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そして、蒼空のフロンティアへ

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計画へ



 ニルヴァーナ創世学園都市――の外れの外れにある巨大な廃墟にも似たガレージ、そこが創世運輸の本社でした。ニルヴァーナ開拓のドタバタに乗じて、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が作った秘密基地の一つです。
 表向きは、ニルヴァーナ各地へのトラック運送を担う会社となっています。常駐している上田 重安としては、「秘密基地、何だそりゃあ?」でした。
 けれども、実際に創世運輸の建物の地下に作られた秘密ドックに建造されていた新造艦伊勢――ええっと、バージョンいくつでしたっけ? とにかく、新しい伊勢です――を見せられては、あながち秘密な何かを否定することはできません。
「私が一晩で作りあげました」
 自慢げにアイゼン・ヴィントシュトースが言いますが、本当かどうかは分かりません。もしかすると、何か凄い変形機能でも持っていて、それでなんとかしたのでしょうか。一応、ギフトですし。
 当然のように、上田重安は疑わしげな目で見ていますが、今自分たちが集まっているのがその伊勢のブリッジなのですから、ここに機動要塞があること自体は否定できませんでした。
 そんなちょっとピリピリした空気に、パラミタから初めてニルヴァーナへやってきたセイレム・ホーネットがドン引いています。
「それにしても、こうして全員が集まるのも初めてよね」
 ちょっと感慨深くコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が言いました。普段ニルヴァーナ常駐組とパラミタ常駐組に分かれているので、その全員が集まるのは本当に初めてのことだったのです。
「ええっと、思い起こしてみればこの数年、いろいろなことがあったであります。うんうん、いろいろなことがあったなあ……」
 しみじみと葛城吹雪が言いました。
「ええ、いろいろなことが……って、みんなあんたがしでかしたことじゃない! リア充テロとか、リア充テロとか、リア充テロ!!」
 思わず怒鳴ったコルセア・レキシントンの言葉に、セイレム・ホーネットがうんうんと凄い勢いでうなずきました。
「まあ、それはおいておくでありまして」
 葛城吹雪、軽くスルーしました。過去は振り返りません。
「今後のことでありますが、大きな夢を目指すであります!」
 高らかに葛城吹雪が宣言しました。嫌な予感がします。
「またか、今度は自分がパラミタを滅ぼすようなテロを企てているとか言いだすんじゃないでしょうね」
「もっと前むきな夢であります」
 そうコルセア・レキシントンに答えると、葛城吹雪が自慢げに計画を披露し始めました。
 題して、新天地目指してフライバイ。
「あの戦いで新しい世界がどこかに生まれたらしいので、自分たちでそこを目指してみるであります!」
「待て待て待て待て……、自爆してあの世へグッバイでないだけましだが、なんだかもの凄く片道切符のような気がするのだが……」
 礎になれと言われなかっただけよかったわけですが、拭いきれない不安感に鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)が身を震わせました。
「まあ、前むきではあると言えるのがまし……なのか?」
 何も、わざわざそんな所を目指すこともないだろうとイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)が言いました。
「何を言うでありますか。そもそもパラミタに来たのさえも、新世界を目指してのことだったであります。そして、もはやパラミタは自分たちにとっては旧世界。こうなっては、さらなる新世界を目指さないでどうするでありますか!」
 なんだか、妙に説得力があります。いつもの葛城吹雪ではないようです。
「さて、具体的に新世界に行くための計画でありますが、モニタに注目であります!」
 そう言って、葛城吹雪が伊勢のメインモニタに、プレゼンソフトで徹夜して作った企画書を映し出しました。多分、珍しいので使ってみたかったのでしょう。
「まずは、新世界へ行けるだけの能力を持った宇宙船へと伊勢を改造するであります。せめて、自力で回廊を開いて航行できるぐらいでないと話にならないでありますな。次に、そのための技術開発。そのためには莫大な資金が必要となるであります。当然、創世運輸の売り上げだけでは到底追いつかないでありますから、合法、非合法を問わずこつこつやっていくであります」
 自慢げに、葛城吹雪が説明しました。計画のためであれば、遺跡荒らしだろうと辞さない構えです。
「今、一部聞き捨てならない単語が聞こえたんだけど、気のせいかしら?」
 さっそく、コルセア・レキシントンがツッコミます。
「弊社の売り上げでは、まだたらんと言うんですかい」
 いったいいくらつぎ込むつもりかと、上田重安が眉尻をあげます。
「これ以上の重労働は……」
 アイゼン・ヴィントシュトースも不満たらたらです。
「パラミタを出ていかないといけないんですかあ……」
 もの凄く不安そうにセイレム・ホーネットが言いました。
「回廊から外れたら、それこそいつかの艦隊戦のヴィマーナのように、どこの世界へ飛ばされるか分からないのだよ」
「うむ、危険すぎるのだ」
 鋼鉄二十二号とイングラハム・カニンガムも反対です。
「それこそ本望であります。今度こそ、自分で辺境世界を見つけて、葛城宇宙と名づけるのであります!」
「目的はそれかい!」
 一人覇気を揚げる葛城吹雪に、全員が一斉にツッコミました。
 はてさて、宇宙戦艦伊勢が完成するのはいつになることでしょうか……。

