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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(後編)

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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(後編)

リアクション

 機関室から動力炉に続くドアも破壊されており、溢れたエネルギーが時折、流れてきている。
 流れてくるエネルギーから機器を庇いながら、契約者達は調整を試みていた。
「ドラグーンに負荷を与えることは可能か?」
 ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)は、動力源であるブライドオブドラグーンに負荷を与えることで、エネルギー乱舞に一定の方向性を持たせることは出来ないかと考えた。
「ここで行えるのは出力の調整ぐらいのようだ。出力を弱めれば、あるいは停止させれば、飛び散っているエネルギーも抑えられるだろうが……」
 答えたのは機晶技術、先端テクノロジーの知識を用い、出力調整に専念している 織部 イル(おりべ・いる)だ。
「通信機器もあるようですけれど、制御室にはまだ誰も到着していないようです」
 度会 鈴鹿(わたらい・すずか)は、内線を使って制御室や他の部屋への連絡を試みてみたが、出る者はいなかった。
「状況の連絡入れておくね。多分ここが一番進んでると思う」
 到着した鳳明がそういい、素早く銃型HCを操作する。
「で、出力の調整は出来るんだよね? 飛行中だからあまり落とせないとは思うけれど、一瞬だけなら、どうかな」
 その一瞬の間に、ブライドオブドラグーンを奪取できれば……と鳳明は思うが。
「あっ……」
 動力炉の中から、小さな悲鳴が響いてくる。
 真っ先に飛び込んだ、神代 明日香(かみしろ・あすか)が、凄まじいエネルギーが飛び散る中、召喚獣と共にブライドオブドラグーンに向かっている。
 彼女は深いダメージを負っているようだった。それでも、退かずに光で体を打たれながらも一歩ずつ、進んでいる。
「人が入れるような場所じゃないよ……っ」
 明日香の様子に、胸を痛めながら美羽は光の中になんとか見える、ブライドオブドラグーンをサイコキネシスで取れないかと試してみる。
「どうにか、外せないかなっ」
 共に、コハクもサイコキネシスを使い、美羽と一緒に取り出そうとする。
 しかし、ブライドオブドラグーンはしっかりと固定されているようで、力を合わせても、サイコキネシスでは動かすことが出来なかった。
 乱舞する光は、再び破壊された入口の方にも……一際大きな光の帯が機関室に入り込んでくる。
 バチッ!
 しかし、その光は中には届かなかった。
「お待たせ。皆大丈夫?」
 飛び込んできた、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が入口の前に立ち、身を盾にしてエネルギーから皆と機器を守った。
 ルカルカは痛みに耐えながら微笑んでいる。
「大丈夫。これからだよっ!」
 鳳明の威勢のいい返事に、ルカルカは強く頷く。
「速度が出ているようだが、もう少し動力を抑えることはできないか?」
 コンピューターに精通しているダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が、調整に当たっているイルに尋ね、機器の確認を急ぐ。
「出来ないことはない。だが、すぐに元に戻されてしまう。おそらくは、制御室の干渉だ」
 これまでもイルは何度か出力の調整を試みてみたが、落した後、自動的に高出力に切り替わる。
 つまり、短い間落すことは可能だが、その直後に更に凄まじいエネルギーが飛び散ることになるのだ。
「そうか。その制御室からの命令の支配をまずブロックする必要がある」
 ダリルは機器類を確認し、通信回線を調べてみるが――。
「それらしい回線はない。となると」
 どうやら直接動力炉に干渉しているようだ。
「動力炉上部に、上層の制御室に向かっている配管があるはずだ。通信回線を断て」
 ダリルは振り返って、炉の前に立つルカルカに言う。
「無茶な……」
 ルカルカは動力炉に目を向けるが、上部には沢山の管がある。
 通信ケーブルが入っている管がどれなのかはわからない。
「線だけを切ればいいんだね。私、やれるよ」
 答えたのは鳳明だ。
 鳳明は光条兵器を持っている。刃はないが、配管を通過させ、中身だけにダメージを与えることは可能なはずだ。配管の中身がエネルギーならば斬っても途切れるものではないから、問題はない。
「では、動力を可能な限り落してくれ」
 ヴァルが動力炉へと向かう。
「うしっ、取ってくればいいんだね?」
 テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)は、青い顔で待機している皆川 陽(みなかわ・よう)に笑顔で尋ねる。
「タイムリミット限界の時に、確保できるようにしないとね」
