人でテロリストのアジトへと向かった。

 彼の戦いは、山平の手配した撮影班によって全てが記録され、変身ガジェットの更なる機能向上に役立てられた他、巽が一切登場しないよう編集された映像が商品のCMやプロモーションビデオにも使用され、非常に好評を博した(巽の姿がカットされたのはもちろん、「変身しているのが男」という、女の子向け玩具としては非常に不都合な真実を、隠すためである)。
 また、この映像における変身バンクの再現率が余りに高かったため、「変身ガジェットの中の人がハンパない」と人気に火が着き、動画サイトには視聴者が殺到。更に「中の人はどうも男らしい」という内部情報まで流出して話題となり、視聴回数が累計100万回を突破。ネット民の間では、今でも語り草となっている。


 こうして、巽の努力と情熱は、伝説となった。
 巽自身が人々の賞賛を受けるコトは無かったが、彼にはそれで充分だった。
 それがヒーローの、そしてスーツアクターの宿命なのだから。