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 ひとつのきっかけ

 双子の魔道書によって降り立った地は5つの鍾乳洞の入口が並ぶ場所だった。
「ここが、あの事件の……」
 金 鋭峰(じん・るいふぉん)が静かに呟いた。彼に同行するルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)も鍾乳洞を見上げる。
「ロートとブラウは、私達の行きたいところを希望してたけど……私は金団長が見たい時代を見せてあげてほしかったの。幸い、希望を言って下さったから……」
「それにしても、事件の詳細を知るためではあるが……捜査の参考として見に行く所が教導軍人らしいといえば、らしいか。金団長もこの事件は気になるところだっただろうからな」

 鋭峰が希望したという過去の事件――クランジ事件と呼んでいるそれは塵殺寺院の機晶姫『クランジ(The CRUNGE)』と呼ばれる者たちを中心に巡った事件であった。クランジΔ(デルタ)を相手に最終決戦(ゲーム)となった時の事である。
 降り立った場所で待っているという魔道書達も連れ、鋭峰とルカルカ、ダリルは鍾乳洞の中を進んでいった。事件当時はダリルの視界を映すモニター越しであったが、共に突入した仲間の支援を受けてダリルはデルタの居る部屋の天井から侵入するという荒業をやった。
「デルタを破壊すると、この内装も泥の塊になって溶け落ちるからな。天井から見ていたら泥と一緒に落ちてしまう……ちょっと狭いがこの扉の影から見てるとしよう」


 ◇   ◇   ◇


 デルタとダリルが対峙する。

 デルタはダリルの頭上から氷柱を降らせ、スライディングで避けたダリルの着地地点ではフロアがぱっくりと裂けて煮えたぎるマグマの火口が覗いた。デルタの攻撃を上手く機転を利かせて避け続けるダリルの戦闘能力に鋭峰も感心してしまった。
「改めて見ると、ダリルの身体能力は目を見張るものがあるのだな」
 間一髪でかわし続けるダリルと、次々と繰り出してくるデルタ――互いに“兵器”として存在しながら、その存在意識は遠く隔たってしまった事を戦いながらダリルはデルタに訴え続けていた。その様子を見ていたルカルカは複雑そうに2人の攻防を見守っている。
「このやり取りからああなるんだから……」
「……?」
 ルカルカの呟きにハテナマークを浮かべるイーシャンとシルヴァニーだったが、見ていた次の瞬間――!

「「あ!」」
 目の前では、人質にされていたリュシュトマ少佐の訴えにデルタが見せた極小の虚を見逃さなかったダリルが一跳びでデルタに手を伸ばし、デルタの杖で額を割られたがそれに構わず彼女を抱きすくめて唇を塞いだ。
「やるじゃねぇか、ダリル」
「……感心するところがちょっと違うんじゃないかな、シルヴァニー」
 なんだかんだと言いながらダリルのキスで杖を手放したデルタにひと安心した2人だったが、突如彼女の動力部である胸元をダリルの左手から光条兵器が貫いた。
「クランジの特性を活かしたとは思うが……流石にこの時ばかりはデルタが気の毒であったな」
 鋭峰の言葉にはダリルの耳も多少痛かったようだが――
「うーわ……」
「ダリルひっでぇ!」
「やかましい! そこの双子!」
 イーシャンとシルヴァニーには、遠慮なく一喝したダリルだった。

 ダリルは動かなくなったデルタを横抱きにしたところで、彼女が創造した泥の内装も全て溶け落ちるとバラけていた仲間達が集まりだした。入り江から離れ、身を隠せる場所へ移動すると、改めて事件を振り返ったルカルカはダリルにジト目を送ってしまう。
「……ルカ、なんだその責めるような顔は」
「女の子だよね、デルタは」
 そうだ、と頷いたダリルにルカルカはますます剣呑な顔をした。
「キスしといてそれはないよね」
「デルタの動作に空隙をを作る為にやっただけだぞ?」
「……向こうはそう思ってないかもよ」
 ルカルカの後押しをするように、イーシャンとシルヴァニーも「そうだそうだ」と応援(?)するがダリルの一睨みで黙ってしまう。
「いや、まさか……」
「会ってきなさいよ。えいデコピン!」
 ルカルカがダリルの額へ思い切りデコピンし、ダリルも黙ってデコピンを受けると額を摩りながらバツが悪そうに鋭峰の方へ向いた。
「……団長」
 ダリルが話し出すまで、鋭峰は根気強く待った。漸く意を決して口を開いた彼はある事を申請するのだった。

「教導団に収監されている、デルタとの面会を希望します」


 ◇   ◇   ◇


 事件の調査を経て、ダリルはひとつのきっかけを得てその為の未来を開いたのでした。その後のダリルとデルタがどんな関係を築き、新たな仲間達とどのような絆が結ばれていくのか――彼らの物語はこれからも紡がれていく。
「今回は過去だったが……次は未来でも見てみるか」
「んー、それならロートとブラウの見てみたい未来に私達を連れて行ってほしいくらいなのよね」
 ルカルカの言葉に、双子は顔を見合わせた。
「名付け親の希望なら、叶えなきゃいけないですよね」

 いつの日か、ルカルカとダリル、そしてデルタ、パラミタで得た仲間達と時間旅行へ旅立つのも遠い日の事では無いのかもしれなかった。