 動力炉の中にいる明日香は今にも倒れそうな状態だ。
 出力を落としても、人が入れる状態になるわけではない。
 炉の中は、いわば、ボイラーの中。燃焼室に入ろうとしているようなものだ。
「制御室からはまだ制圧したという連絡はないのですよね」
 鈴鹿が眉を顰める。
 機関室を訪れたメンバーは、慎重に進むことよりも、到着と制御を優先した。
 人数も多く、機晶ロボットの対処に専念する者、調整に専念する者もおり、一番早い段階で目的に到達出来ていた。
 だが、今、出力を停止させることは出来ない。
 ギリギリまで待って、確保し、脱出を目指そうと仲間内では話し合っていたけれど……。
「では、すぐに確保できる状態にしましょう。ですが、まだ取らないでください」
 鈴鹿は皆にそうお願いをする。
 皆の頷きを確認した後、パートナーのイルに目を向ける。
「いくぞ。合図を頼む」
 イルが装置に触れて、合図を待つ。
「援護するぜ!」
「ルカ、盾役変わるぜっ! 俺達が防ぐから作業に集中してくれ」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)と、夏侯 淵(かこう・えん)が到着をし、ルカルカに代わって、入口の傍と機器の前に立つ。
「行くぜ、皆!」
 カルキノスはクライ・ハヴォックで、皆の物理攻撃力を上げる。
「うん、それじゃ、行くわよ。……出力、落として」
 ルカルカが状況を見ながら合図を出し、イルが出力を低下させる。
「GO!」
 続いて、手と声で合図を出す。
 ヴァル、テディ、鳳明が中へと飛び込んだ。
「痛……くないっ!」
 光の鞭が、テディの身体を打ったが、テディはへっちゃらだった。
 愛の為なら全然平気だ。早く目的を果たして、愛しのマイ・ダーリンの元に戻ることだけを考えて直進。
「くっ……」
 ヴァルは、一歩一歩、踏みしめて前へと進む。
 身体が焼けていくような感覚を受けながら。時には、光の刃で切り裂かれるような感覚を受けながらも。
 沼の中を進んでいるかのように、身体が重い。
 呼吸さえも忘れそうな圧迫感を感じながらも進んでいく。
「あの、配管、かな……」
 鳳明は2人の後ろから、光条兵器を手に見定めていく。
 ブライドオブドラグーンは台座に固定され、上方に向かってエネルギーを放出している。
 そのエネルギーを通す配管の他に、装置から伸びている管がいくつかある。
 まっすぐ上に向かい、壁の中へともぐりこんでいる配管に、鳳鳴は目星をつけた。
「はあ……はあ……」
 最初に装置にたどり着いたのは、明日香だった。
 バチッ
 彼女の小さな手は、ブライドオブドラグーンの傍で弾かれてしまう。
「あっ」
「うっ」
 直後に、動力が上昇していく。制御室にコントロールされたらしい。
 バチバチと、光が乱舞する。
「……ヴァル、僕の分も、お願いします」
 動力炉入口側で、キリカはそう言ったかと思うと、ヴァルの背と仲間にサクリファイス。
「っ……いくよっ!」
 鳳明は守りを捨てて、神速で走る。プロミネンストリックで飛んで、配管に光条兵器を振り下ろし、中身を切断する。
「イル様、もう一度出力を下げてください」
「よし、治まれよ」
 イルが出力を抑える。
「守りたい人が、いるんですぅ……。だから、必要なんですぅ」
 明日香は装置にブリザードを放った。エネルギーが氷にぶち当たって軽減される。
 そして、明日香は手を伸ばし、ブライドオブドラグーンを両手で包む。凄まじい衝撃が明日香の身体の中を駆け巡る。
「そのまま、そのままー! がまんがまん!」
 テディが矢を放ち、固定しているベルトを切った。
「もう離して大丈夫よ!」
「サイコキネシスで固定するから!」
「早く戻って!」
 ルカルカと美羽、コハクが大声で呼びかける。
 明日香はブライドオブドラグーンから手を離した途端、意識を失う。
 ヴァルは彼女を抱き上げて、ブライドオブドラグーンから背を向ける。
 背で光の鞭を受け、彼女を護りながら入口へ走った。
「よーし、到着。戻ったよ、へへ」
 テディはボロボロになりながら、愛する人――陽の元へと戻る。
「お疲れ様っ」
 陽は完全回復で、テディを一気に回復させた。
「大丈夫ですか」
 鈴鹿は明日香をナーシング、ヒールで癒していく。
 ヴァルは鈴鹿に明日香を預けると、入口で倒れているパートナーのキリカを抱え上げる。
 サクリファイスを使ったキリカは、そう簡単には回復しない。
「あの……皆を守ってくれてありがとう」
 陽がそう言って、キリカに手を伸ばし、復活の魔法をかけた。
「すまない。いや、ありがとう」
 ヴァルが礼をいう。
「ブライドオブドラグーンは、取り外しておくことは出来ないのか?」
 淵がダリルを守りながら尋ねる。
「蓄積されているエネルギーで、短時間の飛行は可能かもしれないが、その制御はここでは行えない」
 だから今は、取り外せないとダリルは説明をする。
「サイコキネシスを使える人は、固定を交代で行って。戦える人は、機晶ロボットの対処を手伝って!」
 言いながら、ルカルカは――その場にいる者達は、仲間からの報告を待つ。
 最初に届くのは、操縦に成功したという報告か、制御に成功したという報告か。
 それとも、緊急脱出命令か……。