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王子様と紅葉と私

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王子様と紅葉と私
王子様と紅葉と私 王子様と紅葉と私

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 宴もたけなわ。すっかり寛いだ女性たちは、皆連れ立って屋敷の露天風呂へと向かい、宴会場に残ったのは男たちのみだ。
「さて、女性陣は大浴場に行った。……あとは、解るな?」
 唯斗はキロスと顔を見合わせ、ニヤリと笑う。
 この二人、本質的に女好きという点で話が合い、すっかり宴会の間に意気投合していた。
「正直、アルテミスの裸を他の男に見せたくねえが……そこに女湯があるから仕方ない!」
「おうとも、よく言った!」
 唯斗とキロスはパン、と手を打ち合わせる。

「「突撃! 紫月家大浴場!」」

「……で、わざわざ人が寝てるトコを起こしといて何なのさ?」
 唯斗とキロスは、暁斗を引き連れて屋敷の外へとやってきた。
 先に眠っていたところを叩き起こされた暁斗は、瞼を擦りながら訊ねる。
「この試練をクリアしないと、s帰れないぞ」
「意味わかんないし……」
 まだやや寝ぼけ眼の暁斗は、呆れ半分に唯斗を見る。
「では、暁斗、キロス、ハデス……あれ? ハデスはどこ行った? まぁ、良いか」
 唯斗は改めて、暁斗とキロスに向き直る。
「というわけで、家の中からだと即バレるから外から回るしかない」
 だが、と唯斗は小難しげな顔をして言葉を続ける。
「外にはウチのペットのドラゴン達をはじめ、さまざまな生き物が待ち構えている。
 その上、飼育係である睡蓮が仕掛けた、数えるのも馬鹿らしい量のトラップがある」
 ごくり、と唾を飲み込んで、三人は顔を見合わせた。
「これは正直、俺でも突破するのはキツいレベルだ」
「ちょっと待て、お前家主だろ? ペットなら頭でも撫でてやって通ればいいじゃねーか」
「あ? 家主より面倒見てる睡蓮に懐いてんだよ、ほっとけ」
 キロスに至極まともな反論をされた唯斗は「とにかく」、と話を元に戻す。
「そーいうわけで俺達は協力せねばならん。解ったな?」
 唯斗は黙って暁斗を見た。無言の圧力の前に、暁斗は頭を振った。
「ああもう、解ったよ! やるってば! 絶対クリアしてやる!」
「よくぞ言った! よし、行くぞ!」
 唯斗が高らかに宣言し、一歩を踏み出した。

ちゅどおおおおん!

「って父さん脱落早すぎるよ!?」
「ふ、睡蓮……良い罠、だ……」
 吹っ飛ばされた唯斗は、グッと親指を立てて、僅かに身を起こした。
「二人は先に行け、後から必ず……!」
「くっ……あいつのためにもクリアしてやらねえとな……」
 やる気スイッチの入ったキロスが、地雷原に飛び出していく。
「ああもう!」
 キロスの後を追いかけていく暁斗を暫く見ていた唯斗が、むくりと身を起こした。
「お、抜けた抜けた。だが次はどうかな? ……お、アレ抜けるか」
 唯斗はトラップの判定圏外から、キロスと暁斗の様子を眺めることにしたのだった。


