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空を観ようよ

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空を観ようよ
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共に幸せを築く

 2025年の春、卒業式シーズン。
 ヴァイシャリーに存在する泉 美緒(いずみ・みお)の家は、今日も幸せに包まれていた。
 居間で、美緒と伴侶の泉 小夜子(いずみ・さよこ)、小夜子のパートナーのエノン・アイゼン(えのん・あいぜん)がソファーに腰かけて、のんびりとお茶を楽しんでいる。
 テーブルの上には、茶菓子と紅茶。それから型に入ったゼリーが入っていた。
「どうでしょうか……」
「うん、とても美味しいわ」
 小夜子がそう言うと、美緒はほっとした笑みを浮かべる。
「そうね、今まで頂いたもので、一番美味しいかも」
 エノンもほっとしたかのような表情を浮かべている。
 型に入ったゼリー……それは、美緒が作ったお菓子だった。
 美緒は小夜子のもとに永久就職する以外の仕事を特に考えていないため、小夜子の良き伴侶となれるよう、料理の勉強を始めたのだ。
 とはいえ、お嬢様育ちで、家事全般使用人に任せきりで育ったため、何をすれば良いのかというのが良く分からずにいた。
 とりあえず料理本を見て、料理に挑戦しようとしてみても、失敗する以前に材料を間違える、洗い桶に入れたジャガイモを生のままヤカンですりつぶそうとするなど、周りから見ると不可解な行動ばかりしてしまっていた。
 だけれど今日、ようやく1人で美味しいお菓子を作ることに成功したのだった。
(お湯を入れて、混ぜて、冷やして固まらせただけですけれど……上達、ですわよね)
(ええ、容器の上から水を入れて、冷やそうとしなくなったようだし)
 嬉しそうに自分が作ったゼリーを食べている美緒を前に、ひそひそと小夜子とエノンは話すのだった。
「短大を卒業しましたら、もっと小夜子の役に立てるよう、家のことも頑張りますわ」
「そうね……美緒はもうすぐ短大卒業ですね。私もあと1年で卒業ですけれど……」
 小夜子はティーカップを口に運んで、少しだけ飲んで、カップを皿の上に戻した後。
 少し改まるように美緒に語りかける。
「美緒、私ね。卒業したら今まで私が稼いできたお金を元手にして、ヴァイシャリーで護身術の教室を開こうかと思ってるのですわ」
「護身術ですか?」
「ええ。ある程度の需要があるように感じましたし、地元にも貢献できそうですから。
 もっともそれだけですと収入的に辛いでしょから、地元の商会中心に手堅い場所に投資して、家計の足しにしようかと思っています」
 小夜子は現実的に未来を見ていた。
 このまま美緒の実家の世話になり続けることも出来たけれど、きちんと美緒と自立したいと。
「そのための勉強もしているのですよ。実家に頼らない収入が必要だと思っていますから……
 美緒は協力してくれるかしら?」
「この家に生徒を呼んで教えるのですか?」
「いいえ、まずは相応しい場所を賃貸で借りて、生徒を集めて、教えていくんです。
 軌道に乗るまでは苦しいかもしれないけれど……。美緒と一緒なら大丈夫」
「はい。わたくしも出来ることをしていきたいですわ! わたくしにできる協力が何かは、直ぐには思い浮かびませんけれど……小夜子の力になりたいです。小夜子と共に、ヴァイシャリーに貢献していけたら嬉しいですわ」
「ありがとう、美緒。それから、エノンさん」
「あ、えっ?」
 エノンは小夜子が美緒と話をしている間、小夜子も色々と考えているのだなと思いながら、ただ黙々と1人で紅茶を飲んでいた。
 美緒のことは認めていたし、小夜子の相手として、ぴったりだとは思っていたけれど……。
 常に居心地の悪さも感じていた。
 自分はもう、小夜子に必要ないのだろうかと……悩むこともあった。
「エノンさんも協力してくれる?」
「私も?」
「ええ、教室は貴女にも講師をして貰いますからね」
「……え、私も講師に? 出来るかな」
「貴女の腕なら大丈夫。それに、ひょっとしたらエノンさんの将来のお相手も見つかるかもしれませんし、ね……?」
「な、ななな、何を言ってるんですか? 早々見つかるわけが……」
「ふふっ。頼りにしてますわよ。エノンさん」
 そんな小夜子の笑い顔に、エノンはちょっと赤くなりながら、ほっと胸をなでおろす。
 まだ、自分が必要とされていることに、安心して。
(でも……。私自身の幸せも見つける必要はあるかもしれませんね。
 小夜子はもう私の手の届かないところに行きそうな気がします……)
 美緒と談笑を始める小夜子の横顔を、エノンはそっと見つめる。
(最初に出会った時のことを思い出すと――成長した小夜子を見て、嬉しくもあり寂しくもありますね……)
 小夜子は精神的に不安定なところがあった。
 満たされない思いを抱いている自分を、満たしてくれる存在でもあり、エノンは彼女を大切に思っていた。
 小夜子の成長は嬉しいけれど、やっぱり寂しいなとは思う。
(私にも、良い方……見つかるかしらね)
 小夜子と美緒の睦まじい姿を微笑ましげに見ながら、エノンは思うのだった。
「美緒、一緒に幸せな家庭を築きましょうね……」
 小夜子は美緒にそっと寄り添った。
「はい。幸せな家庭を小夜子と作っていきますわ」
 美緒も小夜子に寄りかかる。
 互いの温もりが、体中に広がっていき互いの心まで温めていく。
 2人はとても幸せだった。
 そしてこれからもずっと、一緒に幸せを築いていくのだ――。