天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

2024夏のSSシナリオ

リアクション公開中!

2024夏のSSシナリオ

リアクション

 ツァンダの南方。
 そこにはそれなりに広い平原がある。これといった障害物も少なく、人通りも少ない。
 まさに今回のテストにはもってこいの場所であった。

 平原には若者が一人。
 しかしそれは、魔鎧を身にまとった人間であり、正確には二人いる。
 ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)は魔鎧のパートナー・藍華 信(あいか・しん)とともに、自分たちの新たな姿とその力を確かめるためにここに来た。
 そして平原には彼らの他に、従者の空賊がついて来ていた。
「これが俺たちの新しい姿か……。やっぱこういうの、テンション上がるな!」
 ハイコドは信を纏った自分の腕を、肩を、胸を、足をじっくり見回す。
「インナーが黒から白になってる。装甲もずいぶん増えてるけど……動きの邪魔にはならねえな」
「なんとなく新しい力が増えてるのが分かる。つってもまあ、やってみないことには良し悪しは分からねえな。というわけでハイコド、闘気を練るのと同じ感じで目の前に輪を出してみろ」
「わ?」
「いいからやってみろって。闘気を練る感じだ」
「闘気を練るって……こうか?」
 ハイコドが力を絞ってみると、目の前に人一人が悠に潜れるリングが現れた。
「お! なんか輪っかが出た! これのことか?」
「ああ、そうだ。潜れるか?」
 信は出現したリングについては、初見であった。だがしかし、それがどういうものなのかは理解していた。
「潜ればいいんだな? 分かっ……たぁ!?」
 身体を半分ほど潜った瞬間、劇的に加速。ハイコドの声がひっくり返り、視界のすべてが線だけになった。
 気が付けば地面に身体が激突。そのままごろごろと転がり、二十メートルほど進んで止まった。
「かかか! 面白いくらいに転がったな!」
「面白くねえよ! 先に言えよ!」
「このリングを潜ったら加速する、なんてパッと言われても理解しにくいだろ? 理解できてもどれくらい早くなってどうなるのかっていうのはやってみないと分からねえし」
「そりゃそうだけどさ」
「それに身体にダメージもないだろ?」
「確かに全然痛くねえけどビビるっつーの」
 よっと、とハイコドは立ち上がり、身体についた土を払った。
「ともあれ、あの輪を潜ったら加速するんだな。素直にこいつはすげえ」
「俺も輪、ブラストリングについては『潜れば加速する』ということしか知らねえから、色々試してみようぜ」
 よし、とハイコドは頷き、再びブラストリングを出した。
 そしておもむろに足元の石を一つ摘みあげると、ゴミをゴミ箱に放る要領で軽くリングに放ってみた。
「端から見るとどんな感じになるんだろうな」
 手の平ほどの石はリングを通ると強烈に加速。そのまま遠く離れた切り株に直撃した。
「おー。見たかハイコド。切り株にめり込んだぜ」
「おー。じゃねー! こいつは遊びで使うと大やけどするぞ!」
「ハイコド、このリング、掴めるか?」
「あ? 掴めるかったってお前……あ、掴めた」
 と、ハイコドの右手にはリングがひとつ。
「んん? ってことは、こういう使い方もできるのか?」
 と、ハイコドはリングをチャクラムよろしくぶん投げてみた。すると地面の草を一気に斬り飛ばし、先ほど石をめり込ませた切り株に深々と突き刺さった。
 色々検証してみた結果、リングはきちっとした質量を持った物質であり、振り回したり投げ飛ばしたりすることが可能のようだ。それだけでなく、加速する方向さえこちらで調整すれば、攻撃を明後日の方向に飛ばすことも可能のようだ。これを使えば自分を空に飛ばすことも可能だがホバリングができず、空中で方向を変えることは難しい事が分かった。
 事実、空賊に斜めから銃弾を打ち込ませてみたら、リングの面の方向に弾かれたのが分かった。あまりサイズが大きすぎると無理そうだが、応用次第では活躍間違いなしのスキルだと二人は確信する。ちなみにこのブラストリングは、信の意思でも出せることが分かった。二人一組でアシストし合いながらの立ち回りはまだまだ訓練がいるが、それでも戦力の大幅な上昇に二人は喜んだ。

■■■

「ほ、本当にいいんスね?」
「本当にいいっての! 銃弾にも耐えられるって信は言ってんだし、大丈夫だよ」
 ハイコドは空賊が構えた銃の前に右腕を差し出していた。新しい装甲の強度テストだ。
 さすがの空賊も信頼を置く人間相手に銃を撃つのは気が引けるようで、なかなかぶっ放してくれないが、やがて腹を決めたのか、引き金を引いた。
 銃声が轟くと同時、ハイコドの右腕が衝撃に押され、若干後ろにのけ反った。
「ん。俺は平気だぞ、ハイコド」
「俺もだ。棒で小突かれた感じだな。チャチな銃器なら大して効かないみたいだ」
「す、すげえ。マジで効いてねえ」
「よし、次だ。簡単でいいから魔法を撃ってみてくれ」
 了解、と空賊は小さめの火炎弾を少し離れた位置から撃ってみた。
「……やばい。ハイコド避けろ!」
「!」
 言われ、ハイコドは左腕の防御装甲を盾に構え、その場から飛び退く。火炎弾はハイコドの身体をスレスレで通り過ぎた。
「大丈夫か、信?」
「あ、ああ。平気だ。悪いな、いきなり叫んで」
「気にすんな。当たっちゃいねえが熱が肌に伝わってた。魔法的な攻撃にはこの機晶フィールドで防ぐか避けるかするしかないみたいだな」
 検証の結果、物理的な攻撃に関しては実に信頼できるが、火炎や吹雪のような攻撃には耐性は低いようだった。

■■■

「ぐ……」
 ハイコドは、超加速の衝撃に呻きながら地面を滑り、立ち止まった。
 リングを連続でどれだけ潜れるのか、という検証だ。何個でも連続で潜って問題がなければ、と思っていたが、やはり急加速は身体への負荷が大きく、五個潜った時点で身体の節々が悲鳴を上げた。どうやら負担は信にも掛かるようで、纏う鎧からは荒い息遣いが聞こえてくる。
「これ以上はやばいな。連続使用は俺も信もバラバラにしかねない」
「二個か三個で留めておくのが利口だな。効果が効果だから、やっぱリスクも大きいな」
 ふう、と二人は一息ついた。
「……と、そうこうしているうちに夕方だ。日が暮れはじめてら」
 確認したい項目も一通り見た。ふとハイコドが、周りを見回してみた。ツァンダの平原が赤い夕焼けに照らされて、景色を一変させていた。
「お。そうだ。せっかくだしコイツも使って飛んでみるか。きっといい景色だぜ」
 ハイコドが復習がてら、ブラストリングを出して、裳ノ黒を纏った。そのままリングを潜って空へと飛翔。
 上昇が最高到達点まで達すると、翼を広げてその場に留まった。
「へえ。いい眺めじゃん」
 信が感嘆の声を漏らす。
「どうよ、信。納得いく結果は得られた?」
「ああ。バッチリだ。付き合ってもらってありがとな」
 そして信は一息の間を置いて、もう一言。
「おつかれさん」
 シンプルな感謝の言葉に、ハイコドはへへっと嬉しそうに笑った。