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次の合宿へ



「今日、皆に集まってもらったのは他でもない、来年の夏合宿の場所についてだ」
 ジェイス・銀霞が、夏合宿のガイドさんたちを集めて言いました。
「ええと、いつも通りのパラミタ内海の海岸じゃいけないんですかあ?」
 大谷文美(おおや・ふみ)が、戸惑いながら聞きました。
「毎年同じでは、芸がありませんし、前回の参加者から攻略法みたいなものが伝授されるかもしれませんからな。それでは、訓練になりますまい」
 ジェイムス・ターロンの言葉に、ジェイス・銀霞がうなずきます。
「また、宝探しとかするのかあ?」
 楽しそうに、ビュリ・ピュリティア(びゅり・ぴゅりてぃあ)が言いました。
肝試しもいいねえ」
 神戸紗千も、ニヤリとします。
川下りは、どうする?」
 一応、過去の催しをあげてキーマ・プレシャスが聞きました。
「焼き直しでは、こちらとしても楽しくはないだろう。まあ、手は抜けるがな」
 さすがに、新しいパターンでいこうと、ジェイス・銀霞が言いました。
「いっそ、ニルヴァーナというのはどうでしょうか」
「あ、そこ、行ってみたいのだあ!」
 ジェイムス・ターロンの提案に、ビュリ・ピュリティアが即行で賛成しました。
「それは、悪くないかもしれないですね」
 キーマ・プレシャスも賛成します。
「なら、再廻の大地から自力でゲートまで帰ってくるっていうのはどうだい」
 よし、それでいこうとジェイス・銀霞が神戸紗千の言葉に賛成して纏めます。
 来年の夏合宿は、またハードになりそうでした。


タシガンの霧の中へ



 タシガンにある忘れ去られた霧の古城で、オプシディアンことテスカトリポカたちの周りを、メイドロボたちが、せわしなくコーヒーやケーキを運んでいました。メイドロボの中にはアクアマリン小ババ様を参考にして作ったメカ小ババ様が乗り込んで操縦しています。
「暇だな」
 自分の前に運ばれたコーヒーを一口啜ってから、オプシディアンがつぶやきました。
「まあ、暇なのはいいことじゃないんですか? あなたも、チャルチーやトラロックのように、遊びに行かれればいいのに」
 飄々と、ジェイドことククルカンが言いました。
「あいつらと一緒にされるのはなあ……」
 子供っぽく遊園地に遊びに行ったエメラルドとアクアマリンの姉弟のことを思ってオプシディアンが言いました。ついこの間、再びニルヴァーナへ赴いて、黒蓮を栽培するためのイレイザー・スポーンの残骸を回収してきたばかりです。
 イレイザー・スポーンを構成する体組織に含まれていたとされる微量の黒き砂。イレイザー・スポーンと融合し、ヴィムクティ回廊での艦隊戦でナラカへと時空転移してしまったヴィマーナ母艦が、ナラカに渦巻く思念を過剰吸収して変質した物が銀の砂。それぞれを、五千年前に生物として取り込んで生まれたのが、黒蓮と輝睡蓮(きすいれん)の発生要因であるという推論にアクアマリンは到達していました。黒蓮は、情報が微量しか蓄積されていないもの、輝睡蓮は飽和状態にあったものと推測されます。それゆえに、両者の融合は、黒蓮のオーバーロードを連鎖反応として引き起こしていたのでしょう。
 銀砂は、情報が飽和状態のため、指向性を付加されると安定化します。オプシディアンたちや、アラザルク・ミトゥナケンちゃんたちが安定しているのは、そのためです。この指向性の付加を研究していたのが、カン・ゼストゥ伯爵で、その過程で客寄せパンダ像が誕生しています。そのストゥ伯爵の助言もあって、アクアマリンは研究をはかどらせたようです。
「いずれにしろ、今は幕間だ」
 のんびりと、ジェイドが言いました。
 思えば、気紛れから、少々姑息な手や、マジックスライムで世界樹イルミンスールを襲ったりたり、シトゥラリと名づけたイルミンスールを爆破しようとしたり都市一つ破壊する大規模な試練まで、いくつもの戦いを契約者たちに挑んだわけですが、彼らはそれを乗り越えてきました。この周期は、この世界の者たちを存在させるべきというのがオプシディアンたちの出した結論です。
 それこそが、ナラカを通りすぎたヴィマーナによって、半ば強制的に具現化された彼らのレーゾンデートルでした。
 そのせいもあり、最終決戦には、傭兵を装ってスイヴェンシパクトリイツパパロトルアウカンヘルアトラウアミキストリ・ソピローテなどのイコンを使って、敵の排除に協力したわけですが。
 ただ、多少不純な意志、グランツ教の罠によってヴィマーナに取り込まれたソルビトール・シャンフロウが彼らの中に介在しましたが、それを認識した今は完全に排除しています。
 それにしても、この世界はその思惑をも越えて、いくつもの別世界と繋がり、あまつさえ新世界まで生み出してしまいました。これは、どう捉えたらよいのでしょうか。
「そう。新たに生まれたという新世界の処遇。これは、どうするべきでしょうな」
 アラバスターこと、ミクトランテクウトリが、ルビーことウエウエテオトルに訊ねました。アラバスターは、少し前にイルミンスールの森から戻ってきたところです。今は力を蓄えるべきとの考えから、アクアマリンの黒蓮の栽培に協力してきたのでした。
「本来、新しい世界を生むには、古き世界を無に還さなければいけない。古き世界こそが、新たな世界の素材となるのですから。しかし、我々以外に、新世界創造に手を染めた者たちがいる」
 少しいまいましげに、アラバスターが言いました。
「彼らは、世界を贄としないで、新世界を作りあげたんだ。それは、とても新しいことじゃないのかな。それとも、とんでもない愚行か……」
 玉座に座ったルビーが、けだるそうに言いました。
「確かめるべきかな? 我々にはすでに関係ないこととして放っておくべきかな? いずれにしろ、次の回帰まではまだ間がある。世界を壊さないでも世界を作れる方法があるとしたら、それはそれで面白いかもしれないね」
 興味の光を目に宿しながら、ルビーが言いました。

    ★    ★    ★

「霧は、元に戻った……。いや、単に、より深さを増しただけなのだろうか……」
 己の城の中をあてどなく歩き回りながら、ストゥ伯爵が言いました。
 いつぞや壊されてしまったアムリアナ・シュヴァーラの石像も、伯爵の慕情と共に修復されています。イルミンスールへとむかった巨大イコンと思われていたヴィマーナから発見された銀砂をカン・ゼと共に解析して完成させたアストラル・ミストは、黒蓮の香りと共にストゥ伯爵の記憶を具現化してくれていました。そのはずです。
 けれども、その一つ一つは微妙に顔や姿形が異なっていました。
 記憶は、時と共に薄まりつつあるのです。
 そして、ストゥ伯爵もまた、自分自身の記憶が生み出した幻影なのかもしれません。
 ただ、今のストゥ伯爵は、そのアムリアナ・シュヴァーラ女王がジークリンデ・ウェルザング(じーくりんで・うぇるざんぐ)として復活しているとは思いもしていませんでした。そして、多分、今のジークリンデ・ウェルザングは、彼の思い描くアムリアナ・シュヴァーラとは完全に別人なのでしょう。