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シャンバラ独立記念紅白歌合戦

リアクション公開中!

シャンバラ独立記念紅白歌合戦
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リアクション

 
「さあ、紅組の乙女達よ、ワタクシが勝利に導いてやろう。
 聞惚れるがいい、ワタクシの歌声には801801801ゴルダの価値があるぞ?」
 そう告げ、天上天下唯我独尊 丸(てんじょうてんがゆいがどくそん・まる)がステージに立ち、声を響かせる。とてもその外見から想像できないセクシーなベース声に、訝しがっていた審査員や観客が徐々に引きつけられていく。
 ……だが、場の雰囲気が盛り上がるにつれ、徐々に丸の身体が膨らむように大きくなっていく。ジェイダスのこともあり、最初はパフォーマンスかと思っていた観客も、ステージを飛び出しそうなほど大きくなったところでおかしいと思い始め、さらに大きくなっていく丸に戦慄を覚え始める。
(丸、何やってるのさ……せっかく皆が盛り上げてるのに、場を荒らすんじゃない!)
 舞台袖に控えていた篠宮 悠(しのみや・ゆう)が頭を抱え、放っておくわけにはいかないと、ステージに飛び出す。幼児化した身体に、魔法少女の衣装を纏い、素顔を仮面で隠して――。
 
「魔法少女エタニティルナ! その悪意、浄化するよ……あれ?」
 
 しかし、ステージに悠が立った時には、自分とは違う別の魔法少女が、杖に尖った何かをくっつけて丸に突き刺していた。
「あ、ダメ! 尖りものはヤメテー……あぎゃー!!」
 途端に丸の身体が、空気が抜けるように萎み、ステージの上に哀れな姿を晒す。
「皆さんを怖がらせてはいけませんよー。反省してくださいねー」
「あ、あなたは、豊美ちゃん!?」
 先端を元に戻し、ふぅ、と息を吐いた魔法少女、豊美ちゃんが、悠に呼ばれて振り返る。
「はい、そうですー。あっ、あなたも魔法少女としての務めを果たそうとしてくれたんですねー。
 ごめんなさい、私が先に終わらせちゃいましたー」
「い、いえそんな――」
 どうやら豊美ちゃんは、悠が『篠宮 悠』であること、丸が悠のパートナーであることを知らないようで、悠のことを一人の魔法少女と見ているようである。
「じゃあ、魔法少女として認定しておきますねー。まだ何かあるかもしれませんから、その時はよろしくお願いしますー」
「あ、は、はい! ……ああ、すみません、これは今片付けます!」
 すっかり縮んだ丸の触手を引っ張ってステージを去る悠、流れで魔法少女に認定されてしまったことに、実感を得るのは紅白歌合戦が終了してからのことであった――。
 
 
(エリュシオンも寺院の手も払い除け、シャンバラ王国は成った。
 統一された国家。真の王の誕生。
 不満なんてどこにもない、最良の結果、最高の終止符。
 
 そう――ただ一つ、日本に権力が集中し過ぎている事を除けば。
 
 アメリカは日本に追従するのではなく、対等の関係であるべき。
 新日章会をねじ伏せられるような、アメリカ人のアメリカ人によるアメリカ人の組織が、欲しいわね……)
 
 ステージの盛り上がりを舞台袖で目の当たりにしながら、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が心に呟く。
 しかし、それは今においては、瑣末な事。
 ステージに背を向け、背後に控えていた熾月 瑛菜(しづき・えいな)に声をかける。
「瑛菜。これは、私たちの、私たちによる、私たちの為のステージよ。
 船上ライブのリベンジには、最高の舞台だと思わない?」
「ああ! やっとあたしの歌をたくさんの人に聞かせられる時が来たんだ。
 全力で演るさ!」
 こことは別の場所で歌を披露した後、「瑛菜さんとアテナさんと組みたい人がいるんですー」とやって来た豊美ちゃんに呼び出される格好の瑛菜とアテナ・リネア(あてな・りねあ)だが、疲れなどは全く感じさせず、待ち受けるステージを愉しむかのようであった。
「アテナ、がんばってライブ、成功させようね、なの♪」
「うん! 一緒に頑張ろうね、エリー!」
「妾としても、船上ライブが出来なかったのは痛恨であったわ。
 此の上は紅白という舞台を存分に利用し、リベンジと行こうではないか!」
「東西一和、相成り善き国とならん事を……。
 善き調べを、お届けします♪」
 アテナとエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)上杉 菊(うえすぎ・きく)が互いに意気込みを口にし合ったところで、彼女たちの出番と相成る。
「それじゃ、行こっか!」
 瑛菜の言葉に続いて、一行がステージへと繰り出していく。
 
