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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(前編)

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【ニルヴァーナへの道】崑崙的怪異談(前編)

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【4】悪鬼羅刹……1


 陽の落ちた頃、探索隊は廃都の一画に陣を引き、野営の設営にとりかかった。
 野営の陣頭指揮を執るのは曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)中尉だ。
 隊員から集めたマッピングデータを元に付近の地図を作製。奇襲に対応出来るよう見通しの良い場所を選択する。
「この高台なら十分な広さがあるし、見通しもわるくないな」
「ええ、問題なさそうですね。ではここに拠点を設営しましょう」
 相棒の猫ゆる族マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)も同意を示した。
「まぁ何カ所か、警備上の穴があるが……。よし、そこはローテーション組んで見張りを設けよう」
 瑠樹は高台に隊員を集め、設営の指示を出す。
「1班は設営とテントの割り振りを決めてくれ。言っておくが、決定権があるからって女子と同じテントに入るなよ」
 冗談っぽく言うと、隊員からくすくすと笑みがこぼれた。
「それから2班は警備箇所の確認を頼む。ここは要になるから、大きめのテントを置いておこう。あとは……ああ、そうだ。食事係だな。まぁわざわざ調理道具を用意してるヤツもいないし仕方ない。探索前に武神のヤツが配ってたレーションでも味わってくれ。美味い飯は任務終了後に各自好き勝手食べるってーことで。はい、じゃあ皆仕事にかかって」
 パンと手を鳴らすと隊員たちはそれぞれの持ち場に向かった。
 瑠樹は瓦礫の上に座り、インスタントコーヒーを片手に一息吐いた。
「皆さんがいなくなったからって、気を抜いちゃだめですよ、りゅーき」
「わかってるって。大尉は公私混同が嫌いな人だからなぁ」
「そうですよ。隊に志願した理由がバレたら何をされるか……」
「おいおい、やめろよぉ……」
 とは言え、別段不謹慎な理由で参加しているわけでもない。
 彼の志願理由は『空京たいむちゃんがニルヴァーナに帰れるといいなぁ』と言う純粋なものだ。
 こう見えて……と言うか、マティエを見れば一目瞭然だが、ゆる族大好き人間。おまけに冒険も好きなのだ。
「設営作業は進んでいるか?」
「た、大尉!?」
 突然、やってきたメルヴィアに、瑠樹はあわてて襟元を正した。
「え、ええ、あと2時間もあれば完了します」
「ご苦労。ところで何をビクビクしている」
「そんな怖い目で睨まれちゃ誰だってビクビクしますよ」
 ルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)大尉はそう言うと、持ってきたコーヒーをメルヴィアに渡した。
「本当は酒のほうが良かったんですが、任務中ですし……うわっ」
 彼女は鞭をルースに突き付けた。
「貴様、私はまだ18だぞ。未成年に酒を進めるとどう言う神経をしている」
「じょ、冗談ですよ」
 本当に空気をピリピリさせるのがお上手な人だ……。
 常に気を張っていては部下も落ちつかないでしょうに、隊の士気が下がらなければいいのですが……。
 オレの義理の娘達と歳はそうかわらないのに……いったい何が彼女をそこまで追いつめているのか。
「失礼。一本だけ」
 そう言って、ルースは煙草に火を点けた。
「階級は同じですが、同じ任務に就くのは初めてですね。ええと、大尉はどちらの部隊に所属されてましたっけ?」
「教導団でもあまり知られていない部隊だから知らないのも無理はない。第一師団の鳥獣部隊隊長を務めている」
「ああ、新設中という噂の部隊ですか。団長が直々にスカウトされた方だそうですね。オレはミロクシャの駐在武官をしています」
「その話は知っている。おまえの所属する『鋼鉄の獅子』は帝の近衛部隊だそうだな」
「ええ、妻も駐在大使をしていまして、コンロンとは縁があるようです」
 ふぅーと煙を吐き、ルースは続けた。
「大尉、あなたが任務に真摯に取り組んでいるのはわかりますが、もうすこし部下に遊ばせてやったらどうですか?」
「なに……?」
「軍に規律は必要ですが、縛り過ぎては部下も力を発揮出来ません。任務達成に必要なのは部下ではなく味方です
 ルースは火を消し、コーヒーに口を付ける。
「かくいうオレも今回の任務を遂行するに当たって、味方にしておいて損な人材ではないと思いますよ」
「……よく喋る男だ」
「メルヴィア大尉、こちらでしたか」
 あらわれた大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)一等兵は、遥かに階級が上の面々に恐縮した様子で敬礼をした。
「各設営が滞りなく完了したとのことです」
「そうか」
 無線機を手にとり、メルヴィアは全隊に指示を出す。
『これより警備体制を夜間のものに移行。各員、交代で休息をとれ。夜間の指揮はマキャフリー大尉に任せる。以上だ』
 通話を終えた彼女はルースを見た。
「私の味方となりたいのならば能力を示せ。無能は味方にいらん」
「ご命令とあらば謹んで」
「よろしい。では、私は休む。緊急時以外は誰もよこすな」
「了解であります。では、彼女がテントまでご案内いたします。ごゆっくりお休みください」
 パートナーのヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)を紹介すると、メルヴィアは眉を寄せた。
「待て、こいつはなんだ」
「大尉殿の世話係でありますが……?」
「靴磨きやアイロン掛け、部屋の掃除、お茶だし、食器洗い……なんでもするわ」
「必要ない。と言うか、食器などない」
「付き人は女性のほうがよろしいかと思ったのですが、お気に召しませんでしたか?」
 メルヴィアは険しい目付きで2人を睨んだ。
「今、私は休むと言ったな」
「はい。この耳でしかと聞きました」
「休息とは任務中に許されるわずかな『個人』の時間だ。その時間に何故、おまえ達をテントに入れねばならんのだ」
「けど、もし何かあったら……」
「何かあったらその時に来いっ」
 メルヴィアはピシャリと言うと、テントへ向かって行った。