    ★    ★    ★

「まさか、またこの場所に戻ってこられるようになるとは。ひとまず、異常はないようですね……」
 タイオン・ムネメが、ヴィマーナ時空港の遺跡を調べながら言いました。紫の袴にブーツと、大正時代の女学生のような出で立ちですが、その物腰はきびきびとしたどちらかというと軍人っぽい所作です。
 以前この遺跡の話を契約者たちから聞いて、その時すぐに散楽の翁たちは調査に来ていました。
 まさか、遥か太古に自分たちが避難してきた時空港が、現代に蘇るなどとは思ってもいませんでした。そして、ここで起こった戦いが、自分たちをパラミタへと運んでくれたということも。
 以前の調査で、無事だったゲートの官制室から、いくつかのデータの抽出には成功しています。それによって、ゲートの拡張機能が判明し、利便性が一気に向上しました。
 ただ、さすがにこれだけの規模の時空港を短期間ですべてチェックしきれるはずもありません。調査は続行され、ときどき十二天翔たちが交代で状況の確認に来ているのでした。
「これは……。また、好奇心旺盛な契約者が、勝手に割り込んだのかしら?」
 システムへの予定外のアクセスの痕跡を認めて、タイオン・ムネメが首をかしげました。とはいえ、それだけで、別に何か変わったようなこともありません。
 ただ、未だに戦いの残骸処理が黙々と行われている場所ですので、何がどう変わっていると言い切れないのも現実です。けれども、さすがに瓦礫を盗み出すのはジャンク屋あたりかと、タイオン・ムネメは思いました。


闇市へ



「第二小隊、回り込んで退路を塞げ。鼠一匹逃がすな。全員確保だ!」
 ジェイス・銀霞(じぇいす・ぎんか)が、教導団の学生たちに指示を出していました。
 戦後のジャンクが豊富なせいか、相変わらずヒラニプラ山中では大小の闇市が開催されています。
 さすがに、組織化された大規模闇市の場合は国軍が排除しています。小規模の場合は、実戦訓練代わりに学生たちによる取り締まりが行われているのでした。
「ちっ、運のない。こんな日に納品とは……」
 たまさかサルベージ物を売りに来ていたシニストラ・ラウルスが、舌打ちしました。
「こっち、こっち」
 そこへ駆けつけてきたデクステラ・サリクスが、ディッシュをシニストラ・ラウルスに投げ渡しました。サーフボードのように空中を滑空できるフライングボードです。
「待て!」
 シニストラ・ラウルスたちに気づいたジェイス銀霞たちが迫ります。
「悪い、また今度な!」
 ディッシュに飛び乗って木々の間を逃げていくシニストラ・ラウルスたちは、そのまま一気に断崖から飛び出しました。崖沿いに落下して、森の中に逃げ込むと、そのまま飛空艇ヴァッサーフォーゲル2世の隠し場所まで脱出していきました。