 エレンの紹介を受けて、ギターを携えた瑛菜とローザマリアがスタンドマイクの前に立ち、ベースの位置にグロリアーナ、キーボードに菊、ドラムにエリシュカ、その横にサックスを構えるアテナが位置する。
 落とされた照明が光り輝き、そして彼女たちのステージが始まる。
 
 何に縛られているの?
 何を求め彷徨うの?
 私たちを縛る鎖などありはしない
 求めるものはいつもすぐそこにある
 気付かないのはどうして?
 もう気付かないふりをしないで
 前を見て歩き出そう

 
 多くの人に歌を聞かせられる、絶好の機会を愉しむようにギターを爪弾き、声を響かせる瑛菜。
 その瑛菜が主役であるとばかりに、ローザマリアは自ら一歩引き、瑛菜を引き立たせることを意識して演奏に浸る。
 
 いつだってフリーダム
 邪魔はさせない
 誰だろうと押し退け
 何であろうと蹴り倒す
 そうして壁は砕けて消えた
 龍も虎も私たちを隔てる事なんて出来やしない
 誰も私たちを隔てられやしない

 
 演奏が終わり、届けられる拍手と歓声に応える彼女たち。
「みんな、聞いてくれてありがとー!
 ……実はもう一曲、みんなに聞いてもらいたい歌があるんだ」
 
 マイクを持った瑛菜がそう言って、ローザマリアに「いいかな?」と尋ねるような顔を向ける。筋書きにはない流れだが、ローザマリアは詳細を聞かず視線で了承の旨を伝える。
「あたしがここに来る時、別れたバンドのメンバーに贈った曲。
 ……『忘れられないキミのコト』」
 
 ありがとう、と視線で瑛菜が応え、スポットライトを浴びた瑛菜のギターソロに乗って、別れと再会を願う歌が響く。
 
 キミはいつか忘れてしまうかもしれないけど
 あたしは生き続ける限りキミのことを忘れない
 
 もう一度会えるその日まで、あたしだけには笑顔でいて
 
 悲しい顔しないで、あたしの胸で泣いて
 まだ見ぬ世界求めて旅立つ日まで
 いつか来る日のために、あたしの胸で泣いて
 まだ見ぬ世界求めて旅立つ日まで

 
「別れ、かぁ……。
 もしかしたらの話だけど、エリーとアテナも、お別れしちゃうかもしれなかったんだよね」
 瑛菜の歌声を聞きながら、アテナがぽつり、と口にする。
 
 アテナはパラ実、元東シャンバラ。対してエリシュカはシャンバラ教導団、元西シャンバラ。
 シャンバラの統一は果たされたものの、水面下には未だ、対立していた頃の印象が燻っている。
 もしそれらが表面化すれば、こうして一緒にバンドを組むことも、出来なくなるかもしれない。
 
「うゅ、エリーとアテナはたしかに、がっこうは違うかもしれない、の。
 でも、だからって、おともだちじゃなくなっちゃうなんて悲しい、の」
 言って項垂れるエリシュカの頭に、アテナの手がポン、と被さる。
「何があっても、アテナとエリーはお友達、だよ。
 だから、そんな顔しないで、ね?」
「……うんっ」
 顔を上げたエリシュカが、泣いているとも笑っているともつかない表情を浮かべた――。
 