「今……」
「何か聞こえましたねぇ?……」
 二人だけ皆と離れて温泉を満喫していたミリアとスノゥが、顔を見合わせて露天風呂の囲いの外を見やった。
「まぁ……流石の忍者さんも、お嫁さんの前で変態行為はしないでしょ、きっと……」
「そうですね、大丈夫でしょう。しっかり罠も用意してありますし」
 ミリアの言葉に、不審な音に気付いた睡蓮が同意した途端、遠くで猛獣の猛り声と叫び声が上がった。
「「「…………」」」
 もはや黙り込む三人。スノゥが呆れ顔で音の聞こえた方を見た。
「おっきなおふろなの! 泳ぐの〜!」
 一方で翠が、思いっきりプール感覚で温泉を満喫している。
「本当に大きいね」
 そんな翠を見ながら、サリアは静かに露天風呂を見回した。
「ふぅ、一仕事した後の風呂は良いのぅ」
 宴会料理を作るために気を張っていたエクスは、ゆったりと露天風呂に浸かったまま伸びをした。
「本当にいいお湯ですね、ヴァレリアさん。もっと色々お話して、仲良くなりましょうね」
「はい!」
 ヴァレリアとアルテミスが話すうちに、自然と女子トークになっていく。
「ふふ、キロスさんって、ああ見えて、すごく優しくて紳士なんですよ。例えば……」
「まあ、やっぱりキロスさんは素晴らしい方なのですわね!」
 盛り上がるアルテミスたちの傍に、エクスが寄ってきた。
「ところでヴァレリアよ、王子様とやらは見つかったのか?」
「ええと……何名かの方はプロポーズを受け入れて下さったのですが、それきりどうしたらいいのか分からず」
「うむうむ」
 エクスは困り顔のヴァレリアに、何度か頷いてみせる。
「いやなに、お節介というものよ。どーいうのが好みなのか言うてみ?」
「好み……?」
 ヴァレリアは空を見上げて考え込む。……真剣に考え込む。
「そういえば、好きな方のタイプについてあまり深く考えたことがありませんでしたわ。……咲耶様はどのような方が好きですの?」
「えっ、わ、私の好きな人、ですか……? わ、私は兄さんが……」
 突然話をふられた咲耶は、ごにょごにょと恥ずかしそうに呟く。
「って、私のことはいいじゃないですかっ! それより、露天風呂の外にはトラップが仕掛けられてるとはいえ、あの唯斗さんとキロスさんがいるんですから、覗きには注意しないとっ!」
 咲耶は誤摩化すように言って、露天風呂の外をじっと見つめた。
「ん? なにか、こっちで動いたような?」
 咲耶は妙な気配に気付いてざばっとお湯から上がり、女湯の入り口の方に向かった。
「?」
 超感覚を持つ翠も、咲耶の視線の先を見た。
「な、なんかきたの!」
 翠が叫ぶと同時に、裸の咲耶の前に突然姿を現したのはハデスだった。
「え、に、兄さんっ?! きゃあああっ!」
「なにっ! 透明化白衣の効果が切れただと!?」
 ハデスは、自作した透明化白衣を女湯という警戒される場でも有効なら性能証明ができると考え、女湯にやってきた。
 しかし、なんと透明化白衣は水分に弱く、姿が現れてしまったのだ。
「へ、へんたいなのー!」
 こっそりと覗くどころか、正面から堂々と入ってきたハデスを変態認定した翠は、どこからともなくデビルハンマーを取り出す。
「ふっとばすのー!」
「ど、どこからそれを?!」
 翠に続いて、サリアも左腕を銃に変形させた。
「間違いなく変態だね!」
「や、やめ……ぐわああああーっ!!」
 デビルハンマーで吹っ飛ばされたハデスを、サリアの銃撃が襲う。
 ハデスはそのまま露天風呂の囲いの外まで飛んでいった。
「やっぱり来たじゃない……!」
 逃げていくハデスの背を見据えたままミリアはフレースヴェルグを召喚し、露天風呂の外周に配置した。
「他にも変態が出没しているんじゃないのかな……」
 サリアは銃に変形させたまま露天風呂の外を見た。
「何か動いた!」
 叫ぶなりサリアは狙撃し、露天風呂の外に機晶爆弾を投げつけた。
「まだなんかくるのーっ!!」
 ハンマーを振り続けている翠が察知した気配は、ひとつひとつトラップを超えて順調に女湯に近付いてくる暁斗とキロスだった。
「くっ……! ドラゴンに何かやたら無駄に強い格闘パンダ、影に潜むもの……ってどんだけ凶暴なペット飼ってんだ!?」
 キロスは必死の剣捌きで、トラップとペットを?い潜っていく。
「爆弾も銃弾も飛んでくるし!!」
 暁斗も剣術で迎撃しつつ、切り抜けていく。
「うおおおっ! この程度で、漢の浪漫を止められるかあっ!」
 キロスが叫び、ラストスパートをかけた。
(そこに女湯があるから覗くんだ! 許せ、アルテミス。これは漢の浪漫のためなんだ!)
「な、何がおきているのでしょう……」
 ヴァレリアは、大騒ぎする翠とサリア、真っ赤になって温泉に飛び込んできた咲耶を交互に見る。
「はっ、だ、誰ですかっ!」
 その時、露天風呂の外の気配を察知したアルテミスが、皆に警告した。
「突破!」
 女性陣の視線が集中したところに、キロスと暁斗の顔が覗いた。
「って、キ、キロスさん……?! きゃ、きゃああっ!」
 咄嗟にしゃがみこんだアルテミスは、闇の帳で身体を隠した。
「ア、アルテミスこれは……ぐおっ!」
 キロスに、アルテミスの放った逆鱗が落ちた。
「ってなんで女湯、というか皆さんが居るんですか!? 帰ったんじゃ……!!」
 勘付いた暁斗は、唯斗がいるであろう方角を振り返った。
「あの馬鹿親だましたなああああ!!?」
 暁斗の叫び声が、虚しく爆音に掻き消えた。
「…………」
 ミリアは無言で、キロスと暁斗のに天の炎を降らせた。
「困り者ですねぇ?」
 スノゥは笑顔のままで喰滅を仕掛ける。次から次へと現れる変態に、相当お冠なようだ。
「ちが、これは騙されて……あーっ! うちの風呂が!! 庭が壊れてる!!」
 大騒ぎの女湯を、たった一人唯斗だけが遠巻きに眺めている。
「暁斗の奴、キロスもいるからだけど成長したなぁ」
 父親目線で静かに騒動を眺めていた唯斗の額に、サクッと良い音を立てて矢が突き刺さる。
 唯斗の目に、タオルを巻いたまま良い笑みを浮かべた睡蓮が、弓を構えている姿が映った。
「さて……まずはそこに正座してもらおうかの?」
 続いて、エクスも現れる。その背後には、各々武器やら召喚獣やらを引き連れた女性陣が控えている。
 エクスは唯斗と暁斗を正座させ、連行されてきたキロスとハデスも加えて正座をさせる。
 こうして、一晩に及ぶ説教が始まったのだった。