天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

空を観ようよ

リアクション公開中!

空を観ようよ
空を観ようよ 空を観ようよ 空を観ようよ 空を観ようよ 空を観ようよ 空を観ようよ 空を観ようよ

リアクション


今は離れているけれど

拝啓

 ……この手紙がつくころは卒業式か、新学期か? 得意でもないので時節の挨拶は省略する。

 ボクの方は相変わらずだ。シャムシエルも人恋しくなって街に潜伏しているかと南に戻ってみたが、手がかりはない。
 トラブルバスターじみたことをさせられて、ツテと生活費には困らなくなったけれどね。

 けどそれも終わりだ。
 この手紙を出したら街を出る。今度は未踏地域の方へ向かうつもりだ。
 心配するな、七夕には必ず帰る。


 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)のもとに、そんな手紙が届いたのは、2025年の春のことだった。
 消印は晩冬……1カ月以上前だ。
 手紙の主は、サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)。シリウスのパートナーだ。
 サビクは行方不明となったシャムシエルをニルヴァーナで探している。
 携帯電話の電源が入っていないことが多く、パートナー通話さえ出来ない状態だった。
「電話料金ならこっちで払うし、充電器も居場所さえ分かれば大量に送りつけてやるんだけど……。居場所が定かじゃないから無理か」
 シリウスは寝室のベッドの上で、ため息をついた。
 シリウスが百合園の教師になって1年が過ぎていた。
 世界が安定したことで、以前よりは随分と落ち着いたけれど、他にもさまざまな立場を持っているため、日々忙しくしている。
 そのため、担任はまだ受け持てそうもなかった。
「そろそろ、いるかな」
 深夜。シリウスは携帯電話を手に取って、電話帳からリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)を選択して、電話をかけた。
 リーブラはシャンバラ宮殿で、要人の侍女をしており、今日も遅くまで働いていると思われる。
『シリウス!』
 コール5回で、リーブラは電話に出てくれた。
「……よかった。今日は帰れてたんだな。疲れてるところ急にごめん」
『お久しぶりです……えぇ、大丈夫ですわ。仕事は変わらずですけれど、慣れてきたというか……余裕は持てるようになってきましたから』
 久しぶりに聞いたリーブラの声は明るくて、シリウスはなんだかほっとしながら、ごろんとベッドに横になった。
「今日、ニルヴァーナのサビクから手紙が届いてさ……ま、出したのはだいぶ前みたいだけど。
 アイツ、一番自由だけど一番連絡つかないからなー」
『……そうなんですの。サビクさんから……最後に会ったのは去年のクリスマスでしたからしら。
 あの時、シリウスだけ帰って来た時は驚きましたわ……』
 パラミタに戻る前にサビクとシリウスは別れたため、リーブラはシリウスからの話でしか、知らななかった。
 ただ、クリスマスには一度顔を出していたが、それからまた長い間、リーブラとは顔を合わせることも、連絡を取り合うこともなかったのだ。
「大瀑布までは探索し尽したから、今度は未踏地域に向かってみるってさ」
『ニルヴァーナの未踏地域ですか……』
「……もしかしたら、なんか掴んだのかもな。言うとオレが飛んでいくだろうって、遠慮してるのかも。ははっ……」
『ふふ……それで、シリウスはどうしますの?』
「いや……暫くは動けないよ、オレも。
 卒業式は切り抜けたけど、すぐまた新年度で新学期だろ?
 今年はパラ実分校まで顔出さなきゃいけないし、大変だぜ。今になって若葉分校のみんなの偉大さがよくわかったよ」
 生徒達から見て、シリウスは多少異質な教師だったが、立場を忘れて事件に首をつっこんだり、私事のために、仕事を休むようなこともなく。
 今は教師として、周りに認められる振る舞いを身に着けていた。
 1年前より外見も含め、随分と落ち着いたと思う。
 5年前と比べたらそれはもう、別人かというくらいに。
『……そうですわね。シリウスも忙しいですものね。頑張ってくださいな、校長先生』
 リーブラの言葉に、シリウスは苦笑をする。
「まぁそんな凄いものじゃないけど、なんとかやっていきたいとは、思ってるんだよな。リーブラのほうも忙しい時期だろ」
『そうですね……でも、4月の行事が終わりましたら、少しは時間ができますわ』
「……そっか。
 また5月か6月か……七夕かな? みんなで遊びに行こうぜ」
『えぇ。今年もきっと会えますわ。またサビクさんも一緒に、色んな話をしましょう』
 声を弾ませて言うと、リーブラからも明るい返事が返ってきた。
『それじゃあ……明日も早いのでしょう?』
 続きの言葉は、とても優しく感じた。
「うん。楽しみに待ってる」
『おやすみなさい、シリウス……また会いましょう』
「おやすみ、リーブラ。また会おうな」
 電話を切った後、シリウスはため息をつくと、「んー……」と、軽く伸びをした。
 深夜だというのに、頭も体もすっきりしていく。
「さぁて、オレも明日から新学期か。頑張らないとな」
 そして起き上がり、明日に向けての最終チェックを始めた。