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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(後編)

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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(後編)

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「リュミエール、回復を手伝ってください」
 エネルギー室で、リュミエールを一番に魔法で癒し、彼が完全に意識を取り戻した後で、エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)はそう言った。
 リュミエールは無言で、命のうねりを発動する。
「格納庫に急ぎましょう」
 崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は、エネルギー炉の停止の知らせを受けてから、駆け付けた。
 龍玉の癒し、ナーシングで皆を癒し、今は優子の隣にいる。
 火薬の密集する最上層からの脱出は危険であるとから、一時避難場所として、格納庫を選択し、皆を促している。
「そうだな。急いで格納庫に向かってくれ」
 優子はいつもと変わらぬ調子でそう言ったが、顔色はひどく悪い。
「美羽さん達が、ブライドオブドラグーンをサイコキネシスで固定しているそうです」
 同じように、青い顔のベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は、パートナーの小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)から届いた報告を優子に伝えた。
「もしもの時は……美羽さん達が必ず、アルカンシェルを止めてくれます」
 ベアトリーチェの言葉に、優子は「ああ」と首を縦に振る。
「攻撃準備を始めてるにゃう。時間がないにゃう!」
 情報の送受信をして、陰ながらサポートをしていたアレクス・イクス(あれくす・いくす)が、最上層から降りてきた。
 彼から得た情報を含め、現状をエメから優子や仲間達に伝えてある。
「この要塞は今、低速で移動しているにゃう。だけど、もうすぐ本土上空を出るにゃう」
 本土上空を超えた時点で、一斉射撃が行われるそうだ。
 時間にして、あと数分。
 アレクスは説明をしながら、皆をヒールで癒し、SPリチャージ増幅パーツで強化されたSPリチャージで精神力も回復していく。
「魔導砲のエネルギーがどれくらい溜まったのかはわかりませんが、発射プログラムは止めることが出来ていません。最悪の事態も想定して、動いた方がいいでしょう」
 エメはそう言い、ジュリオとリュミエールに目を向ける。
 ジュリオは、銃型HCやビデオカメラに集めた情報を整理し皆に説明をしているアレクスを、観察するかのような目で見ていた。
「リュミエール、その箒を私に。兄さん、リュミエールをお願いします。先に二人で退避を。私は……私の仕事をします。ね、アル君」
「にゃう!」
 アレクスが元気に答える。
 ジュリオは短く「そうだな」と答えると、リュミエールを抱え上げた。
「いや、僕を置いて、皆探索に戻って」
 そんな彼の言葉に、エメは穏やかに笑って大丈夫だと告げる。
 自分の仕事は、アレクスを護って、必要な情報を伝達することだから、と。
「ん。行ってらっしゃい。後で抱きしめて「おかえり」と「ただいま」のキスしてよね」
 そして、リュミエールは弱い笑みを見せた。
「リュミエール、一瞬見捨てようとしました。……すいません」
 エメがそう謝罪をすると。
「……後でメロスみたいに殴り合う?」
 そんなことを言いながら、リュミエールはエメの頬にキスをする。
「先に行っている。……期待しているぞ」
 ジュリオはその言葉をエメというより、アレクスに残してリュミエールを連れて格納庫へと向っていった。
 リュミエールはジュリオに運ばれながら、ごめん、と小さな声で、何度も謝っていた。
 彼らしくない態度に、ジュリオは無言でガシガシ頭を撫でて慰めたりしながら、連れて行く。

