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茶会

「……後は、来てもらってからお茶を淹れるだけですね」
 ゲームが始まる一時間ほど前。森のなかにセッティングした『茶会』の席を前に赤城 リュート(あかぎ・りゅーと)はそう確認する。
「来てもらえるといいんですが……」
 茶会の席を用意したものとしてもこれからのことを思うにしてもリュートは来てもらうことを祈る。
「大丈夫だったようですよ童」
 そんな心配をするリュートに茶会を提案した申 公豹(しん・こうひょう)はそう言う。申の視線の先には二人の男女が歩いてきていた。
「? でも申師匠。傭兵団に女の人っていたっけ? それに男の人も戦うような感じじゃないような……」
 赤城 花音(あかぎ・かのん)はそう疑問の声を上げる。花音たちがこの茶会へと招待したのは黄昏の陰影と呼ばれる傭兵団だ。穂波を掛けたゲームの勝負相手でもある。歩いてくる男女はその傭兵団の一員には見えない。
「おそらくは傭兵団の雇い主と…………最後の魔女と呼ばれる存在でしょう。魔女が来たのは予想外でしたが……傭兵たちがこないのは想定の範囲内です」
 そう申たちが話しているうちに男、藤崎陽と最後の魔女は茶会の席へとつく。
「本日はこのような席に招待いただき有り難うございます」
 流暢に挨拶をする陽に対して最後の魔女は特に話さず小さく笑っているだけだった。
「それで、今回はどのようなご用件で? 一応、あなた方と私達は敵同士のはずですが」
 リュートがお茶を淹れ終えてすぐに陽はそう話を切り出す。
「傭兵団が何故契約者を憎んでいるのか。そしてその傭兵団が協力するあなたの組織の目的はなにか。……その答え次第では私達にできることがあるのではないかと」
「なるほど。……そうですね。今更隠すこともありません。話しましょう」
 そう言って陽は話し始める。
「まず傭兵団があなた達契約者を憎む理由ですが、簡単に言うなら彼らは戦場で契約者にすべてを奪われたからですよ」
「全てって……仲間を殺されたりっていうこと?」
 花音はそう確認する。
「敵として出遭えばそうですね。ただ、それ自体は彼ら自身最初から覚悟していることです。問題は……」
「……味方として出会った場合……ですか」
 リュートは傭兵たちの気持ちを理解する。
「ええ。契約者の力はそうでない人の力と比べて大きく離れている。結果として彼らは……戦うことでしか自分を証明できなかった彼らは契約者に戦果を奪われ、その存在意義を失っていった」
 陽はそこで一息をつく。
「戦うことでしか自分を証明できないって……そんなの悲しいよ。契約者とか契約者じゃないとかそんなの関係なく、自分を証明する方法って色いろあると思うんだ。例えば音楽とか……きっと楽しいよ」
「戦い以外でも活躍の場はいくらでもあります。姫の言うような音楽もいいかもしれませんし、作物を育てるというのも悪くないのではないですか」
 花音と申はそう自分の意見を述べる。
「なるほど。確かに。彼らには私の方からそう伝えておきましょう。器の魔女が手に入ればこの世界から争いはほとんど無くなるでしょうから、あなた方の言う生きがいが彼らにも必要でしょうからね」
「戦いがなくなる……? それはどういう……」
 リュートの疑問。
「単純な話ですよ。恵みの儀式はある種の無限のエネルギー。そして器の魔女はそのエネルギーを完全に使いこなす。そしてこの理の魔女は『不可能を可能』にする。…………すべて揃えば地球を管理することくらい可能だとは思いませんか?」
「……なるほど。それが貴公たちの目的ですか」
「ええ。この世界には悲劇が多すぎる。それらを管理して悲劇を少なくして幸せを増やす。それが私達の目的ですよ」
 そう言って陽はもう一度お茶を飲み続ける。
「それで、あなた方は私達に協力して器の魔女を渡してもらえますか?」
「……確かに、理論上であれば貴公達の考えは合理的ですね。実現できれば素晴らしいでしょう」
 だがと申は続ける。
「それはあくまで理論上の話ですよ。恵みの儀式……あれが無限のエネルギーを生み出す生易しいものだと思っているなら、その理想とも言えない妄言が叶うことはありませんよ」
 申はそう言って茶会の席を立つ。
「交渉は決裂ですか……残念です」
「誰かに管理される世界……それが正しいのかどうかは置いておいて、不可能なことに付き合うことは出来ませんよ」
 そう言って茶会の席を離れる申。それを花音も追おうと慌てて席を立つ。
「くすくす……お嬢ちゃん。ちょっと待って」
 そこでずっと黙っていた最後の魔女が花音を呼び止める。
「なにかな?」
「お茶美味しかったわ。それと話も面白かった。だから、ゲームでの勝敗に関係なくあなた達に一度だけ力を貸してあげる」
「えっと……ありがとうでいいのかな?」
「ええ。こちらこそありがとう。楽しかったわ」
 満足した様子で最後の魔女は茶会の席を離れてゲームの会場へと向かっていくのだった。