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恋人分の補給


「いんぐりっとちゃん、華やかだね」
「そうですわね」
 天苗 結奈(あまなえ・ゆいな)はホールに足を踏み入れると、辺りを軽く見回してそんな感想を漏らした。
 恋人のイングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)も頷いて同じようにする。
 ホールはクリスマス風に飾り付けられており、普段の百合園通りの上品さは保ったうえで、華やかさといつもと違うワクワクする感じが同居していた。参加者もサンタ衣装などの仮装をして友人同士の気軽な会話を楽しんでいる。
 卒業を控えた先輩たちの中には、こんな風に皆でパーティーできる機会はもう少ないからと、少しだけ(一般的なお嬢様としては)冒険したドレスを着たり、踏み込んだ会話をする者もいるようだ。
「わたくしも卒業される先輩方から伝統と志を受け継ぎ、より良い学院にしたいものですわ」
 イングリットは百合園警備団の生徒部代表としての大きな責任を感じたようだが、結奈はもっと先の方を見ていたようだ。
「卒業かぁ。あのね、私は順調に進級していけば2年後には卒業して、その後は世界中を旅して色々見て回るつもりなの」
「そうなのですか」
「そうしたらいんぐりっとちゃんになかなか会えなくなっちゃうから――」
 結奈はイングリットに抱き付いた。不意打ちされてイングリットは目を丸くする。
「――今のうちからいんぐりっとちゃん分を補給しておくよ」
「まあ」
 甘えるようにぎゅうっと抱きしめてくる結奈に、イングリットはくすりと笑い、優しく肩を抱いた。
「これでは食事ができませんわ」
「分ったよ、じゃあ、あっちに行こっ」
 イングリットの手を引いて、結奈はお菓子の乗ったテーブルに近づくと、ひょいとクッキーを摘まみ上げ。
「あーん、して」
 イングリットの口にクッキーを放り込むと、今度は結奈が自分で口を開けて、
「あーん」
 イングリットは戸惑いながらも、同じようにクッキーを結奈の小さな口に入れてあげる。
「美味しいね、いんぐりっとちゃん」
「そうですわね」
「はい、あーん、いんぐりっとちゃんの番だよ」
 結奈はどうやら食べさせ合いっこをしたいらしい。
 こうして二人はカラフルなお菓子を食べたり、食べさせたりしながら、クリスマスのパーティーを過ごしていくのだった。