 涼司:9
 鋭峰:7
 コリマ:8
 アーデルハイト:8
 ハイナ:9
 静香:8
 
 合計:49
 
 
「『その年を代表する人』ですか。ではろくりんピックの折、今回に先駆けて東西シャンバラの協調の象徴になっていた『P−KO』の出番ですね! 閉会式においては、ライブをここ空京スタジアムで決行なさいましたし!
 ……まぁ、あの方々は、厳密には「年を代表する人」と申すより、「過去・現在・未来に渡って世界の全てを支配する方々」と申した方が正確であろうとは思いますが……」
「ゆ、優梨子さん、目が本気で怖いですー。
 大丈夫です、瑛菜さんとアテナさんをお呼びする時に、一緒に連れてきちゃいますー」
 
 藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)の『根回し』により、瑛菜とアテナ同様豊美ちゃんによって空京スタジアムに呼び出される、高木 陽子渡部 真奈美(わたなべ・まなみ)小倉 珠代(おぐら・たまよ)の『P−KO』のメンバーたち。
「……何か、凄いデジャヴを感じるんだけど、気のせいかしら?」
「こまけぇこたぁいいんだよ。またここでライブが出来るって思うと、ワクワクするぜ!」
「新曲も完成したことだし、これでさらに『P−KO』の存在を知ってもらえるわね」
 嘆息する陽子を尻目に、真奈美と珠代はかつて『ろくりんピック』の時に演ったあの時同様、ノリノリである。優梨子の息のかかったスタッフにより用意された衣装とステージが、彼女たちを待っていた。
「はぁ……ここまで来たら、やるしかないわよね……」
「大丈夫よ、ヨーコ。マナなんて相変わらず、足がガクガクのブルブルだったのよ」
「たまちゃん……またしても言わなくてもいいだろっ」
 
 エレンの紹介を受けて、陽子がギター、珠代がベース、真奈美がドラムの位置につく。
 この地で再び、それぞれが得意とする武器を装備し、戦闘準備を完了させる。
 
「さーあ、また巻き込まれちゃってポカンとしてる奴も、懲りずに待ち焦がれてた野朗どもも!
 つきあってもらうぜー!」
 
 そして、『P−KO』のステージが幕を開ける――。
 
『最終レンアイ兵器』
 
 地獄への道が善意でできてるんなら
 天国への道は悪意でできてるのかな?
 
 最終恋愛兵器! もうアタシは引き返せない!

 
「ヒャッハァ〜! 陽子さんが再び世界をRAKEしに参られたぜぇ〜!
 ここで俺様、スーパーエリートパラ実空京大分校生南鮪の『スーパーエリザベート拉致☆拉致大作戦!』だぜヒャッハァ〜!」
 
 光学迷彩で姿を消し、エリザベート拉致の機会を伺っていた南 鮪(みなみ・まぐろ)が、絶好の機会とばかりに用意した『飲むとだんだん気持ち良くなってくる飲み物』を審査員席へと差し入れる。
 
 鮪の計画をもってしても、有志による警備の目が光る中、通常であれば光学迷彩を纏っていても怪しまれるはずだが、今は『P−KO』のライブ中。
 この時だけは、全ての不条理や無茶が通ってしまうのである!
 
「おっ、美味そうじゃねぇか、いただくぜ」
 涼司を始め、審査員全員がそれらを一気に飲み干し、飲み物の効果でふらふらとし始める。
 流石、魔法少女が仕入れたという特別な飲み物、こうかは ばつぐんだ!
「これでこいつらは骨抜きだぜぇ〜。……おおっと、そこにいるのはエリザベートじゃねぇかぁ〜」
 鮪の目に、「ちょっとお手洗いに行ってくるですぅ」と周りの人に言い残してやって来たエリザベートが映る。
 ……ご都合的? いえいえ、『P−KO』のライブが、鮪に超常的な力を与えているのです……多分。
「今年も今日でおしまいだ、飲んで全部忘れちまいなぁ〜!」
「いい匂いがしますねぇ。いただくですぅ」
 差し出された飲み物を、何の疑いもなく飲み干したエリザベートが、途端に顔を赤くさせ、きゅう、と酔い潰れる。それを鮪がキャッチし、舌なめずりをして勝ち誇った笑みを浮かべる。
「ヒャッハァ〜! 新年は俺とエリザベートの結婚式に全員招待してやるぜェ〜!」
 外に出る通路へと駆け出す鮪、その背後では『P−KO』が作り出した阿鼻叫喚――しかし、それこそが『P−KO』である――な光景が展開されていた。
 