「機関室の方は、ブライドオブドラグーンをすぐにでも確保できる状態のようです」
 治療を受けてすぐ、セラフィーナはテレパシーで機関室にいる鳳明と連絡をとり、互いの無事と状況を確認し合った。
 優子には、宮殿にいるレンから直接テレパシーが届き、状況が伝えられる。
 セラフィーナを通じて、宮殿のレンや機関室の鳳明と連絡をとり、互いの状況を確認していく。
『何処だ、神楽崎。何処に居るんだ!?』
 その直後に、武尊の声が館内に響き渡った。
 すぐに、制御室へも連絡を入れる。
「さ〜て」
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)が不敵な笑みを浮かべて立ち上がる。
「悪人はやっつけちゃってね!」
 ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)は、残る力を振り絞り、我は紡ぐ地の讃頌で垂を癒し、パワーブレスを施す。
「ああ」
 疲れ切って眠りに落ちていくライゼを暖かい目で見守った後。
 垂は仕込み箒に手を掛ける。
「やられっぱなしは性に合わねぇし、好き勝手やってくらたお礼だ、倍返しでくれてやるから遠慮はするなよ!!」
 抜刀し、頭上近く掲げていた刀を、振り下ろす。
 すべての能力を解放し、全力全開の真空派を放った。
 アルカンシェルは傷付けない、仲間は傷つけない。
 傷つける対象は逃げたと思われる首謀者だけ。
 姿を見たこともない人物だ。居場所も正確にはわからない。
 だから、攻撃が当たる可能性は極めて少ないが――。
 力の波動は、男の目に入っただろう。
「さて」
 垂はもう一度同じ言葉を、今度はすっきりとした笑みを浮かべて、ライゼを抱えながら優子の傍に腰かける。
「俺は最後までアルカンシェルの中にいるよ。国軍が集中攻撃を行っても、この要塞を止められるとは限らないだろ?」
「だからといって、残っていても出来ることは限られてるぞ?」
 優子のそんな言葉に、垂は笑顔でこう言う。
「その時の為の保険ってのもあるけど、それにアレだ。作戦が成功してこの要塞が使えるようになった場合、掃除をする奴が必要だろ?」
「そうか」
 と、優子もわずかに笑みを浮かべた。
「アルカンシェルの中に残ることは止めないけれど、先に格納庫に向かっておきましょう」
 亜璃珠がそう提案するが、優子は首を横に振った。
「捕らえられていた者達を連れて、先に行っていてくれ。私は魔導砲が停止するまで、ここにいる。その後、指揮官として全員を脱出させてから、自分も脱出する」
 変わらず、牙竜グラキエスが魔導砲を止める為に、動いていた。
「体は大丈夫なのか?」
「問題ない」
 竜司の問いに、優子は即答した。
「なら、オレの傍から離れるな」
 言って、竜司は優子の前に立ち、壁となる。
「ありがたいが、吉永も、崩城と格納庫で待っていてくれないか」
「いや、オレは仲間が脱出するのを見届けるまで残るぜェ。その為には、最後まで残る優子の傍から離れるわけにはいかねェ」
「優子さんが行かないのなら、私もここに残るわ」
 亜璃珠は優子の隣に座って、彼女に肩を貸す。
「私は最後まで一緒にいるつもりですわ。でもね」
 帰るのも残るのも自由だけれど。
「自分ごと、途中で投げるのは隊長のすることではないわね。それからあなたが傷つけば、私も傷つく、でしょう?」
 そんな亜璃珠の言葉に、優子は軽く苦笑する。
「キミはロイヤルガードでも、私の配下の探索隊員でもない。だから、先に避難させる義務が私にはある。……と言っても、無駄なんだろうな」
 亜璃珠に凭れながら、2人に「大丈夫だ」と一言、言い。
 それから、制御室に全館に声を流すように指示し、優子は凛とした声で残っている者達に指示を出す。
「役目を終えた者は、速やかに脱出しろ。
 外部からの援護により、脱出口は至る所に開いているはずだ。
 ――だが、私達は必ず勝利できる。
 まだ戦える者、共に命を賭した仲間を信じられる者は、操縦室に向え。
 制御室は、要塞の制御を捨て、機晶ロボットの制御を優先し、操縦室に向かった仲間に、未来を委ねろ」
 彼女の言葉に、「もう向かっている」という言葉が、多方面から制御室に届く。
 制御室にいた者達も。
 待機していたファビオも。
 優子に代わって残る意志があった、呼雪やパートナー達、尋人も。
 機関室で、出力調整とブライドオブドラグーンをサイコキネシスで抑えている者以外の、者達も。
 多くの者が最後まで諦めず、操縦室へと集った。
「アレナに電話をかけて、国軍の攻撃を止めさせろ。俺はお前と心中は御免だ」
 ゼスタが携帯電話を優子に投げた。
「私も死ぬつもりはない」
 優子は携帯電話を受け取ると、アレナに電話をかける。
 優子はアレナへ状況だけを報告する。
 判断は軍に任せると、言葉を添えて。

「皆、もうすぐ戻ってくるです。もう少し頑張るです!」
 ヴァーナーは、皆の前に出て、飛来する破片をビームで撃ち落としていた。
「待ちますわよ」
 セツカはヴァーナーや仲間を回復魔法で癒してから、もう一度アレナに清浄化をかけた。
「優子さん……隊長と連絡が取れました。要塞のコントロールは出来ていませんが、全ての重要箇所を制圧済です。今、魔導砲と要塞を着陸させるために、皆必死に頑張っています。万が一、要塞を止められなくても、目標地点である宮殿に残っているのは私達だけです。ここに一緒に残ってくれている人は、私が守ります。守りますから、命を助けてください」
 連絡を受けてすぐ、アレナは仲間に励まされながら、国軍に訴えていた。
 魔導砲がどれだけのエネルギーを蓄えているのか、どれだけの範囲を吹き飛ばす威力を持っているのは、不明だった。
 だから、軍は最終手段を取りやめることは出来ない。
 アレナへは軍から厳しい返答が届く。
 ただ、少しだけ。
 ほんの少しだけ発射を遅らせてくれるそうだ。