「俺にも歌わせろよ!」
「メガネ外したからっていい気になんな! テメェなんてメガネで十分だ!
 あと、さっさと下になんか着ろ!」
 酔っ払ったのとライブの高揚感で、ステージに上がってきた涼司を陽子が蹴り飛ばす。
 
 善意で舗装された道路でRace
 悪意いっぱいの心はRage
 
 ここが天国だっていうならRave
 地獄? どのみちまとめてRaze


「こいつは厄払いよ!」
 他の審査員も例外無く、珠代の振り抜いたベースの餌食になる。
 
 善意? 悪意?
 ねえどっちがマシだと思う?
 
 天国? 地獄?
 ねえアンタはどっちに墜ちたい?

 
「ち、違うっス! 俺はただ鮪さんに頼まれて――」
 女物のぱんつを手に喚くモヒカンに『お仕置き』の一撃を撃ち込み、豊美ちゃんが聞き覚えのある名前を耳にする。
「鮪さん、またあなたなんですね……」
 
 ちなみに豊美ちゃんも、『P−KO』のステージが生み出す世界に囚われていたが、『控え室からぱんつが盗まれている』という噂を耳にした瞬間、我を取り戻したのだ。
 豊美ちゃんにとって、ぱんつは切っても切れないキーアイテム。ましてやそれが、悪いことをしている人に盗まれる事態を、豊美ちゃんが見逃すはずがない。
 すぐさま現場に飛び込んだ豊美ちゃんは、暴れているモヒカンのヤンキーをちぎっては投げる勢いでお仕置きし、そして今、最後の一人からこの事態を作り出した張本人を突き止めたのであった。
 
 エリザベートを抱えて走る鮪の視界に、外への出口が見える。
 それは自由への扉か、それとも天国への扉か――。
 
「お久しぶりですー」
 
 突如目の前に現れる豊美ちゃんを見、鮪が急ブレーキをかけつつ驚いた表情を浮かべる。
「ゲェーッ! お、おまえはぁーッ!」
「鮪さんも懲りませんねー。もう何度目なんですかー?」
「う、うるせぇ! 俺は何度だってエリザベートを拉致ってやるぜぇ!
 それに、エリザベートは俺の手の内だぁ〜! おまえにお仕置きは喰らわないぜぇ!」
 エリザベートを見せ付けるようにする鮪、確かに、下手な攻撃ではエリザベートまで巻き込む恐れがある。
「そうですねー。もしかしたらエリザベートさんにも当たっちゃうかもしれません。
 でも、多分大丈夫だと思いますー」
「ど、どこにんな根拠があンだよ!」
 声を荒げる鮪に、豊美ちゃんがにっこり笑って、
 
「私、魔法少女ですからー」
 
 『陽乃光一貫』をぶっ放す。
「お、俺様の計画は完璧だぁーーー!!」
 そんな声を残し、鮪がスタジアムから弾き出される。
「エリザベートさん、大丈夫ですか?」
 豊美ちゃんが呼びかけると、うぅん、と声を上げ、エリザベートが目を開く。
 そして、次に放った言葉は――。
 
「……オシッコ……」
 
 ぴし、と。
 豊美ちゃんの顔が、凍りつく――。
 
「あっ、エリザベートちゃん。迷いませんでしたかぁ?」
「アスカは心配し過ぎですぅ。ぜぇんぜん、迷いませんでしたよぅ」
 明日香に答えて、エリザベートが自分の席につく。一見変わりないように見えるエリザベートだが、一点だけ違う箇所があった。
 それは――。
 
「わー、スースーしますー。半年振りくらいですかねー」
 お手洗いから出てきた豊美ちゃんが、久し振りの感覚にちょっぴり違和感を抱きつつ、また何かあった時のために出られるようにと、パッ、と姿を消す。
 
 この後エリザベートが、自分が穿いていたぱんつが違っているのに気付いたのは、翌日になってからのことである――。